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フィールドに出かけよう!

住まいと暮らしのフィールドワーク

フィールドに出かけよう!

建築家が住宅を見る時、一本の柱からも様々な情報を読みとる。道具や技法を紹介し、建築学における実地調査の意義を伝える。

著者 日本建築学会
ジャンル 建築・映像・芸術
シリーズ 風響社あじあブックス
出版年月日 2012/03/28
ISBN 9784894896529
判型・ページ数 A5・244ページ
定価 本体1,800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき(清水郁郎)
本文編
第1章 住まいと暮らしのフィールドワークに出かけよう!(清水郁郎)

第2章 フィールドから学ぼう(栗原伸治・井上えり子)

第3章 フィールドワークのおもしろさ——なぜフィールドに向かうのか?(清水郁郎)

第4章 フィールドワーカーのポジション(栗原伸治)

第5章 住まうことを求めて——台湾蘭嶼、ヤミの住まい(足立 崇)

第6章 国際協力チームの一員になる──ベトナム・ホイアンの町並み保存(内海佐和子)

第7章 人々の心をひとつにまとめる集落の中心を求めて(岡田知子)

第8章 文化遺産の記録とドキュメンテーション(上北恭史)

第9章 住民とともに調べ、理解し、考える(田上健一)

第10章 住み手としてのフィールドワーク(井上えり子)

第11章 フィールドワークから実践へ——フィールドワークを設計にどう役立てるのか?(橋本憲一郎)

第12章 アーバンシングルズのシェア×ハウジングスタイルのリサーチ(丁 志映)

第13章 古民家のフィールドワーク調査(角本邦久)

コラム
食事の哲学/ 奇数と偶数:(2n+1)÷2=n…1 or (1+1)×n=2n/背もたれ石にもたれて/彼女とのこと/調査する村を選ぶ時/フィルムカメラ/ワイロ/クスリ/調査ツール/花街・上七軒の建築/調査はどんなふうに進むのか/未知の住まいづくりとの戦い/南中方向の測定方法

技術編
1 実測のしかた(清水郁郎)

2 画像と映像の撮影のしかた(清水郁郎)

3 地図の描き方(栗原伸治)

4 空撮で集落空間を把握する──体験とイメージの齟齬を現場で補正する(橋本憲一郎)

5 フィールドでのエチケット(内海佐和子)

6 フィールドワークのための新しい道具(清水郁郎)

文献紹介

あとがき

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内容説明

民家には地域の文化や、家族の歴史が凝縮されている。

建築家の眼で住宅を見る時、一本の柱からも様々な情報が読みとられる。熟達の経験者が目的・主題ごとに道具や技法を紹介し、建築学における実地調査の意義を伝える初の入門書。

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まえがき

フィールドワークは、民族学や人類学の分野で生まれ、発展してきた。もともとは、自分とは異なる社会や文化に生きる人たちのなかに入り込み、その社会や文化のありようをできるだけつぶさにとらえ、そこから自分たちの生きる社会や文化のありようを再考しようという考えに基づいている。フィールドワークは、また、フィールドワーカーが他者や他の社会、その背景にある文化にどう向き合うのかという姿勢や、フィールドワーカー自身の哲学をもあらわす。

このようなフィールドワークを、建築の世界でおこなうことの意味はなんだろうか。どのようなメリットがあるのだろうか。こうした疑問にこたえようとするのがこの本である。

建築の世界には、デザイン・サーヴェイという方法がある。かつてもたくさんの学生や研究者、実務家が、デザイン・リソースや人が集まっても快適に、平和に暮らしていけるようなしくみを、いわゆる伝統的な住まいや村落社会に求めて国内外のフィールドに羽ばたいていった。そうした流れのなかで、人類学や民族学の方法論を援用しながらフィールドワークをおこなう者たちがあらわれた。そうした建築の専門家によるフィールドワークの蓄積も、現在ではたいへんな数になる。

ところが、私たちが生きる現代もこれからも、フィールドワークをするためにはそれほど都合のよい世界ではないようにみえる。たとえば、世界中で、居住の質自体が大きく変わってきている。建物もそのなかにあるモノも、そこに暮らす人びとの生活自体も、以前とは異なっている。フィールドワーカーがかつて追い求めた伝統的な住まいも村落社会も、そこで長らく継承されてきたであろう暮らしの知恵も工夫も、現在ではほぼ例外なく変化している。それから、インターネットが中心となる情報技術は、世界のどこの地域であっても、そこにかかわるたくさんの情報を、瞬時に私たちに与えてくれる。もちろん、住まいや暮らしの情報さえも、しかも画像つきで目の前に提示してくれるようになった。こうした傾向は、これからも不断に続き、どんどんと進化していくことだろう。

だからといって、フィールドワークの対象がなくなった、とか、フィールドワークのような肉体労働に近い調査方法はもう時代遅れだなどとは、考えるべきではないだろう。むしろ、そういう状況だからこそ、人と人が責任を持ってかかわり合いながら、自身の肉体と感性をフルに動員しておこなうフィールドワークが建築にはたいせつだと考えている。人と住まいの関係は、数式や統計資料、図面、ことば、画像や映像のなかだけには還元できない質感のようなものを含んでいる。そうしたものを感知することなしに、住まいも含めた建築物は決してうまく計画できない。フィールドワークは、そうした機会を与えてくれる絶好の機会なのだ。そして、フィールドワークのはじめに立ち返るならば、私たちの身のまわりには、自分とは異なる社会や文化はいくらでもある。

本書は、こうした問題意識を背景にして、日本建築学会建築計画委員会住宅計画運営委員会のなかに設けられた比較居住文化小委員会によって企画された。この小委員会を組織する委員ひとりひとりは、建築のさまざまな分野でフィールドワークをベースに、それぞれの活動をおこなっている。私たち委員のだれもが、はじめは、フィールドワークに踏み出すことに不安や恐れを感じていたに違いない。しかし、一歩前に踏み出したことで、その後から現在までフィールドワークを続けてこられた。

この本は、これから建築のフィールドワークをはじめようとする人、今もおこなっている人、フィールドワークにはあまり興味がないけれどなんとなく気になっている人など、いろいろな人に読んでもらいたい。フィールドワークはだれにでもはじめられる。この本を手に取った人は、ぜひ、自身のフィールドワークをはじめてほしい。そして、建築の世界に新たな視点を提示してもらえたら、私たち小委員会としても幸せである。

比較居住文化小委員会主査 清水郁郎

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建築計画本委員会

委員長 松村秀一  東京大学

幹事  宇野求   東京理科大学

大原一興  横浜国立大学

菊地成朋  九州大学

角田誠   首都大学東京

横山ゆりか 東京大学

委員略

 

住宅計画運営委員会

主査  高田光雄  京都大学

幹事  菊地成朋  九州大学

定行まり子 日本女子大学

委員略

 

比較居住文化小委員会

主査  清水郁郎  芝浦工業大学        ○

幹事  上北恭史  筑波大学          ○

内海佐和子 昭和女子大学        ○

委員  井上えり子 京都女子大学        ○

岡田知子  西日本工業大学       ○

角本邦久  千葉職業能力開発短期大学校 ○

栗原伸治  日本大学          ○

田上健一  九州大学          ○

丁志映   千葉大学          ○

月舘敏栄  八戸工業大学

橋本憲一郎 東京大学          ○

濱定史   東京理科大学

平田智隆  芝浦工業大学

本間健太郎 東京大学大学院工学系研究科

 

フィールドワークマニュアル作成ワーキンググループ

主査  内海佐和子 昭和女子大学

委員  清水郁郎  芝浦工業大学

○印 本書執筆者

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執筆者紹介

 

清水郁郎 しみず いくろう

まえがき、第1章、第3章、技術編:実測のしかた、技術編:画像と映像の撮影のしかた、技術編:フィールドワークのための新しい道具

芝浦工業大学工学部建築工学科准教授 博士(文学) 1966年生まれ

かつての(そしておそらく今も)わたしはいろいろな意味で誰とでも仲良くなれる性格ではなく、むしろ、仲良くなれないことのほうが多かった。自分がフィットできる場所をいつも探していたように思う。自分探し系のそんな甘ったれに来られたフィールドの人びとには迷惑だったかもしれないが、細かいことなど気にせずにわたしを受け入れてくれた人たちと社会に深く感謝する。今あるのは、フィールドの人びとのおかげである。

 

栗原伸治  くりはら しんじ 

第2章第1節、第4章、技術編:地図の描き方 

日本大学生物資源科学部生物環境工学科准教授 博士(学術) 1967年生まれ 

異文化の「あたりまえ」に戸惑う自分、異文化の違和感が「あたりまえ」になる自分、自文化の「あたりまえ」を疑問視する自分、そのような自分を客観視しつつ楽しむ自分。フィールドワーカーの嗜好であり志向でもある。フィールドワークという実践が「あたりまえ」になりフィールドへの理解が深まるにつれ、自分というフィールドワーカーが自分のなかで「あたりまえ」ではなくなってゆく。

 

井上えり子 いのうえ えりこ

第2章第2節、第10章

京都女子大学家政学部生活造形学科准教授 博士(工学) 1962年生まれ

大学3年生の海外旅行が異文化との出会い。集落空間のもつ迫力に圧倒され美しさに惹かれて、海外研究の道へすすむ。その後、卒論・修論では韓国を、1990年からは中国の集落を研究対象とする。特に中国西南部のチベット系少数民族を専門としている。2003年、出産を機にフィールドを京都に移し、現在は伝統文化をふまえた住宅政策(景観・観光政策でなく)の可能性を模索している。

 

足立 崇 あだち たかし

第5章

大阪産業大学工学部建築・環境デザイン学科准教授 博士(人間・環境学) 1972年生まれ

初めて蘭嶼でフィールドワークした日、風位を調べるため集落から見える周囲の山々をインフォーマントに描いてもらった。描かれる山の形が実際に見える形とずいぶん違うなと思っていたら、やがてそれが鏡面に映したように左右反転して描かれていることが分かった。自分たちの物の見方や描き方とはまるで異なるものがあることを、そのとき強く印象づけられた。

 

 

内海佐和子  うつみ さわこ 

第6章、技術編:フィールドでのエチケット 、あとがき

昭和女子大学総合教育センター非常勤講師 博士(学術) 1966年生まれ 

1994年から、ベトナム・ホイアンの景観変容の研究を継続。ホイアンをフィールドにしたのは研究室の都合。景観変容を研究テーマにしたのは、短期間でダイナミックに変化する町並みに脅威と謎を感じたから。20年近く、毎年調査に訪れるため、現地では「ここに男がいるからだ」と噂されている。友人も「お前の故郷はホイアンだろ」と笑う。ベトナムに馴染めなかった昔が嘘のようである。 

 

岡田知子 おかだ ともこ

 第7章 

 西日本工業大学デザイン学部建築学科教授 博士(学術) 1955年生まれ 

 1985年、中国の農村での調査を皮切りに主として中国でフィールドワークを展開。1994年からは雲南省、広西壮族自治区、吉林省など周縁部をフィールドに少数民族の住居と集落に関する調査研究に継続的にとり組んでいる。最近、Google Earthでかつて調査した村の近くに巨大な道路が出現しているのを発見したが、私たちを暖かく受け入れてくれたあの美しい村の状況が気になって仕方がない。 

 

上北恭史 うえきた やすふみ 

 第8章 

 筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授 博士(デザイン学) 1961年生まれ 

 筑波大学と北京清華大学との共同研究から、北京の四合院について、住まい方や保存状況のフィールドワークを行った。また宮崎県日向市美々津の伝統的建造物群保存地区追加保存対策調査を行った。これらのフィールドの経験をもとにして、歴史的建造物の保存対策と整備方法について研究を続けている。地震で被災したインドネシアの世界遺産プランバナン遺跡の修復事業では、石造遺産の調査とともに周辺に広がる遺跡群の保存問題について、様々な専門家の協力のもとにフィールドワークを進めている。

 

田上健一  たのうえ けんいち 

 第9章

 九州大学大学院芸術工学研究院准教授 博士(工学) 1966年生まれ 

 イギリス留学時代から海外フィールド調査に参加。沖縄、台湾、フィリピンの米軍住宅や低所得者用住宅、バングラデシュ、ネパールのデルタ地域住居の調査を継続中。フィールド調査時の荷物の少なさは有名で、現地でも驚かれることしばしば。紙と鉛筆さえあれば何とかなるものなのです。昨年からスイスの大学で教え始めたこともあり、現在、欧州遠征を計画中。

 

橋本憲一郎 はしもと けんいちろう

 第11章、技術編:空撮で集落空間を把握する

 東京大学生産技術研究所助手 修士(工学) 1968年生まれ

 いわゆる伝統的集落・住居について、建築計画学の視点から比較研究を行ってきた。これまでに出かけていった海外のフィールドは、インドネシア、パラグアイ、アルゼンチン、ボリビア、ペルー、チリ、中国(山西省、河南省、陝西省、青海省、四川省、貴州省、広西省、福建省、雲南省)、イエメン、韓国、ベトナム、ブルキナファソ、ベナン、トーゴ、ラオス。(訪問国順)

 

丁志映 ちょん じよん

 第12章

 千葉大学大学院工学研究科助教 博士(学術) 1971年生まれ

 日本に留学してもう10年以上の年月が経った。母国である韓国を含めて、カナダ、オランダ、ベルギー、フランス、インドネシアなどが主なフィールドである。非血縁家族・若者・高齢者・外国人・障害者などの協同生を重視した新たな《集まって住む》スタイルを研究している。日本での参画・実践例は、多世代型コレクティブハウス、本郷のシェアハウス、西小中団地のルームシェア、成田の共生型シェアハウスなどがある。

 

角本邦久 かくもと くにひさ

 第13章

 関東職業能力開発大学校附属千葉職業能力開発短期大学校職業能力開発指導員(嘱託) 1949年生まれ

 人生はエネルギーと時間であると考えます。建築にもその時代のエネルギーが結集され、そこに時間が重ねられて行きます。私達のフィールドワークへの取り組みは、建築の保有する時代の中に残されている概念としての形相因を記録し、見える形で留めようとする行為です。あなたも、是非、この時代の記録に参加してみて下さい。

 

 

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