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現代マオリと「先住民の運動」

土地・海・都市そして環境

現代マオリと「先住民の運動」

権利の回復や獲得、組織化された社会運動といった従来の観点を離れ、マオリの七つの「先住民の運動」から、多様な先住性のを探る。

著者 深山 直子
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学専刊
出版年月日 2012/02/20
ISBN 9784894891814
判型・ページ数 A5・320ページ
定価 本体6,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき

序章
 第一節 本書の射程――「先住民の運動」を論じるということ
 第二節 マオリ研究史
 第三節 マオリ研究の現状
 第四節 現代マオリ社会の概要

第Ⅰ部 土地を巡る運動

第一章 植民地化史
 第一節 プレ・コンタクト時代
 第二節 ヨーロッパ人との邂逅とワイタンギ条約の締結
 第三節 ワイタンギ条約の内容と問題点
 第四節 土地収奪の進展

第二章 抵抗運動から政治参加への展開
 第一節 分離主義的抵抗運動
 第二節 政治参加による統合主義的運動
 第三節 汎マオリ組織の形成

第三章 土地奪還に向けた運動
 第一節 アクティヴィズムの高揚
 第二節 マオリ政策の転換
 第三節 土地を巡る訴訟活動の活発化

第Ⅱ部 海を巡る運動

第四章 海を巡る権利の収奪
 第一節 プレ・コンタクト時代のマオリと海
 第二節 司法制度におけるマオリの漁業の位置付け

第五章 マオリ漁業権獲得に向けた運動
 第一節 テ・ウェエヒ裁判
 第二節 漁獲高割り当て管理システムの導入
 第三節 マオリ漁業権の確定と獲得
 第四節 商業的漁業権の分配

第六章 前浜及び海底の所有権確立に向けた運動
 第一節 ンガーティ・アパ裁判
 第二節 政府の方針決定に対する反対
 第三節 立法化の加速に対する最終的抵抗

第Ⅲ部 都市を巡る運動、そして環境を巡る運動へ

第七章 都市マオリ集団による先住権獲得に向けた運動
 第一節 マオリ社会の都市化
 第二節 オークランドへのマオリの移入
 第三節 都市マオリ集団テ・ファーナウ・オ・ワイパレイラ

第八章 都市マオリ・コミュニティにおけるマラエ創設に向けた運動
 第一節 パパクラ郡概史とその地政学的特徴
 第二節 パパクラ・マラエ創設の経緯
 第三節 交渉過程としてのマラエ創設

第九章 都市マオリ・ティーンエイジャーによるオルタナティヴなマオリ・アイデンティティ形成に向けた胎動
 第一節 「伝統的」マオリ・アイデンティティ
 第二節 パパクラにおける都市マオリ・ティーンエイジャー
 第三節 新たなマオリ・アイデンティティの形成

第一〇章 環境を巡る運動
 第一節 環境保護意識の高揚
 第二節 マオリ環境思想の再編
 第三節 一九九一年資源管理法とマオリ社会
 第四節 遺伝子組み換え問題とマオリ

終章
 第一節 「先住民の運動」の分析
 第二節 考察
 第三節 「交渉的かつ開放的」先住性に向けて

あとがき

参考文献
写真・図表・資料一覧
本書における主要マオリ語語彙(50音順)
索引
 一般事項
 人名
 法律・裁判・法的/政治的報告書/資料

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内容説明

 

アオテアロア(白く長い雲のたなびく地)に生きる、ニュージーランドの先住民マオリの現在。権利の回復や獲得、組織化された社会運動といった従来の観点を離れ、マオリが展開してきた七つの「先住民の運動」から、多様な先住性のありようを探る。

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まえがきより
本書は、ニュージーランド・マオリの「先住民の運動」について、歴史的変遷を理解した上で、現代的実態を捉えることを目的とした人類学的研究である。
「先住民の運動」という多少聞きなれない言葉を使用する理由については、序章の冒頭で述べたのでそちらを参照して頂きたいが、その言葉を軸に、訴訟活動や政治運動に並行して組織や制度から一線を画す「運動」をも捉えることこそが、現代を生きる先住民を考える上で重要であると思い、執筆に至った。本書は、緩やかに時系列に並んだ第Ⅰ部『土地を巡る運動』、第Ⅱ部『海を巡る運動』、第Ⅲ部『都市を巡る運動、そして環境を巡る運動へ』という三部と、それを挟む序章、終章によって構成されている。各部でマオリが展開してきた「先住民の運動」を具体的に取り上げ、その特徴とそれが提起する問題を捉えるべく、ミクロからマクロまで多様な視点から論じている。
筆者は二〇〇三年から二〇〇七年まで、ニュージーランドで六回にわたって計約二〇ヶ月の現地調査を行った。そこで収集した一次資料並びに二次資料を基に研究を進め、二〇〇九年二月に東京都立大学大学院社会科学研究科において博士学位論文『現代ニュージーランドにおける先住民マオリの運動に関する社会人類学的研究』が受理された。本書はそれに加筆・修正を行ったものである。
先住民は独自の社会・文化をもっているのみならず、望まずして先住民になったがゆえに複雑な歴史を背負い、特殊な法的・政治的・経済的・社会的状況に位置付けられている。よって、彼/彼女らがどのような存在なのか、ということをバランスよく理解することは難しい。しかしながらそれを試みることは、先住民ではない者が「あたりまえ」であると思い疑問に付さない物事が、実は「あたりまえ」ではないと知ることに他ならない。本書を手に取って下さった方々が、そのスリルと重みを感じ、その先に「先住民の運動」のただなかで同時代を生きている等身大のマオリたちをおぼろげでも描いて頂けたのならば、筆者にとってそれ以上の喜びはない。
なお、本文中の写真の提示とマオリ語の表記に関して、一言添えたい。
本書は社会人類学的研究書であるにも関わらず、提示された写真の数が少ない。それは、近年しばしば話題になり、マオリもまた敏感になっている肖像権、意匠権等に配慮したためである。序章を参照して頂くとその背景が多少ご理解頂けるように思うが、この点についてはご容赦頂きたい。
マオリ語の母音には、長母音と短母音があり、長母音はマクロンを付けて「ā,ē,ī,ō,ū」と表記することが一般的になってきている。本書では基本的にそのような長母音には、長音符号「ー」で対応している(ハプー、ファーナウなど)。本来ならばマオリ(Māori)という名称も「マーオリ」と表記されるべきだが、日本では「マオリ」という表記が定着しているために、例外的に長音符号を用いていない。とはいえ、ニュージーランドでも長母音の表記方法は統一されておらず、マクロンがつかずに短母音と見分けがつかない場合や、母音を二つ並べて表記する場合(aaなど)もある。従って、同じ単語でも表記方法にばらつきがあるわけだが、本書ではマオリ語が含まれる固有名詞等をローマ字で表記する場合には、できるだけ当事者の表記方法をそのまま採用するように心がけた。さらに「ng」で始まる鼻濁音は、「ンガ」「ンギ」など、発音が近い表記方法で対応している。
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著者紹介
深山直子(ふかやま・なおこ)
1976年生まれ。東京経済大学専任講師。
東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会人類学)。
日本学術振興会特別研究員(PD)などを経て、2011年から現職。専門は、社会人類学、先住民研究、オセアニア研究、沖縄研究。
論文に、「ニュージーランドにおける環境政策の改革」『オセアニア学』(2009年)、「『自然環境の守り人』としてのマオリ――遺伝子組み換え問題を事例に」『開発と先住民』(2009年)、“Securing a Tūrangawaewae in the Urban Area: A Case Analysis of the Establishment of Papakura Marae” People and Culture in Oceania 25(2009年)など。

 

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