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東アジア海域文化の生成と展開

〈東方地中海〉としての理解

東アジア海域文化の生成と展開

日中韓を結ぶ「東シナ海」。それは自在な海路であり、地域文化を豊かにはぐくむ母なる海であった。基層文化再検討の試み。

著者 野村 伸一 編著
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学集刊
出版年月日 2015/03/31
ISBN 9784894892149
判型・ページ数 A5・754ページ
定価 本体6,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに(野村伸一)

●第1部 総説(野村伸一)

 一 「東方地中海文化圏」の相貌─通底する基軸
 二 三地域の特色─基軸の上での異と同
 三 三地域比較対照
 四 現況と提言─現代の変容のなかで
 附論─基層文化の共有に基づいた東アジア共同体へ

●第2部 論考篇

閩南傀儡戯と閩南人の社会生活との関係(葉明生/道上知弘訳)
閩南地方演劇から見た女性生活(呉慧穎/道上知弘訳)
産難の予防、禳除と抜度:台湾南部と泉州地区に見られる道教科法を主として(謝聡輝/山田明広訳)
福建泉州地域の寺廟・宗祠調査報告:王爺および観音信仰を中心に(山田明広、藤野陽平)
鹿港の地域文化調査報告:寺廟を中心に(野村伸一、藤野陽平、稲澤努、山田明広)
祭祀を通してみた宮古島─ウヤガンとユークイ(上原孝三)
沖縄の御後絵と朝鮮時代の仏教絵画の類似性(金容儀)
済州島の龍王信仰:堂信仰とチャムスクッ(海女祭)を通して(金良淑)
東方地中海への/からのマリア信仰:九州北部の事例にみるグローカルな展開(藤野陽平)
接続するローカリティ/トランスナショナリティ:「在日コリアン寺院」の信者の語りを中心として(宮下良子)
東方地中海における水上居民:広東東部の水上居民モンゴル族祖先伝承を中心に(稲澤 努)
神話と儀礼の海洋性─中国ミャオ族の場合(鈴木正崇)

後記/索引

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内容説明

かつて日中韓の文化・経済・人的交流の大動脈であった「東シナ海」。国境や二国間関係の制約から離れた視点で見るとき、それは広域をダイナミックにつなぐ自在な海路であり、それぞれの地域文化を豊かにはぐくむ母なる海であった。歴史と文化を創造的に再構築するための、基層文化再検討の試み。

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目的・背景  東シナ海をひとつの文化圏をなすものとして認識し、それにより日本、中国、韓国(および朝鮮半島)の人びとの相互信頼構築とこの地域をめぐる人文知の新しい知見獲得を最終的な目的とする。この背景には東シナ海地域の歴史と文化についての相互の無知・忘却とそれによる誤認が今日、容易ならぬ閉塞状況をもたらしているという現実がある。ここではさらに近代国民国家間の、領土、国益をめぐる争いが加わり、危機の状況を呈してもいる。人文知の側からすべきことは何か。そうした問いかけが研究の背景にはある。


方法  上記の目的達成のためにはふたつのことが必要と考える。第一は新しい視点。すなわち東シナ海をひとつの文化圏として把握する視点を堅持すること。第二は大枠のなかの地域単位設定。すなわち東シナ海文化圏という大枠のうちに、さらにいくつかの地域単位を設定して、相互比較対照すること。以上の二点は次のような順序で推進される。これは具体的な研究方法に相当する。


すなわち、第一の視点の堅持のために東シナ海を「東方地中海」と命名する。現在、この海域を中国では東海、韓国では東中国海とよぶ。日本では通例、東シナ海だが、一部学会などではシナを避けて環中国海ともいう。これらは、どれも普遍的ではない。そこで、「東方地中海(東方地中海地域)」という名のもと、その根源的な一体性、統一像を提示しようとする。換言すると、この海域は一国本位の地方史、地域史として語ることはできないということである。第二の地域単位設定については次の三段階を経ている。すなわち(一)中国、朝鮮半島、日本の三地域からの接近 (二)それぞれからより小さい単位を取り出すこと (三)その小単位の基層文化を祭祀、芸能、民間信仰(民俗宗教)などいわば精神文化をもとに顕現させること。こうして次の三地域を取り出した。すなわち、一、福建南部・台湾(閩台)地域 二、韓国全羅道・済州島地域 三、琉球諸島・九州地域、である。


これについて説明すると次のようになる。従来、日本の比較研究では主として日本文化究明のために中国や朝鮮半島を調査研究してきた。つまり、それは日本からみた二国間(日中、日韓・日朝)の比較研究である。日本民俗学における日本本土と琉球の比較などもその一類である。この視点は日本(本土の)文化の形成、特徴について一定の像を描くことには貢献した。しかし、限界もある。すなわち、結局は日本を中心点としてアジア世界をみるものであり、相手方が日本以外の地域と日本をどのように位置付けてきたのかは視野の外である。たとえば、中国は、朝鮮、琉球、日本を歴史的にどう位置付けてきたのか、こういうことに関しては余り知ろうともしない。こうした限界の克服のため、本研究では上記、三地域それぞれの現地側の見方を通して、この海域の基層文化を統合された「文化地図」のなかに収めようとした。それにより国家単位の視野を越えた文化地図が整備されるはずである(文化地図作成の試みについては後述四頁も参照)。遺憾ながら、そうした文化地図は、現在、十分ではない。また、それが提示されても、教育システムは硬直化し、制度的に広く活用する体制にない。従って、東方地中海地域の文化地図は、すぐに役立つことはないかもしれない。しかし、東アジアについての既存の知の体系が閉塞していることもまた確かであり、将来的には必ず必要となるであろう。要するに、本研究では、この海域は元来つながっていたものと確信しつつ、その回復のために、まずは文化地図を用意するということである。

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 496頁に写真に隠れて文章の脱落がありました。お詫びとともに、訂正いたします。訂正につきましては、本ホームページの「お知らせ」をご覧下さい。

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編著者紹介
野村伸一(のむら しんいち)
1949年生まれ。
1981年3月、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。
専攻は東アジア地域文化研究。
現在、慶應義塾大学文学部教授。
主著として、『東シナ海文化圏―東の〈地中海〉の民俗世界』(講談社、2012年)、『東シナ海祭祀芸能史論序説』(風響社、2009年)、編著『東アジアの祭祀伝承と女性救済─目連救母と芸能の諸相』(風響社、2007年)、編著『東アジアの女神信仰と女性生活』(慶應義塾大学出版会、2004年)など。

執筆者紹介(掲載順)
葉 明 生(イェ ミンシェン)
1946年生まれ。
1987年中国芸術研究院大学院卒業。
現在、福建省芸術研究院研究員、厦門大学、中山大学兼任教授。
主要著作として、『福建四平傀儡戯奶娘伝』(台湾、『民俗曲藝』、1994年)、『福建省龍岩市東肖閭山教科儀本彙編』(台湾、新文豊出版公司、1996年)、『福建傀儡戯史論』上下冊(中国戯劇出版社、2004年)、『宗教与戯劇研究叢稿』(台湾、国家出版社、2009年)、『莆仙戯劇文化生態研究』(厦門大学出版社、2007年)、『古田臨水宮志』(香港天馬出版公司、2010年)など。論文として『道教閭山派与閩越神仙信仰考』(中国社会科学院『世界宗教研究』、2004年)、『共生文化圏之巫道文化形態探索―福建閭山教與湖南梅山教之比較』(四川大学『宗教学研究』、2006年)、『福建泰寧的普庵教追修及与瑜伽教関係考』(中華書局、2007年)、『臨水夫人與媽祖信仰関係新探』(中国社会研究院『世界宗教研究』2010年)など。

呉 慧 穎(ウー フイイン)
1977年生まれ。
2008年厦門大学中文系卒業、博士。
現在、厦門市台湾芸術研究院副院長、副研究員、『閩南文化研究』主編。
主著作として、『高甲戯』(鷺江出版社、2013年)、『歌仔戲』(社会科学文献出版社、2013年)、『閩南戯劇』福建人民出版社、2008年)、論文として「荷拠時期台湾戯劇活動初探」、「高甲戯“傀儡丑”表演形態初探』など。第三回「中国戯劇奨―理論評論奨」優秀作品賞、第四回中国「海寧杯」王国維戯曲論文章など受賞。

道上知弘(みちうえ ともひろ)
1973年生まれ。
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。
専攻は中国民間戯曲史、香港粤劇研究。
現在、慶應義塾大学文学部非常勤講師、東京大学教養学部非常勤講師。
主な論文として、「台湾語映画の黎明期と歌仔戯─香港製廈門語映画との関係の中で」(『慶應義塾大学日吉紀要中国研究』第2号、2009年)、戦後初期の「広東語文芸映画」(『「読み・書き」から見た香港の転換期─1960〜70年代のメディアと社会』、明石書店、2009年)、翻訳として徐暁望「福建省における女性の生活と女神信仰の歴史」(『東アジアの女神信仰と女性生活』、慶應義塾大学出版会、2004年)、葉明生「女神陳靖姑の儀礼と芸能伝承」(同前書)、葉明生「蒲仙傀儡北斗戯と民俗、宗教の研究」(『日吉紀要・言語・文化・コミュニケーション』No.30、2003年)、 葉明生「福建民間傀儡戯の祭儀文化の特質について」(同前紀要 No.32、2004年)、謝聰輝「泉州南安奏籙儀礼初探―洪瀬唐家を中心に」(『国際常民文化研究叢書7 ―アジア祭祀芸能の比較研究』、神奈川大学国際常民文化研究機構、2014年)など。

謝 聡 輝(シエ ツンフイ)
1963 年生まれ。
1999 年国立台湾師範大学国文研究所博士班修了。博士。
専攻は道教学、台湾文化信仰。
現在、国立台湾師範大学国文系教授。
主著書として、『新天帝之命―玉皇、梓潼与飛鸞』(台湾商務印書館、2013年)、『台湾民間信仰儀式』(国立空中大学、2005 年、共著)、『台湾斎醮』(国立伝統芸術籌備処、2001 年、共著)、論文として、「南台湾和瘟送船儀式的伝承与其道法析論」(『民俗曲芸』184 号、2014年)、「正一経籙初探―以台湾与福建南安所見為主」(『道教研究学報』5 号、2013 年)など。

山田明広(やまだ あきひろ)
1976年生まれ。
2008年関西大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。博士(文学)。
専攻は中国思想史、道教儀礼史。
現在、関西大学非常勤講師。
主著書として、『台湾道教における斎儀―その源流と展開』(大河書房、2015年)、『道教と共生思想』(大河書房、2009年、共著)、『東アジアの儀礼と宗教』(雄松堂出版、2008年、共著)、論文として、「台湾南部地域の放赦科儀について―高雄・屏東地域の放赦科儀を中心に」(『東方宗教』109号、2007年)、「台湾道教合符童子科儀之形成的初歩探討」(『成大歴史学報』39号、2010年)など。

藤野陽平(ふじの ようへい)
1978年東京生まれ。
2006年慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。
専攻は宗教人類学、東アジア地域研究。
現在、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究機関研究員。
主著書として『台湾における民衆キリスト教の人類学─社会的文脈と癒しの実践』(風響社、2013年)、『鳥海山麓遊佐の民俗』(遊佐町教育委員会、2006年、共著)、『情報時代のオウム真理教』(春秋社、2011年、共著)、論文として、「台湾キリスト教の歴史的展開─プロテスタント教会を中心に」(『哲学』第119集、2008年)、「台湾のキリスト教における民俗的健康観─生活者の視点からの健康研究に向けて」(『生活学論叢』Vol.13、2008年)、「社会脈絡中的基督教研究─走出神学与思想研究的宗教人類学」(金沢・陳進国主編『宗教人類学』第2輯、2010年)など。

稲澤 努(いなざわ つとむ)
1977年生まれ
2011年東北大学大学院環境科学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。
専攻は文化人類学、華南地域研究。
現在、東北大学東北アジア研究センター教育研究支援者。
主著書として、『消え去る差異、生み出される差異─中国水上居民のエスニシティ』(東北大学出版会、近刊)、『日本客家研究的視角与方法─百年的軌跡』(社会科学文献出版社、2014年、共著、第7章担当)、論文として「新たな他者とエスニシティ―広東省汕尾の春節、清明節の事例から」(『東北アジア研究』17号、2013年)、「消される差異、生み出される差異─広東省汕尾の「漁民」文化のポリティクス」など。

上原孝三(うえはら こうぞう)
1956年生
1986年法政大学大学院修士課程修了。沖縄県立芸術大学後期博士課程中途退学。
専攻は琉球文学
現在、沖縄尚学高等学校 教諭
論文として、「女神“山のフシライ”をめぐって」(『沖縄文化』60号、1990年、沖縄文化協会)、「宮古島の御嶽・神話・伝承」(『奄美沖縄民間文芸研究』第22号、1999年、奄美沖縄民間文芸研究会)など。

金 容 儀(キ厶 ヨンウィ)
1961年生まれ。
1998年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。
専攻は民俗学、日本文化学。
現在、全南大学校人文大学日語日文学科教授。
主な著訳書として、『遠野物語』(韓国語訳、全南大学校出版部、2009年)、『遺老説伝』(韓国語訳、全南大学校出版部、2010年)、『혹부리영감과 내선일체(瘤取爺と内鮮一体)』(全南大学校出版部、2011年)、『일본설화의 민속세계(日本説話の民俗世界)』(全南大学校出版部、2013年)、『일본의 스모(日本の相撲)』(民俗苑、2014年)など。

金 良 淑(キム ヤンスク)
1971年生まれ。
2012年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。
専攻は韓国巫俗信仰、済州島地域研究。
現在、立教大学講師。
主論文として、「済州島出身在日一世女性による巫俗信仰の実践」(『韓国朝鮮の文化と社会』4号、2005年)、「日本で営まれる済州島のクッ」(『アジア遊学』92号、2006年)、「韓国の出稼ぎ巫者とトランスナショナルな信仰空間の生成」(『旅の文化研究所 研究報告』18号、2009年)など。

宮下良子(みやした りょうこ)
2001年九州大学大学院人間環境学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(教育学)。
専攻は文化人類学、 北米、東アジア(アメリカ、韓国、日本)地域研究。
現在、大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員。
主著書として、『聖地再訪 生駒の神々―変わりゆく大都市近郊の民俗宗教』(創元社、2012年、共著)、『叢書 宗教とソーシャル・キャピタル2 地域社会をつくる宗教』(明石書店、2012年、共著)、論文として、「『朝鮮寺』から『在日コリアン寺院』へ―在日コリアンの宗教的実践を中心として」(『人文学報』第106号、2015年)、“Shamanism Crossing Boundaries : A Case Study of First-Generation Korean Women Living in Japan,” Studies of Urban Humanities, Vol.1, 2010、「済州スニム(僧侶)のトランスナショナリティ─大阪市生野区の事例を中心に」(『白山人類学』第12号、2009年)、「越境するシャーマニズム─在日コリアン一世女性の事例から」(『韓国朝鮮の文化と社会』第4巻、2005年)など。

鈴木正崇(すずき まさたか)
1949年、東京都生まれ。
慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士
専攻は文化人類学、宗教学、民俗学。
現在、慶應義塾大学文学部教授。慶應義塾大学東アジア研究所副所長。
著書:『山岳信仰―日本文化の根底を探る』(中央公論新社、2015年)、『ミャオ族の歴史と文化の動態―中国南部山地民の想像力の変容』(風響社、2012年)、『祭祀と空間のコスモロジー―対馬と沖縄』(春秋社、2004年)、『神と仏の民俗』(吉川弘文館、2002年)、『女人禁制』(吉川弘文館、2001年)、『スリランカの宗教と社会―文化人類学的考察』(春秋社、1996年)、『山と神と人―山岳信仰と修験道の世界』(淡交社、1991年)、『中国南部少数民族誌―海南島・雲南・貴州』(三和書房、1985年)など。

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