ホーム > ラオス焼畑民の暮らしと土地政策

ラオス焼畑民の暮らしと土地政策 40 新刊

「森」と「農地」は分けられるのか

ラオス焼畑民の暮らしと土地政策

焼畑が環境破壊の原因とされ抑制される現在、焼畑民クムの暮らしは大きく変わった。共生可能な森林管理を目指すNGOの動きを追う。

著者 東 智美
ジャンル 人類学
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2016/10/15
ISBN 9784894897885
判型・ページ数 A5・68ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
一 森に生きる人びと――ラオス北部のクム民族と焼畑
 1 ラオスの焼畑耕作と焼畑民の暮らし
 2 調査地の概要
 3 森の民「クム」の人びとの土地利用――ウドムサイ県パクベン郡の事例から
 4 焼畑と村人の食卓
 5 森とは何か?
 6 焼畑民にとっての「森」と「農地」 

二 資源の破壊を引き起こす資源管理政策
 1 ラオスの森林減少
 2 ラオスの土地・森林利用に関わる諸政策
 3 土地・森林分配事業(Land Forest Allocation Programme)
 4  土地・森林分配事業の課題

三 「森」と「農地」が分けられるとき
    ――土地・森林分配事業が焼畑民の土地利用に与えた影響
 1 P村の土地・森林分配事業
 2 土地・森林分配事業が焼畑民の土地利用に与えた影響
 3 政策への人々の対応

四 なぜ資源管理政策の失敗が起きるのか?
 1 資源管理政策の「失敗」の要因
 2 線引きされた「森」と「農地」

五 新たな土地・森林管理を目指すNGOの試み
 1 NGO・国際機関による土地・森林分配事業の実践
 2 「参加型土地利用計画マニュアル」への提言と共有地登録の推進
 3 ウドムサイ県パクベン郡ホアイカセン川水源林保全事業
 4 政府と住民の調整役としてのNGOの役割

六 おわりに
注・参考文献
あとがき

コラム:スーン母さんと稲
コラム:ブンスームおじさんのシチュー――クムの食卓と森の恵み

このページのトップへ

内容説明

「どうか森を私たちにお貸しください。収穫が終わったら必ずお返しします。」
伝統的な循環的利用で森と共生してきたクムの人々。焼畑が環境破壊の原因とされ、抑制される現在、焼畑民の暮らしは大きく変わった。共生可能な森林管理を目指すNGOの動きを追う。

*********************************************

 一方、本書が扱うラオスでは、焼畑農業は今も多くの人びとにとって主要な食糧生産の手段であり、食糧安全保障の観点からも、宗教・文化の拠り所としても、地域住民の暮らしと切り離せない営みであり続けてきた。

 筆者が調査対象としたクム民族の村では、ローテーション方式の焼畑で陸稲が栽培されている。平均七〜八年前に焼畑に利用した二次林を伐採し、火を入れ、陸稲を植える。一度収穫を終えるとその畑は数年間放置される。一年も経てば背の高さほどの草が生い茂り、やがて焼畑の二次林ではタケノコなどの非木材林産物が採れるようになる。収穫から七〜八年が経ち、ある程度植生が回復すると、そこが新たな農地に選ばれ、再び伐採が行われるのである。そうした焼畑耕作を営む人びとにとって、これまで「農地」と「森林」は一体のものであった。

 ところが、ラオスでは一九九六年から「土地・森林委譲事業(Land Forest Allocation)」が全国規模で実施されるようになり、そのなかで「農地」と「森林」の線引きが進められている。この土地・森林分配事業を通じて、農地の利用権は各世帯などに委譲され、森林は保全林・保護林・再生林・利用林・荒廃林など、村人の外から持ち込まれた概念によって測量され、用途が決められるようになった。焼畑民にとって、「森」とは焼畑に使ったばかりの森から豊かな森まで緩やかに移行していくものだが、土地・森林分配事業のなかでは「農地」か「森林」のどちらかに二分化することが迫られるようになった。

 …… 

 発展途上国の土地・資源管理をめぐる先行研究を振り返ると、政策文書や政府機関との対話から政策を分析する政治学者は、そうした政策が、人々の生活にどのような影響を及ぼしているのかを見てこなかったし、村に入り込み、村人の生活を観察する文化人類学者は、村人の生活に変化を及ぼす政策を作り出している政治の問題まで踏み込もうとしない。草の根レベルで活動する多くのNGOは、村人が抱える問題を解決しようと熱心に活動に取り組んでも、その問題とつながっている政策は外部要件と見なし、政策そのものを変えることには関心がない。国家レベルや国際レベルの政策提言に取り組む団体は、自然資源と結びついた村の暮らしのあり方までは気を配らない。

 こうして、研究者にしても、NGOにしても、それぞれ役割は細分化され、お互いが交わることはほとんどない。そのため、村人の生活を無視した政策が実施され、草の根レベルでは村人が抱える問題の源流を見ない応急処置的な援助活動ばかりが行われ続けるのではないだろうか。地域住民の暮らしに適した資源管理を実現するためには、研究者は「環境問題」の上流と下流に目を向け、もっと柔軟に学問分野を横断した研究を行う必要があるだろうし、NGOも村人が抱える問題と政治のつながりをつかめる広い視野を持って活動を行うべきではないだろうか [東・松本 二〇〇九:一二〇―一二一]。ラオスの森林政策に関わるなかで、そうした問題意識を持つようになった。

 本書では、NGOワーカーと研究者の立場を行き来しながら見えてきた、ラオスの土地・森林管理政策の問題を、地域住民の土地利用やそれに基づく暮らしの実態から明らかにする。その上で土地・森林分配事業が、その政策上の目的に反して、破壊的な資源利用や地域住民の貧困化を引き起こす要因を分析するとともに、問題解決に向けたNGOの試みを紹介し、NGOや国際機関といった「よそ者」の役割と、ラオスの焼畑農業の今後を考えてみたい。

*********************************************

著者紹介
東 智美(ひがし さとみ)
1978年、東京都生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。現在、特定非営利活動法人メコン・ウォッチのラオス・プログラム担当、及び一橋大学、東京外国語大学非常勤講師。主な論文・著書に「森林破壊につながる森林政策と『よそ者』の役割」(『熱帯アジアの人々と森林管理制度―現場からのガバナンス論』人文書院)、「水資源管理における住民組織の役割――北タイのムアン・ファーイ・システムに関する一考察」」(『タイ研究』第4巻)などがある。

このページのトップへ