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社会の中でカンボジア仏教を生きる 41 新刊

在家修行者の経験と功徳の実践

社会の中でカンボジア仏教を生きる

戒の保持、儀礼への参加、他者の援助など、さまざまに「功徳」を実践する人びと。その経験や日常から地域社会との連動を探る。

著者 大坪 加奈子
ジャンル 民俗・宗教
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2016/10/15
ISBN 9784894897892
判型・ページ数 A5・66ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに 「私」のカルマと「生」
   フィールドワークについて

一 カンボジア仏教とは何か
 1 カンボジア仏教の思想と構造
 2 カンボジア仏教の盛衰
 3 行為としてのカンボジア仏教

二 人びとの経験と功徳の実践
 1 功徳の諸特性
 2 「私」の経験と功徳の実践

三 希望がつくる寺院の社会活動
 1 僧と俗の交差点としての寺院
 2 寺院を支えるアチャーと寺委員会
 3 寺院と信徒の地域社会での活動
 事例1 カタン祭
 事例2 サンガハットア(仏法による救済)

おわりに――社会へひらかれる「私」

注・参考文献
あとがき

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内容説明

自らの幸福のために行いながら、それは常に社会と共にある
戒の保持、布施、儀礼への参加、寺院や僧侶の手助け、他者の援助など、さまざまに「功徳」を実践する人びと。その経験や日常から、地域社会の共同性との連動を探る。

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 ラーおばあさんの功徳の実践は、戒を守る他、寺院や僧侶への布施、仏教儀礼への参加、瞑想センターのプログラムへの参加などがある。その他、寺院を運営する寺委員会に所属して寺院の仕事も手伝う。地域で重い病気の人がいれば助けるための経文の朗誦に呼ばれることも多く、積極的に参加している。ラーおばあさんは功徳を積んだ後、その功徳を亡き両親にも回向するという。功徳を積むのは「亡くなった両親と自分が幸せになるため」であり、「未来は私たちの功徳やカルマが準備しているので、それにゆだねるのだ」と語る。ラーおばあさんにとって、功徳の実践は未来をよりよき方向に向かわせるための方法である。

 人によって程度の差はあれ、ラーおばあさんのように人は生きていれば誰でも挫折や困難な経験をする。そうした辛く苦しい状況にどのように対処するかは、それぞれの人生観に裏打ちされたものであろう。カンボジアでは人口の九割以上が仏教徒であり、辛く困難な経験を契機として、現在と未来の幸福のため、災厄や不幸な出来事から身を守るため、そして苦から解放されるために「功徳を積む」という方法を実践する人びとがいる。

 本書は合計約一年一〇ヶ月間のフィールドワークから、ローカルな人びとの経験と功徳の実践について明らかにし、それが地域社会の共同性とどのように関連しているのか、という具体的な状況を明らかにするものである。結論を先取りしていうならば、人びとは自らの幸福のために実践を行うものの、それらの実践は常に社会と共にあるといえる。実践とは、戒の保持、寺院や僧侶への布施、仏教儀礼への参加、寺院や僧侶の手助け、他者を助けることなどである。ラーおばあさんのように功徳を実践する人びとの経験と実践に焦点を当て、功徳の実践が地域社会の共同性と接続する活動、とりわけ寺院の社会活動に着目する。

 これまでの上座仏教社会の功徳に関する先行研究では、(1)カルマの観念を背景として、功徳を積むことでよりよき未来や再生を保証するという救済財として実践を導く功徳[cf. Keyes 1983., Spiro 1966]、(2)村落の社会構造における関係性の中で共有され、功徳を積む者と共有される者の境遇を変え、関係性の維持や新たな関係性を構築する功徳[cf. 林 一九八九、二〇〇〇、Tambiah 1968, 1970]という二つの側面について指摘されてきた。いずれも、功徳は外部に対して働きかけるものである点については共通している。本書ではこれらの功徳の側面について検証しながら、具体的な事例をもとに救済財としての功徳がいかに人びとに運用され、他者と共有されるのか、功徳の観念と実践についての様態を明らかにする。

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著者紹介

大坪加奈子(おおつぼ かなこ)

1977年、宮崎県生まれ。 九州大学大学院人間環境学府人間共生システム専攻博士後期課程単位取得退学。 現在、九州大学大学院人間環境学研究院学術協力研究員。 主な論文に、「護符をつくる、完成させる――カンボジアのヨアンにみる変転するモノの属性」(関一敏編『モノ――共生社会学論叢Ⅸ』九州大学大学院人間環境学府共生社会学講座、2013年、25-38頁)、「『よりよき生』への準備――カンボジアのボン・カタンにみる功徳の観念と実践」(関一敏編『信仰/信頼―共生社会学論叢Ⅶ』九州大学大学院人間環境学府共生社会学講座、2012年、55-70頁)などがある。

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