mark.jpg オン・デマンド
実験室
(Top Page に戻る)


目次
実験にあたって 1999年12月
情報源 1999年12月
出揃ってきたサービス 2000年3月
初めての書籍を刊行 2000年6月
風響社オンデマンド(FOD)シリーズ 2000年10月

実験にあたって

 すでにご存じの方も多いでしょうが、コピー機に製本機能がついたような印刷機をもとに、最近オン・デマンド出版の事業化が進められています。これはことによると千年紀最後の大発明となるかもしれません。つまり、本を1冊から作ることの出来る技術だからです。

 グーテンベルク以来、印刷技術はひたすら大量生産の効率を追求してきました。現在のオフセット印刷では、たくさん刷れば刷るほど、1部あたりの単価が安くなりますから、出版するものはいきおい大部数の企画を追求することになります。

 その結果、マスプロ・マスセールの構造が出来上がり、学術書をはじめ少部数の出版が排除される現状となっています。

 オン・デマンド出版は、デジタル原稿を(紙の原稿ならスキャンして)準備すれば、読者の注文に応じて1冊単位で瞬時に本を作ることが出来ます。これによって、従来採算が取れないとされてきた企画や再版が難しかった絶版本の復刻などに、出版のチャンスが生まれたわけです。

 もちろん、現在始まったばかりですから、版下がそろっている復刻本でも、例えばB6判360頁で定価が5000円と、娯楽本のたぐいなら割高感があります。でも、学術書や資料集などで、A5判400頁で6000円程度であれば妥当なところではないでしょうか。

 業界の情報を総合すれば、300部以上なら従来のオフセットの方が安い、とのことですが、学術出版の中には300部以下でも出版すべき内容はいくらでもあるように思われます。また、在庫負担のないことや、改訂版の容易さを考えると、一概に300部以下のみの技術とばかりも言えないでしょう。

 欧米でのオン・デマンド出版の先駆者の一人として著名なスウェーデンの詩人ペーテル・クルマン氏は、作家自らが出版のシステムを手に入れることにより、市場から排除されつつある文学書を守ろうという運動を展開しています。11月22日には紀伊国屋ホールで彼を交えたシンポジウムも開かれました。

 インターネットと同様、誰でも発信できる技術の普及は、それを独占してきた業界には脅威かもしれません。著者が読者に直接パブリッシュする時代とは、出版社、なかんずく私たち小出版の存在意義が問い直される時代でもあると思います。

 小社ではそうした問いを基本としながら、とりあえず、この技術のさまざまな可能性を探っていくつもりでおります。新しい「革袋」には新しい「酒」が必要です。この実験に興味や関心のある方は、是非ご連絡下さい。お待ちいたしております。

風響社(ご連絡はここへ)

情報源

 日本のオン・デマンド出版に関する主なサイトには以下のものがあり、トーハンも12月には事業を開始する予定です。また紀伊国屋書店や図書館流通センターは図書館や大学向けの復刻サービスを行う方向で動いています。

ブッキング

本とコンピュータ

参考書 季刊『本とコンピュータ』10(発売:トランスアート、99年秋号)

出揃ってきたサービス

 オンデマンド印刷技術を利用した出版サービスが、ここにきてかなり出揃ってきました。日販系のブッキングに遅れてトーハン系のデジタル・パブリッシング・サービスが運営を開始しましたし、富士ゼロックスのブック・パークを利用したものでは、作家自らが著作物を切り売りする、『小松左京全集』や村上龍の『共生虫』、さらに関西学院大学出版会の学位論文登録・出版・販売サービスなどが目に付きます。

 この萌芽的な動きから透けて見えるのは、コンテンツがダイレクトに発信・受信される社会です。すでにインターネット・カラオケでおなじみのように、受信装置さえあれば、好きなタイトルが好きな順番で安価に入手できる環境ですから、利用者にとっては夢のような時代です。

 一方、発信者はどうでしょう。関学出版会の試みのように、いままで敷居が高かった版元、価格が高かった自費出版、など利用せずとも、自らの学位論文が「出版物」となるわけですから、夢のようでもありますが、流行作家のように著作権が高く売れていた先生方にとっては、マイナス面も出てくるでしょう。

 一番割を食うのは、発信・受信の中継を生業としてきた、版元・取次・書店であることは明白です。いち早くトーハン・日販・紀伊国屋など大資本が動き、関学出版会など目端の利いた中資本が追随し、これにヤマト運輸やセブン・イレブン、トッパン・大日本など関連業者が参画するわけですから、街の本屋さんや赤鉛筆片手にゲラと格闘している小出版などは、あっという間に置いてけぼり状態でしょう。

 環境の激変で絶滅したのは巨大なマンモスばかりではなく、小さな動植物もあったはずですが、時代を象徴するのは自己改革できなかった巨大企業ということになるのでしょう。滅びゆく産業の最後の担い手として「赤鉛筆とともに討ち死にだ!」などと、居酒屋で空しく叫ぶ先輩・同輩を慰めるすべもありません。明日は我が身の無名戦士なのですから。

 でもご心配なく(誰も心配などしてない!?)。風響社などはタンポポの種のように、あまりに零細すぎて時代の風にふらふらと乗って、案外しぶとく生き延びるかもしれません。

 オンデマンドがけっして大資本有利の技術ではないように、大量生産・大量消費の流れは確実に適正規模の循環型へと移行していかざるを得ないでしょう。学術成果が細分化していく中で、こうした社会と技術の小規模・多様化の動きをすくい取りながら、仕事が出来ればと考える日々です。

 皆様からのご意見・ご質問などお待ちしております。(ご連絡はここへ)

初めての書籍を刊行

 厳密に言うとオンデマンド印刷を利用した少部数の出版物ですが、編者のご協力を得て技術のテストをかねて刊行いたしました。『日本の家族における親と娘 日本海沿岸地域における調査研究』(植野弘子・蓼沼康子編、A5判・並製・カバー、152頁、本体1500円)という、アジア研究報告シリーズの1冊です。

 実際に製作してみると、文字コードの問題、データと作成ソフトやOSのバージョン等、通常のデータ入稿と同様の問題が出てきましたが、なんとかクリアできました。全体としては、若干のミスは残ったものの、仕上がりはまずまずというところでした。

 小社では、外字の多用、多言語の使用、写真・図表など、クリアしなければならない問題が多々ありますので、少部数ならオンデマンド印刷で、という訳にもいきませんが、企画内容によっては有力なオプションを得た感があります。

 ただ、改めて感じたことは、旧版のデータ保存の問題です。オンデマンド出版では、現在のところ絶版本の復刻が主要な活用法となっているようですが、原本をスキャンして作ったものは、やはり活字がざらざらしていかにも復刻本という例が多いようです。

 小社でも在庫切れの本の再版にオンデマンドの技術をと考えましたが、すでに10年近くたってしまった書籍のDTPデータを利用しようとしても、すでに作成したソフトやハードがお蔵入りになっているため、そのまま使えないのです。

 もちろん、DOSのDTPラインやWin3.1のラインも、また68Kマックのラインもまだ捨ててはいませんので、埃を払って使おうと思えば使えなくもないのですが、やはり不便だし、いつダウンするかという不安もあります。

 クウォークやページメーカーだけで作成していれば、バージョンアップの都度、旧版のデータを更新していくことでクリアできますが、点数が増えてくればそれもままにはなりません。最近脚光を浴びているXMLにしても、どれだけプラットフォームとなっていくか未知数ですから、零細版元としては悩むところです。

 とりあえず出来ることは、プレーンなテキストファイルを確実に残すこと。それから、なんらかのマークアップ付きのテキストファイルを残しておけば、置換・変換で使える可能性があります。

 それにしても、図表や写真のデータはどうすればいいのか。LPレコードの山を抱えてプレーヤーの寿命の心配をしている世代(幸いビデオはベータを買わずにすんだ幸運者ですが)としては、心安からざる21世紀の幕開け、というところです。

 以上、簡単ながらご報告まで。

風響社オンデマンド(FOD)

 オンデマンド印刷の技術を利用した小社独自のシリーズを開始しました。といいましても、これは造本スタイルを同じくするだけで、主題・内容に必ずしも関連があるものではありません。それでも小社の本ですから、おのずと限られた分野に集中していくことは間違いありませんので、風響社オンデマンド(FOD)と名付けてみました。

 ということで、デビュー作は『日本統治下ミクロネシア文献目録』(山口洋兒編、2000年9月30日刊行)、風響社オンデマンド(FOD)・イン・太平洋の第一弾、とあいなりました。

 注目の造本スタイルは、A5判並製・函入り・函カバー付きというものです。416頁の本文・索引・資料に見返しの地図など、ぎっしり詰まった本体をグラシンに包み、カラー印刷ビニールコーティングのカバーや帯をつけた函にきちんと収めた、美しい仕上げです。

 これなら、書棚にもしっかり並び、保存・携帯に問題ありません。上製本と並べても遜色ないレベルといえましょう。学術書として21世紀のスタイルを提示したのではないか、と自画自賛しているところです。

 現状のオンデマンド出版技術の最大のネックは、上製本に対応していないことです。デジタル・パブリッシング・サービスの話では、上製も別工程で可能になるそうですが、仕上がりには改良の余地が大きいようですので、当面小社はFODスタイルを取っていくことにいたします。

 本文の写真が鮮明でなかったことなど、問題点は残りますが、マスプロ・マスセールにはなじまない学術出版の、新たなスタイル・選択肢を持ち得たことになります。

 少部数の出版に果敢に対応する風響社の試みに、今後もどうかご注目下さい。

(今回のメッセージは、チラシ作成と並行して作業したため、どうも宣伝めいてしまいました。あしからずご了承のほどを。)
 



top page | News/新刊 | 刊行リスト | 目録ダウンロード
風響社通信 | ご注文は | リンク集 | フィールドから
広場 | 書評 | 研究会情報

Fukyosha Publishing Inc.