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国家建設と文字の選択 36

ウズベキスタンの言語政策

国家建設と文字の選択

ソ連時代から三度の変更を経て、独立後も、キリル文字とラテン文字が並存。中央アジアの大国の近現代史を文字改革の変転からたどる。

著者 淺村 卓生
ジャンル 社会・経済・環境・政治
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2015/10/15
ISBN 9784894897816
判型・ページ数 A5・64ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

一 ウズベク語表記をめぐる現状
 1 キリル文字とラテン文字の危うい並存
 2 ウズベク語の出版状況

二 ソ連邦期の言語政策と文字改革
 1 アラビア文字の改良
 2 ラテン文字化の模索
 3 共通ラテン文字構想とその挫折
 4 キリル文字化
 5 キリル文字の抱える問題点

三 ウズベク語表記の行方
 1 ラテン文字化前夜
 2 独立後のラテン文字化
 3 表象としてのラテン文字
 4 ラテン文字化政策の今後

おわりに
注・参考文献
あとがき

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内容説明

母国語をどう書くのか
ソ連時代からの70年間に、アラビア文字→ラテン文字→キリル文字→ラテン文字と三度の変更。しかし、独立後20年の今日も、キリル文字とラテン文字が並存。知られざる中央アジアの大国の近現代史を、ウズベク語文字改革の変転からたどる。

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 アム河とシル河の二大河川に挟まれた豊穣なオアシス地帯であり、シルクロードの国としても知られているウズベキスタンは、サマルカンドをはじめとする四箇所の世界遺産を擁し、観光資源に恵まれている。首都タシケントと成田間にはウズベク航空の直行便が就航しており、夏休みシーズンには日本からウズベキスタンを訪れる観光客も多い。

 しかし、一九九一年のソ連邦崩壊まで約七〇年にわたりソ連邦構成共和国であったウズベキスタンの近現代史については、日本でまだそれほどよく知られているとは言えないかもしれない。ロシア帝国の中央アジア進出の足がかりとしてタシケントにトゥルキスタン総督府が置かれた経緯もあり、その後の社会主義革命を経てソ連邦の国家体制が整えられていく過程において、政治・経済面のみならず、文化面でもウズベキスタンはソ連邦中央アジアの中心地として位置づけられていった歴史がある。現在はカザフスタンのアルマトゥにも地下鉄があるが、当時の中央アジアで地下鉄が走り、「ボリショイ劇場」の称号を持つオペラ・バレエ劇場を擁していたのは、タシケントだけだった(日本人抑留者が建設作業に動員されたことで知られるナヴォイ劇場が、一九六六年にこの称号を得ている)。

 ウズベキスタンの面積は日本の約一・二倍とそれほど大きくはないものの、現在でも中央アジアの中では最大の三〇〇〇万を超える人口を誇る地域大国である。隣国のカザフスタンやトゥルクメニスタンは、豊富な天然資源を背景に近年急速な経済発展を遂げてその街並みも大きく変わりつつあるが、独自の漸進的成長戦略を掲げるウズベキスタンはまだ少しのんびりとした感じがあり、タシケント市内の街角には郷愁を誘うようなソ連邦期の雰囲気がよく残されている。

 現在のウズベキスタンを理解するためには、独立後の動向のみに注目するのではなく、直近のソ連邦期との連続性を合わせて考えることが有効な場合が多い。本書ではその一例として、ウズベク語表記の問題を考えてみたい。ウズベク語は、ソ連邦初期の一九二〇年代後半から独立直後の一九九三年までの約七〇年間で、アラビア文字→ラテン文字→キリル文字→ラテン文字と三度のアルファベット変更を経験した。これらの文字改革の歴史は旧ソ連邦の近隣諸国と共通であるが、ウズベキスタンでは独立後のキリル文字からラテン文字への切り替えが二〇年経っても完了しておらず、両文字での表記が並存している状態にある。このような特異な状況にあるウズベク語の現状につき、ソ連邦期からのウズベク語の言語政策史を振り返りながらその背景を探り、今後の展望を分析する。

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著者紹介
淺村卓生(あさむら たかお)
1975年、鳥取県生まれ。
東北大学大学院国際文化研究科博士後期課程修了。博士(国際文化)。
日本学術振興会特別研究員、山形大学非常勤講師等を経て、外務省入省。現在、在外公館勤務。
主な論文に、「1924-1934 年における『ウズベク語』理念の模索:標準語の母音調和法則の扱いをめぐって」(『ロシア・東欧研究』第36 号、2007年)、「カザフスタンにおける自国語振興政策及び文字改革の理念的側面」(『外務省調査月報』第1号、2011年)、「ウズベキスタンの近代演劇」(『中央アジア』朝倉世界地理講座5、朝倉書店、2012年)などがある。

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