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民族共存の制度化へ、少数言語の挑戦 39 新刊

タイとビルマにおける平地民モンの言語教育運動と仏教僧

民族共存の制度化へ、少数言語の挑戦

東南アジア大陸部先住の文明人として存在感を持つモン。同化の圧力が高まる現在、ビルマやタイの事例を通し、その歴史や文化に迫る。

著者 和田 理寛
ジャンル 人類学
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2016/10/15
ISBN 9784894897878
判型・ページ数 A5・76ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
一 モンはどんな民族か
  ――歴史、文化、民族運動、そして居住国の民族政策
 1 歴史――散りばめられたモンの痕跡
 2 モンの宗教と文化――仏教の静けさ、憑依儀礼の荒々しさ
 3 民族運動
 4 タイとビルマの民族政策および少数言語教育の概要

二 タイ国モンの言語教育運動
 1 モン語読み書きと仏教僧院
 2 モン語教育運動の始まりと失望
    ――私塾としてのモン語教育と学生不足
 3 衝突する話し言葉と書き言葉
    ――プロジェクトとしてのモン語教育とその課題

三 ビルマ国モンの言語教育運動
 1 モン語の方言、標準語、そして、メディア
 2 モン民族学校――バイリンガル教育
 3 モン語の夏期講習

四 タイ国のモン僧伽
 1 タイ国の僧伽と宗派
 2 ラーマンニャ・ニカーヤとは何か――一九世紀末のモン僧伽
 3 ラーマンニャ派の衰退
 4 ラーマン・タンマユットとは何か

五 ビルマ国のモン僧伽
 1 ビルマ国のラーマンニャ・ニカーヤ
 2 ビルマ国のモン厳格派

おわりに
注・参考文献
あとがき

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内容説明

同化が進むタイ、制度化が進むビルマ
東南アジア大陸部において、先住の文明人として存在感を持つモン。同化の圧力が高まる現在、自らの言語を保持する制度を持ち得たビルマ。その事例を通し、モンの歴史や文化に迫る。

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 ……もちろん、タイとビルマでは背景となる社会事情が大きく異なる。第一に、タイでは産業化や学歴社会化が進み、タイ化の意義がビルマ国でのビルマ化よりも大きい点で、同化の誘因力に差がある。第二に、ビルマは民族の固定化に寄与した植民地時代を経験し、また、独立後は多くの少数民族が互いに影響し合い相乗効果を生みながら様々な民族運動を展開してきた。タイにはこうした燃えるような少数民族運動はあまり見られない。 近代的な民族感覚やそれに基づく少数民族の運動は、間違いなくビルマの方が「進んで」いる。例えば、多数派への同化はなぜ生じるのか、それに抗するためにはどうすべきか、「我々」自身の手で将来を決めるとはどういうことか、なぜ「我々」にとって民族の歴史は重要なのか、そもそも「我々」とは誰と誰であるべきか、こうした感覚が醸成されている。一方、タイでは、国策としても社会的な雰囲気としても、少数民族が伝統や私的な領域から近代へと脱皮することへの抑制が、ある程度機能しているような印象を受ける。二国それぞれにおいて、制度化と同化の両極端に向かうモン語教育は、こうした民族の近代化をめぐる、ビルマの先進性と、タイでの遅れを対照的に映し出す好例でもある。

 さて、モンと聞いて身を乗り出した人は、タイやビルマの歴史に触れたことがある人だろう。モンは、日本での一般的な知名度は低いかも知れない。しかし、両国の歴史に欠かせない存在として、現地社会はもちろん、この地域を研究する外国人の間でその名を知らぬ者はいない。一方、その古い歴史に注目が集まるなかで、文化面はあまり関心を呼んで来なかったという偏りもある。また、現在は伝統面に留まらず、組織的な民族運動が民族の在り方や将来を左右しかねない影響力を持っている。もちろん言語教育もそうした民族運動の一つである。 本書は、こうしたモン民族について、その大まかな像が掴める簡単な紹介本としての役割も果たしたいと思う。そのため、本題である言語教育と民族僧伽について述べる前に、続く第一節で、まずは、モンの歴史、文化、民族運動について、さらに、背景として重要なタイとビルマの民族政策について、概観するところから始めたい。……

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著者紹介
和田理寛(わだ みちひろ)
1984年生まれ、長野県伊那市育ち。現在、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科東南アジア地域研究専攻博士課程在学。主な論文に、「タイの人口センサスにおける民族概念と民族範疇の変遷――タイ民族の人口比拡大と、近年の世帯内言語調査による多様な民族の名づけ」(『年報タイ研究』9号)、「1980年代以降のミャンマーにおけるモン派僧伽の展開――教学と俗語をめぐる出家者の汎民族主義運動」(『東南アジア―歴史と文化』46号)がある。

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