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東アジアの民族と文化の変貌  新刊 これから出る本

少数民族と漢族、中国と日本

東アジアの民族と文化の変貌

中国南部の少数民族(トン族・ヤオ族・スイ族・トゥチャ族)と漢族の文化の相互変容を確認し、中国と日本の文化の変貌をも展望。

著者 鈴木 正崇
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学専刊
出版年月日 2017/07/10
ISBN 9784894892293
判型・ページ数 A5・600ページ
定価 本体8,000円+税
在庫 未刊・予約受付中
 

目次

序 章 民族と文化の変貌
第一章 女神信仰の現代的変容──中国貴州省トン族の薩瑪節をめぐって
第二章 ヤオ族の民族動態に関する諸考察──広西大瑤山の調査から
第三章 漢族とヤオ族の交流による文化表象──湖南省の「女書」を中心として
第四章 貴州省のスイ族とヤオ族──祭祀・婚姻・葬制
第五章 貴州省の祭祀と仮面──徳江儺堂戯の考察
第六章 福建省の祭祀芸能の古層──「戯神」を中心として
第七章 追儺の系譜──鬼の変容をめぐって
第八章 目連の変容──仏教と民俗のはざまで
あとがき
参考文献
索引

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内容説明

中国南部の「少数民族」(トン族・ヤオ族・スイ族・トゥチャ族)と漢族の「文化の相互変容」を確認しつつ、中国と日本の文化の変貌まで視野に入れた、集大成的論考。

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序章 民族と文化の変貌

はじめに

 

 本書は東アジアの民族と文化の変貌について、中国南部の少数民族と漢族に焦点をあてて多様な側面から考察を試みた論集である。地域としては中国が主体であるが、漢族の文化の広がりを視野に入れ、中国から日本への文化の伝播や日本での再創造の過程を歴史的展開を含めて論じた。民族という概念は近代の発明であるにもかかわらず、現代では広く定着している。文化も近代概念で生活様式から観念体系に至る幅広い分野を包摂して使われている。しかし、民族が実体化して固定化されていくと、自らは何者であるかが問われ、民族の特性や行動の再検討が試みられ、諸民族の文化が語られ実践されるようになる。本書では、「国民国家」(nation state)の中に組み込まれて「民族集団」(ethnic group)となり、国際化やグローバリゼーション(globalization)の中で急速に変貌する人々の暮らしを、東アジアという大きな視野のもとで考察する。

 本書は前著『ミャオ族の歴史と文化の動態—中国南部山地民の想像力の変容』[鈴木 二〇一二]の姉妹編で、中国南部の少数民族のうち、貴州省のトン族(侗族Dong)・ヤオ族(瑤族Yao)・スイ族(水族Sui)・トゥチャ族(土家族Tujia)、広西壮族自治区のヤオ族、湖南省のヤオ族に関して、漢族の文化の影響も考慮して考察した。中国の少数民族に組み入れられ、ミャオ族(苗族Miao)とは異なる文化を構築してきた人々が変貌を遂げてきた過程を把握する試みで、ミャオ族との共通性や差異性が明らかになる。また、少数民族と共に漢族の祭祀や演劇に注目し、福建省での戯神の変容や、儺戯や目連戯など中国大陸の漢族を担い手として展開した文化が、日本へ伝播して生じた変貌も考察した。本書は中国南部の少数民族と漢族、中国と日本の相互の文化の変貌を併せて論じることを目的とする。……

(中略)

本書の意図と構成

 
 
 本書の特色は漢族の文化が少数民族に浸透するという一方的な流れではなく、少数民族の文化も漢族の中に深く浸透してきたという「文化の相互変容」の観点を基底に据えたことである。漢族と少数民族の「民族的境界」(ethnic boundary)は流動的であった。また、相互が交流する「境界文化」が各地で創造的変容を展開してきた。そもそも漢族という多数民族は様々な地域の文化や人々を包摂して巨大化したのであり、漢族自体が多様な文化を内包し換骨奪胎して多彩で豊かな文化を生成してきた。中国の文化の日本への伝播も単なる要素の流入や一方的な影響ではなく、相互交流や選択的受容によって定着した。本書では以上のような観点から民族の実態や内容を広く捉え、文化の継続・対立・変化・内旋、再構築・再創造の諸相の動態的把握を試みている。

 第一章ではトン族の女神信仰が行政の介在や観光化によって大きく変化した実態を貴州省の榕江県車江郷の薩瑪節を中心に考察する。第二章は広西壮族自治区の金秀大瑤山のヤオ族の民族の動態に関して様々な変化を村ごとに描き出す。第三章は湖南省の江永に伝わる女性だけが読み書きできる文字、「女書」を取り上げ、漢族とヤオ族の交流による文化表象として把握する。第四章は貴州省のスイ族とヤオ族について祭祀・婚姻・葬制を中心として変化の様相を検討する。第五章は貴州省の徳江に伝わる「儺戯」の祭祀と仮面を考察して民族の文化の深層に迫る。第六章は福建省の人形戯や演劇などの祭祀芸能に登場する「戯神」に注目して古層を探る。第七章は「儺戯」の文化が中国・朝鮮・日本と伝播してその中核にある鬼の考え方を変えてきた過程を描く。第八章は中国に広く展開する目連の伝承や演劇が仏教と民俗のはざまで引き起こした変化を通して日本の盆行事に展開した過程を考察する。

 各章の主題と地域は異なっても、一貫して探求したのは前著でのミャオ族の考察と同様に想像力の変容を多様な手法で明らかにすることであった。最終的には変容過程を焦点とする「想像力の社会史」を描き出すことを目的とした。本書の各章はそれぞれ異なる民族や文化を対象とし、方法論も相違しているので、単独で読むことが出来る。最終的には、歴史の諸相、生活世界の意味付け、社会や文化について、ここ三〇年の大きな動態的変化を、万華鏡のように多次元的に捉えることを意図した。同時代の東アジアをフィールドの人々の伴走者として生きてきた記録として残し、永遠の課題である他者理解を次の世代に託したいと思う。異文化の理解は果てしない。他者理解という遠回りの道を辿っての自己理解という人類学の使命は、究極の他者と身近な他者との終わりなき対話の旅へと導く。フィールドワークによる記憶の中の過去と現在の対話、地域の原風景や場所へのこだわりは自己省察の原点であった。地域を知る、地域で考える、地域と共に生きる。地域を越えて自己の探求に向かう。そこでの唯一の方法は、徹底して個別の事例にこだわり、究極において普遍性に到達するという手法である。その根源にある原動力は人生の生き方を探求する知的好奇心であった。

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著者紹介

鈴木正崇(すずき・まさたか)

1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了。文学博士。
慶應義塾大学名誉教授。日本宗教学会常務理事、日本山岳修験学会会長、
著書:『中国南部少数民族誌―海南島・雲南・貴州』(三和書房、1985年)、『山と神と人―山岳信仰と修験道の世界』(淡交社、2001年)、『スリランカの宗教と社会―文化人類学的考察』(春秋社、1996年)、『神と仏の民俗』(吉川弘文館、2001年)、『女人禁制』(吉川弘文館。2002年)、『祭祀と空間のコスモロジー―対馬と沖縄』(春秋社、2004年)、『ミャオ族の歴史と文化の動態―中国南部山地民の想像力の変容』(風響社、2012年)、『山岳信仰―日本文化の根底を探る』(中央公論新社、2015)。
共著:『スリランカの祭』(工作舎、1982年)、『西南中国の少数民族―貴州省苗族民俗誌』(古今書院、1985年)。
編著:『大地と神々の共生』(昭和堂、1999年)、『東アジアの近代と日本』(慶應義塾大学出版会,2007年)、『神話と芸能のインド―神々を演じる人々』(山川出版社、2008年)、『東アジアの民衆文化と祝祭空間』(慶應義塾大学出版会、2009年)、『南アジアの文化と社会を読み解く』(慶應義塾大学出版会、2011年)、『アジアの文化遺産―過去・現在・未来』(慶應義塾大学出版会、2015年)、『森羅万象のささやき―民俗宗教研究の諸相』(風響社、2015年)。
共編著:『東アジアのシャーマニズムと民俗』(勁草書房,1994年)、『民族で読む中国』(朝日新聞社,1998年)、『ラーマーヤナの宇宙―伝承と民族造形』(春秋社,1998年)、『仮面と巫俗の研究-日本と韓国』(第一書房,1999年)、『〈血縁〉の再構築―東アジアにおける父系出自と同姓結合』(風響社,2000年)、『拡大する中国世界と文化創造―アジア太平洋の底流』(弘文堂,2002年)。
監修:『祭・芸能・行事大辞典』(朝倉書店、2009)、『日本の山岳信仰』(宝島社、2015)
受賞歴:1997年に『スリランカの宗教と社会』で慶應義塾賞、2014年に『ミャオ族の歴史と文化の動態』で第11回木村重信民族藝術学会賞(民族藝術学会)、2016年に「日本の山岳信仰と修験道に関する宗教学的研究」の業績により、第18回秩父宮記念山岳賞を受賞(日本山岳会)。

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