ホーム > フィールドワーク2.0

フィールドワーク2.0 8

現代世界をフィールドワーク

フィールドワーク2.0

グローバル化・メディア化・個人化という21世紀社会では、もはや「民族文化」を対象とした人類学は成立しない。新たな方法を提言。

著者 佐藤 知久
ジャンル 人類学
シリーズ 京都文教大学 文化人類学ブックレット
出版年月日 2013/03/30
ISBN 9784894897700
判型・ページ数 A5・74ページ
定価 本体800円+税
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

Ⅰ はじめに
 1 フィールドワークとは何か
 2 フィールドワーク教育のむずかしさ
 3 学校教育のフィールドワークと人類学者のフィールドワーク
 4 本書の目的

Ⅱ フィールドワーク1・0
 1 マリノフスキーと「社会/文化の全体性」
 2 フィールドワーク1・0
 3 ウィトゲンシュタイン、あるいは日常言語に「なじむ」こと
 4 「文化・領土・民族」の三位一体

Ⅲ 現代世界の変化
 1 グローバル化
 2 メディア化
 3 個人化

Ⅳ フィールドワーク2・0──現代世界をフィールドワークする
 1 現代人類学のフィールド
 2 フィールドワーク2・0
 3 フィールドワーク2・0の対象──フィールドはどこでもよい……のか
 4 人類学的なフィールドワークのコアにあるもの

Ⅴ おわりに──世界文化研究としての人類学へ
 1 世界文学と「実存の未知なる側面および形式」
 2 世界文化についての認識を広げることが人類学のビジョンである

このページのトップへ

内容説明

グローバル化・メディア化・個人化という現代社会において、もはやかつての「民族文化」を対象とした人類学(1.0)は成立しない。21世紀社会における人類学の意味を問い、新たな方法を提言。

*********************************************

 

 ……このように、現代の人類学では、フィールドワーク1・0とは相当に異なるタイプのフィールドワークが行われています。フィールドワーク1・0と区別するために、本書ではそれを「フィールドワーク2・0」と呼びたいと思います。

 フィールドワーク1・0の時代において、世界は、その内部において一定程度均質なものとして考えられる、「民族文化」という単位=ピースによって構成されているものとして見出されてきました。

 「個々の社会的な出来事や事物は、それぞれの文化という文脈=ミクロコスモスのなかにおいてこそ、意味をもつものとして存在する」フィールドワーク1・0が前提としていた「世界観」はこのようなものでした。それは、文化・領土・民族が一体化したピースによって構成されているジグソーパズルのようなものとして、世界を見ることを意味しました。人類学の目的は、こうしたピースをデータベース化していくことでした。

 フィールドワーク2・0においては、「かつての未開社会研究」という人類学の看板は降ろされます。グローバル化・メディア化・個人化の時代にあっては、「ローカルな状況を、ローカルな事情だけで説明することはでき」ません。現代世界のあり方は、方法としての、あるいは世界観としてのフィールドワーク1・0の前提をくつがえしてしまっているのです。
これまでの議論から、フィールドワーク2・0の特徴を、以下の五つにまとめることができます。

①先進国/発展途上国の区別を問わず、世界各地をフィールドとする(「かつての未開社会」には限らない)
②異国/自国の区別を問わず、世界各地をフィールドとする(ホームの人類学が増加し、自国内でのフィールドワークもかなりの割合を占める)
③フィールドでは本来的に、複数の文化や制度が併存しているものと考える(ローカルな文化とグローバルな制度、科学技術と生活世界などのぶつかりあいがつくる断層に注目する)
④対象は必ずしも民族集団ではない(学校・工場・企業・病院などのさまざまな組織や、障害・病気・災害の経験など、特定の生活状況を生きる人びとを含む)
⑤個々人の生活に着目する(集団の均質性を前提せず、個々人と、かれらをとりまく諸制度との関係に着目する)

 たとえば、フィールドワーク1・0の観点からすれば、慢性病・臓器移植・脳死・精神障害といった医療の問題がなぜ人類学的研究の対象となるのかは、説明困難です。しかし、こうした問題群が、科学や医学といった、しばしばグローバルな広がりをもった制度と、個々人のローカルな生活とがぶつかりあう断層を形成していること、それゆえかつて見られなかった新たな問題をはらむ生活情況を生きる人びとを生みだしている(③・④)という観点からみれば、これらは現代人類学的なフィールドワークの対象として現れてきます。こうした問題については、同時代世界全体に目配せをしながらも、個々のフィールドの特異的なありかたを、あくまで等身大の視点から理解しようとするような(⑤)、フィールドワークの方法が有効だからです。……

 

 

*********************************************

 

佐藤知久(さとう ともひさ)
1967年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。京都文教大学総合社会学部准教授。主な研究業績に、『はじまりとしてのフィールドワーク──自分がひらく、世界がかわる』(共編著、昭和堂、2008年)、「社会運動と時間──アクトアップにおけるエイズ・アクティビズムの生成と衰退」(西井凉子編『時間の人類学──情動・自然・社会空間』世界思想社、2011年)、「セルフヘルプ・グループ──非同一的なコミュニティとしての」春日直樹編『人類学で世界をみる──医療・生活・政治・経済』(ミネルヴァ書房、2008年)などがある。

このページのトップへ