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5月13日からウラジオストクにおります。 昨年の二ヶ月間の文部省在外短期研究調査派遣に引き続き、今回は小渕フェローシップ派遣で6ヶ月間こちらに滞在して調査をすることになりました。実は1996年に、同市で(旧ソ連圏で国内移動に必要とされた)国内パスポートにおける民族籍の選択状況を調査した関係から〔百瀬 1999〕、昨年はそれをもう少し広げ、最近の動向をも含めた「国内外への労働力移動」をテーマに基礎調査を行いました。この際、所謂「裏」テーマを設定していったのですが、今回はそちらの方が「表」になったというところでしょうか。
1991年、ソビエト社会主義共和国連邦がロシア連邦となってから現在に至るまで、この国は様々な形で試行錯誤を繰り返しているようです。特に社会主義から資本主義への社会システム上の転換は、従来「存在しなかった」とされる低所得者層を生みだし、新たな社会救済システム構築の必要性が生じています。実際、1992年以降、社会救済の必要上から多くの法律が公布されたものの、必ずしも軌道にはのっていないようです。このような状況のもとに、旧ソ連時代に「恵まれていた」とされる女性労働者の出産・育児休暇、シングルマザーへの保護も、福祉や貧困の問題として取り扱われるようになりました。
前回は、1992年に同市に初めて設置された「福祉課」での取り組みを、新しい法律とともに紹介しました〔百瀬 2001〕。今回の調査では、上記の女性労働者と並んでロシアでの福祉のもう一つの柱である、年金生活者(夏場は別荘で自給自足、高齢者の餓死が社会問題化)をテーマとすることになりました。どうも国家の保障が十分ではない分、従来指摘されてきたロシア人による独自のネットワークが、何らかの社会救済機能を果たしているようなのですが、外国人にはなかなか理解し難い部分があります。今回はそれを高齢者との関係に限って調べたいと考えています。最終的には、ロシア人のこのネットワークの中に、先住民がどのような形で組み込まれているかを知りたいのですが、どちらにしても長い道のりになりそうです。
ダニ脳炎の流行と種まき・耕作が一段落する頃、彼らの別荘として有名な「ダーチャ」(とはいっても数百軒ほど並んでいる)で、草むしりをしながらアンケート調査をしようと考えています。最後には豚をさばくところまでやってみたいのですが。
さて、現在日本語を話さない日々を送っているためか(普段そのような文章を書くことは殆ど無いのですが)、「日記」代わりに日常起こったことなどを文章にしたためています。風響社の石井さんからのリクエストを受けて、ここにその文章の一部を、私の「ウラジオストク通信」として皆さんにご紹介したいと思います。
百瀬 響 1999 「ロシア先住民の民族籍の選択:ヤクーツクとウラジオストクの事例」
青柳清隆・松山利夫編『先住民と都市:人類学の新しい地平』 青木書店 pp.121−141
Hibiki Momose 2001 ”The Social Relief System for Single Mothers
and their Children in Russia: the Case Study of Vladivostok City”『北海道生涯学習研究』1号 pp.99−108.
ウラジオストク通信
「知事選挙翌日」2001/05/28
ウラジオに到着した当初は、3日に一度は断水していたのに、この1週間ほど断水が無かったので、冗談で「選挙前だからね」などと言っていたら、本当に冗談ではなかった事に気付かされた。昨日の日曜の選挙結果が出た今日、早速郊外のお湯の供給が中止されたのである*。郊外、私が住んでいるペルヴォマイスキー地区が最初の供給中止区となった。期間は秋まで。恐らく次の選挙が終わったらお湯の断水は中心地区にまで及ぶのではないだろうか(……この文章を書いて程なくしてから、お湯の供給は全市で中止された)。それにしても露骨である。分り易すぎるというか何というか。「仕方がない」と言って大人しく従っているロシア人も不思議ではあるが。
さて、選挙結果は上位2名の決戦投票となり、次回は6月18日だという。二人のうちの一人、2年前の知事であった彼は高齢者、特に「ばあさん」に人気があるとかで、比較的若い層は、彼の選出を非常に嘆いていた。曰く「軍人上がりの愚か者」、「あご」、「エクストラセンス」(辞書には「超能力者」とあるが、ちょっと頭が宇宙に行っている変わり者という意味でも使っているような雰囲気である。「霊気」治療者などにも使う)と散々である。「でもお婆さんに人気があるのでしょう?」と聞いたら、何でも彼の知事時代に高齢者の年金に一月「たった80ルーブル」上乗せしたそうである──お陰でこの間医者は無給だったそうだが**。
「80ルーブル」、日本円にして320円。卵20ルーブル、アメリカ産ブロイラー鳥足74ルーブル、ヒラメ28ルーブル、3.2%牛乳18ルーブル、そして自由市場の蜂蜜が大体80ルーブル(以上全て1kgの値段)というところだろうか。ハーブ入り黒パン「バラジンスキー」1斤(直径約20cm)8ルーブル。バス賃は市内一律5ルーブル***。ちなみにトイレットペーパー(もちろん茶チリ)1巻が約4ルーブルである。年金のほぼ全てが「家賃」に消えるという現在、高齢者──特に身寄りの無い老人──には決して少ない額ではないのだろう。
対立候補はロシアンマフィアという噂もあるものの(これもどうも、「金持ちはマフィアと何らかの付合いがあるに違いない」という意味のようだ)、若くして大豆加工工場で成功し、多くの会社を所有する大金持ちとかで、アカデミーのブレインを何人も持っているのだとか。
ちなみに現在、私の共同研究者兼指導教官は骨折で入院中。手術翌々日、病院から投票したそうだが、そういう市民の政治への「生真面目さ」やシステムの立派さが報われないところも、ロシアらしいと言えるのかも知れない。何はともあれ、私も取りあえずは今後の風呂の心配をしなくては。
*市内は郊外に至るまで高層住宅が林立し(多摩ニュータウンの感あり)、集中暖房・上下水道(水と湯)が供給されている。これらの料金は現在、月一律同一料金だそうで、電気・電話そして家賃がこれに加わる。30年近く前に建設されたこれらの建物は、老朽化が進み、水道管もよくトラブルを起こす。ちなみに現在滞在中の我が家もトイレの水が(全開ではないが)流れっぱなしで、流石に不安になって水道料を確認したところ「一律料金だから大丈夫」と言われた次第である。
**よく確認してみたところ、この「無給」とは不当に安い他の公務員並の給料であったという意味らしい。ちなみに大学の講師レベルで、月給はおおよそ$50。「給料だけでは満足に食べていけない」現状だという。
***同市における他の公共交通機関として、無料のトロリーバスがある。この翌日知ったのだが、トロリーバスの運行軌道が「電力節約」のためにカットされ、半分になっていた(通勤時間は平常運転)。お陰でバスの混雑と交通渋滞はさらにひどくなった感がある。
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