目次
第Ⅰ部 序論
第1章 問題の所在
第2章 調査地概況
第Ⅱ部 土地、地図、アイデンティティ
第3章 土地所有をめぐる現実
──保留地継承・分配制度の現代的諸相
第4章 故郷への帰還──ルーツ探し活動の民族誌
第5章 地図作製調査──メディアと想像力
第6章 地図作製のアポリア
第Ⅲ部 グローバル化、国家制度、現地社会
第7章 グローバル化の中の原住民族運動
第8章 「原住民族自治」への現実
──「原住民族自治区法」草案
第9章 現代台湾の多文化主義と先住権の行方
──土地返還運動
第10章 〈原住民族〉という理念と現地社会の現実
第Ⅳ部 結論 先住民族と人類学
あとがき
参考文献
AppendixⅠ 関係史年表(台湾史・原住民史・土地制度史)
AppendixⅡ 台湾原住民族権利宣言
AppendixⅢ 「新しいパートナーシップ」および「再肯定協定」
AppendixⅣ 原住民族基本法
AppendixⅤ 主要ブヌン語(南部方言中心)
索引
内容説明
原住民の先住性は、土地所有権において焦点化される。植民地時代、国民党支配の中で失われた父祖の地とそこにまつわるアイデンティティ。「国家」による簒奪から、土地とルーツを回復すべく活動を続けた民族の歴史を、様々な視点から描いた労作。
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まえがき
本書は、台湾に住むオーストロネシア語族系先住者集団の現代的な生活、その中でもとくに土地をめぐって展開されてきた権利回復要求をめぐる状況を記述・分析した人類学的研究である。具体的には、かつて台湾中部山岳地帯をその勢力下においていた「ブヌン」(〈布農(族)〉)を調査研究の対象とした。
本書が提示するデータの多くは、筆者が1999年夏から2009年夏までに台湾各地で断続的に行った延べ40ヶ月(約3年)以上にわたる現地調査にもとづいている。筆者は1999年夏以来、ほぼ毎年、短期あるいは中・長期にわたって台湾中西部および東南部(2002年夏?)のブヌン諸集落で参与観察にもとづく人類学的な現地調査を実施してきた。とくに1999年夏および2000年夏には修士論文執筆のために、また2002年夏さらには2003年春から2005年秋にかけては博士論文執筆のために(途中の一時帰国を除き)約2年の長期滞在による現地調査を行った。このような長期滞在で入手した資料・データを筆者はこれまでに、国内外で発表してきた。それらの成果を基礎とし、また後の短期的な補足調査(2006年、2007年など)をもとにして完成させたのが、筆者が2007年8月に東京都立大学大学院社会科学研究科に提出し、2008年2月28日に受理された博士学位論文『現代台湾を生きる先住民─ブヌン族による土地をめぐる権利回復運動の人類学』であった。
本書は、同学位論文を基礎とし、さらなる補足調査ならびに関連研究の参照を通じて、加筆・修正したものである。その内容は、現代における台湾原住民社会およびブヌン社会の概況、外来政権による土地政策の歴史、保留地の継承・分配をめぐる現状、かつての居住地へのルーツ探し活動や将来における土地回復を見据えた地図作製プロジェクト、グローバルな先住民族運動と台湾の原住民族運動の連関、中華民国憲法体制とオーストロネシア語族系の人々の「先住者としての諸権利」(いわゆる「先住権」)の問題、国家アイデンティティや土地にかんする権利回復運動をめぐってさまざまな立場の人々が各々の主張を展開する複雑な状況、といった極めて多岐にわたるものである。一人の人間が、さまざまな情報・人・モノが行き交う複雑な社会の状況を描き出すことには多大な困難が付きまとう。しかし、こうした混沌とした社会のありようを、人・土地・歴史・現在・制度といった主要テーマを道標として、少しでも見透しが利くように(筆者なりに)描き直したつもりである。本書の出版が、台湾のオーストロネシア語族系の人々が置かれてきた歴史とその現状を一人でも多くの読者が理解する際の手助けとなれば幸いである。
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著者紹介
石 垣 直(いしがき・なおき)
1975年生まれ。沖縄国際大学 講師。
東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会人類学)。
日本学術振興会特別研究員PDなどをへて、2010年から現職。専門は、社会人類学、台湾地域研究、沖縄地域研究。
論文に「土地所有をめぐる現実――台湾・ブヌン社会における保留地継承・分配制度の現代的諸相」『アジア・アフリカ言語文化研究』77、「現代台湾の多文化主義と先住権の行方――〈原住民族〉による土地をめぐる権利回復運動の事例から」『日本台湾学会報』9、「「部落地圖」調査之省思――以布農族之内本鹿調査爲例」『東台灣研究』10など。