ホーム > ペルー山村のチーズ生産者

ペルー山村のチーズ生産者 別巻10

暮らしの中の経済戦略

ペルー山村のチーズ生産者

家族内の意思決定や日常生活の中での人間関係に収益が左右される個人企業。グローバル経済の中の「個人」の日々の判断に迫る。

著者 古川 勇気
ジャンル 人類学
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》 > ブックレット〈アジアを学ぼう〉別巻
出版年月日 2015/10/15
ISBN 9784894897854
判型・ページ数 A5・58ページ
定価 本体700円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに──くすぶる「思い」と現地調査

一 調査を始める
 1 研究対象地カハマルカ県と酪農業
 2 酪農業からみる学術的有効性
 3 フィールド調査開始

二 チーズ生産者の経済戦略――彼らの選択とは
 1 酪農家との日常関係の危うさ
 2 チーズ生産者の様々な工夫と経済戦略
 3 技術供与の農村開発に対する参加/離脱の選択

三 生活の延長線上にある経済活動――留学を振り返って

注・引用文献
あとがき

このページのトップへ

内容説明

零細酪農業の日々の選択
世帯経営であっても市場経済と結びつく現代。家族内の意思決定や日常生活の中での人間関係に収益が左右されるが、それを明示することは難しい。本書はそうした困難を人類学的調査の手法で乗り越え、生産者や酪農家の家族や個人にアプローチ。グローバリズムの中の「個人」の肉声に迫るユニークな試み。

*********************************************

 このように、国全体の貧困削減は大きく前進しているが、問題は、国内地域ごとの貧困格差である。特に、山岳地帯と熱帯雨林地帯の農村部の貧困率の高さは、国内平均と比較して深刻な状況にある。さらに、それらの地域から都市部へ出稼ぎにきた労働者の貧困も高いとされている。また、ジニ係数から判断される貧富格差についても、二〇一〇年時点では、〇・四六で、一〇年間の変化は僅かな縮小に留まっている。ペルー国民の一四%は、貧困削減や不平等および失業に関する国家支出の配分を「とても公平」か「公平」であると評しているが、これは(カリブ海地域を除く)ラテンアメリカ地域の平均値である二〇%を六ポイントも下回っている[JICA 二〇一二:一─二]。ペルーの貧困問題における最大の課題は貧困格差であり、都市部の豊かな生活を送る人びとをみていても、何も解決されない。筆者の旅行中の衝撃は、都市部や郊外、村落部を転々としたことから得られた、何よりも素直な直感であった。

 当時の衝撃は、筆者の心の中にある「思い」を抱かせた。大学院修士課程の時には、研究テーマが、ペルーの村落部での経済活動から現地の人々の生活を考えること、と定まりつつあった。ペルー村落部における生活の延長線上にある経済活動を、文化人類学の調査手法から紐解きたい。すなわち、現地の人々と同じ家で寝泊まりして、同じ食事をしながら彼らの生活を参与観察することで、現地の生活や経済活動を少しでも理解しようというものである。そして、彼らの貧困状況改善のために、少しでも助けになりたいと考えるようになった。

 やがて、博士課程に入学すると、ペルー、カハマルカ県(Cajamarca)への留学の好機を頂き、ようやく学生時代からくすぶり続けていた「思い」を実現できるようになった。本書は、その留学での経験とカハマルカ県での調査の内容をまとめたものである。

 本書の目的は、同県の村落部で盛んなチーズをはじめとする酪農製品の生産・販売と、チーズ生産者の生活と経済活動を理解し、彼らの経営上の選択、つまり経済戦略を明らかにすることである。さらに、村落部の現状と農村開発のあり方を考えることで、ペルーの貧困問題に貢献したい。

 本書の構成は、まず、カハマルカ県の現状とそこでの調査内容を示す。そして、チーズ生産者の家計データと酪農家との日常的な関係性の分析から、不安定な酪農産業の中で、現地のチーズ生産者がおこなっている経営上の努力と工夫を明らかにする。さらに、近年、現地でおこなわれている技術供与の開発に参加/離脱するチーズ生産者の選択と、その後の変化を分析することで、開発の限界と彼らの経営上の意識を明らかにする。最後に、チーズ生産者の経済戦略とはどのようなものかについて一考し、彼らの生活のありかたの一端をお伝えしたい。

*********************************************

著者紹介
古川 勇気(ふるかわ ゆうき)
1983年、愛知県、名古屋市生まれ。
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(文化人類学コース)博士課程在籍中。
現在、山梨大学非常勤講師。
主な論文に「ペルー、カハマルカ県におけるチーズ生産者の販売戦略-経済合理性の広い可能性を目指して-」(『超域文化科学紀要』第19号)がある。

このページのトップへ