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バングラデシュのマイクロ医療保険 34

貧困層のセイフティ・ネット戦略を探る

バングラデシュのマイクロ医療保険

病気や事故等によって貧困に陥る事例に着目。暮らしを守る手立てとしてマイクロ医療保険の有効性を詳細に調査・分析。

著者 石坂 貴美
ジャンル 社会・経済
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2015/10/15
ISBN 9784894897793
判型・ページ数 A5・60ページ
定価 本体700円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
一 バングラデシュのセーフティ・ネットの課題
 1 バングラデシュにみられるショックと対処法
 2 脆弱なセーフティ・ネット
二 マイクロ保険
 1 マイクロファイナンスの効果と課題
 2 マイクロ保険
三 マイクロ医療保険実態調査
 1 IDFのマイクロ医療保険
 2 家計に重い負担を強いる医療費
 3 マイクロ医療保険の医療費カバー率
 4 医療保険の利用を妨げる要因
 5 医療費財源
四 金融サービスにみる人びとの暮らしを守る戦略
 1 IDFの金融サービス
 2 他の機関における金融サービス利用
五 マイクロ医療保険の発展に向けて
注・参考文献
あとがき

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内容説明

暮らしを守るための戦略
世界には一日を1.25ドル以下で暮らす10億の人々がいる。本書は、「収入が少ないこと」ではなく、病気や事故等によって「収入源を失う」「医療費支出が家計に与える影響」事例に着目。暮らしを守る手立てとしてマイクロ医療保険の有効性を詳細に調査・分析したものである。

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 バングラデシュでは社会保障制度が十分に整備されていない。そのため、順調に事業を展開していても、病気や事故、災害等によって資産や収入源を失うと、生活が急に貧窮してしまうことがある。この女性も失業保険や健康保険制度があれば、融資を生活費や高額医療費に充てることなく事業益から返済を行うことができ、資産売却やさらなる借金を防ぐことができたかもしれない。また、現在順調に事業を展開して成功しているようにみえる他の女性たちも彼女と同じリスクを抱えているといえる。このような状況から私は、暮らしを豊かにするためには所得の増加のみではなく、同時に暮らしを守る手立ても必要であると考えるようになった。そして、私が青年海外協力隊の任期を終えて帰国した後も、事業を続け生産者組合を立ち上げた女性たちと交流を続けるとともに、貧困問題に取り組む国際開発を学び、暮らしを守るセーフティ・ネットの研究を行っている。

 ……リスクに対処するためのセーフティ・ネットの構築は国際開発において重要課題となっている。セーフティ・ネットとは傷病や事故、災害、犯罪等の暮らしに悪影響を与える出来事(ショック)が発生した際に、被害を防ぎ損害を最小にする事後の対処法やショックが起こる可能性(リスク)に備える事前の対策である。例として政府の社会保障制度や貧困救済のプログラムの他、民間における救援や支援プログラム、保険会社が提供する保険商品、親族間や地域における相互扶助等があげられる。
 ……バングラデシュでは傷病によるショックが最も頻繁にみられ、医療費支出が家計に大きな影響を与えている。健康保険制度が確立されておらず、民間の医療保険は貧困層を対象としていない。医療費支出に対するセーフティ・ネットが脆弱であるため、多くの人びとは医療費のほとんどを自己負担せざるをえない。そんな状況を受け、貧困層を対象に金融サービスを提供するマイクロファイナンス機関が医療保険を提供する例もみられるようになった。先に紹介した事例において、マイクロ医療保険が存在していたなら、一家の夜逃げを防ぐことができたのだろうか? しかし、この保険は貧困層でも加入できるように保険料が安く設定されている分、保障内容が限られているといわれている。また、加入者の認識、知識不足により保険が十分に活用されていないという指摘もある。バングラデシュでは未だに取り組み例が少なく、調査研究も蓄積されていないため調査を実施した。
 本書ではマイクロ医療保険の実態調査の結果を基に課題をあきらかにすると同時に、金融サービスを巡る人びとの実践からみえる「暮らしを守るための戦略」に注目する。そして、マイクロ医療保険が人びとのセーフティ・ネットのひとつとして発展する可能性について考えたい。

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著者紹介
石坂貴美(いしざか たかみ)
1971年、愛知県生まれ
日本福祉大学大学院 国際社会開発研究科 修士課程修了。修士(国際開発)。
現在、東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻「人間の安全保障プログラム」博士課程に在籍、日本福祉大学アジア福祉社会開発センター客員研究所員。
主要論文に「マイクロクレジット(小規模融資)利用者のケイパビリティ拡大に向けた検討: バングラデシュにおける事例の考察をもとに」(『国立民族学博物館研究報告』36 巻2号、2012年)、“The Medical Expenses Coverage of Micro Health Insurance (MHI) and the Beneficiaries’ Knowledge on MHI: Data from a Selected Part of Northern Bangladesh”, Journal of Institution of Bangladesh Studies, vol.36, 2015などがある。

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