ホーム > 中国の宗族と祖先祭祀

中国の宗族と祖先祭祀

中国の宗族と祖先祭祀

中国社会を特徴づける血縁集団・宗族。時代に応じて変化し続ける家族・宗族の歴史的展開を簡潔に記した好著の翻訳。

著者 馮 爾康
小林 義廣
ジャンル 歴史・考古・言語
シリーズ 風響社あじあブックス > あじあブックス別巻
出版年月日 2017/07/10
ISBN 9784894892415
判型・ページ数 A5・356ページ
定価 本体3,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

第一章 略論──現在から説き起す

第二章 宗族の構造と変遷

第三章 宗族と祠堂祭祀

第四章 族人教化と族人の社会生活に対する宗祠の役割

第五章 族人間の互助に基づく経済生活

第六章 家族主義的政治と族人の生活

第七章 宗族と譜牒編纂

第八章 結論

あとがき

訳者解説

索引

底本=馮爾康『中国古代的宗族和祠堂』(二〇一三年五月、北京:商務印書館を中心に旧版も依拠)

このページのトップへ

内容説明

宗族は血縁集団として中国社会を特徴づけ、いまも華僑や中国企業の背景で健在である。時代に応じて変化し続ける家族・宗族の歴史的展開を簡潔に記した好著の翻訳。

*********************************************

訳者解説

 

 

 

 

 

 本書は、『中国古代的宗族和祠堂』(邦訳名『中国の宗族と祖先祭祀』)を訳出したものである。本書の内容解説に当たって、まず本書を選択し、訳出するに至った事情を、私事を含めて叙述しておこう。

 私自身の中国の家族・宗族に関する関心は、一九八〇年代初頭にまで遡る。私の研究は、当初、一一世紀半ばに活躍した欧陽脩(一〇〇七─一〇七二)という、時代に傑出した士大夫を中心に据えて、北宋時代の政治と社会の特質を解明しようという目的をもって開始された。その探求の過程で、欧陽脩が宋代以後の、いわゆる「近世譜」の模範を作成した人物の一人であることを知り、彼が編纂した欧陽氏一族の族譜(「欧陽氏譜図」)に彼自身が何を託そうとしたのかを明らかにしようとして、「欧陽脩における族譜編纂の意義」(『名古屋大学東洋史研究報告』六、一九八〇年、拙著『欧陽脩 その生涯と宗族』創文社、二〇〇〇年所収)と題する論文を書き上げた。その後、欧陽脩をめぐる様々な問題の研究を進める一方で、この論文が契機となって宋代の士大夫が宗族に対して、どのような関わり方をしてきたかにも関心を寄せてきた。とりわけ、「宋代史研究における宗族と郷村社会の視角」(『名古屋大学東洋史研究報告』八、一九八二年)という一文を公表して以後は、宋代の基層社会を形作る郷村社会(地域社会)という「場」に着目して、士大夫が地域社会の秩序維持や秩序再生に関わってゆくとき、自己の宗族の再生産はその「場」とどのような繋がりをもっているかという観点から少なからざる論文を書き綴ってきた。そして、現在の勤務先でも折りに触れて、このような関心から、中国の家族や宗族を取り上げた講義や史料講読を行ってきた。講義や講読を行うに際しては、当然ながら学生に対して中国の家族・宗族に関する研究の参考文献を提示してきた。それは、中国の家族・宗族に関する知見を少しでも深めて欲しいと考えたからである。そうした作業を行ってみて気づくのは、日本語で書かれた中国の家族・宗族を、それらの特色とともに歴史的変遷をも十二分に考慮した論著、とくに学部の学生でも理解できる一般向けの著作物が思いのほか少ないことである。

 たしかに、戦前から戦後初期にかけての研究成果を盛ったそうした書物には、現在でも興味を喚起する著作が多く見られる。思い付くものを手当たり次第に挙げても、清水泰次『支那の家族と村落』(文明書院、一九二八年)、陶希聖(天野元之助訳)『支那に於ける婚姻及び家族史』(生活社、一九三五年)、西山『支那の姓氏と家族制度』(六興出版社、一九四四年)、オルガ・ラング(Olga Lang)『中国の家族と社会』(岩波書店、一九五三年)、『牧野著作集(中国家族制度研究)』第一巻(お茶の水書房、一九七九年)に載る中国家族制度概論など、数えきれぬほどの、中国の家族・宗族制度の特色を概述しようとする書物が存在する。そして、中国の家族・宗族に関しては、一九八〇年代半ば以後、日本の学界は、再度、関心を寄せて多くの研究成果を挙げてきており(拙稿「日本における中国家族・宗族研究の現状と課題」『東海大学紀要文学部』七八、二〇〇三年、遠藤隆俊「家族宗族史研究」『日本宋史研究の現状と課題』汲古書院、二〇一〇年)、その成果を反映した概説書としては、瀬川昌久『中国社会の人類学』(世界思想社、二〇〇四年)が欧米の家族理論や日中の中国家族研究を紹介するとともに、氏自身の実地研究を踏まえた中国家族・宗族の特質に関する言及を含む優れた書物として挙げられる。また、現在、中国の宗族研究に対して大きな理論的刺激を与えているモーリス・フリードマン(Maurice Freedman)の著作も邦訳されている(『中国の宗族と社会』弘文堂、一九八七年、『東南中国の宗族組織』弘文堂、一九九一年)。また、瀬川氏は西澤治彦氏とともに、中国の家族・宗族に関する欧米と中国の研究者の主要な論文を訳出した編書を『中国文化人類学リーディングス』と題して出版している(風響社、二〇〇六年)。これらの著作物は確かに優れていて有用であるけれども、清水・牧野・西山ら各氏の書物は、あくまでも戦前・戦後直前の研究成果に基づいた古いものであり、瀬川氏やフリードマン氏のものは、人類学的関心や社会学的関心を中軸に据えて纏められているという性質上、家族・宗族の歴史的展開は二の次に置かれているのであって、いずれも私としては常に不満を抱かざるをえなかった。

 一方、一九九〇年代以降、大陸中国や台湾でも家族・宗族研究が再び隆盛してきており、それを反映して中国人研究者の著作物は専門研究でも一般向けであっても、陸続と公刊されてきていて、量と質の両面で目を見張るべきものがある。それらは、上記の不満を解消してくれる論著も少なくない。このような研究成果については、私は折りに触れて書評などを通して紹介してきたつもりであり、翻訳を試みた著作物もあった。とはいえ、学部の学生を主な読者の対象とするとき、どのような優れた著作物であっても浩瀚な書物では読んでくれない恐れが充分に存在する。その点からすると、本書は、最初に手にして拝読していたときから、中国の宗族の特色とともに、その歴史的変遷を簡潔に記した分量も手頃な好著であると感じていた。それが本書の翻訳を思い立った理由である。(後略)

*********************************************

著者紹介

馮 爾 康(ふう じこう)
1934年江蘇省儀徴県生まれ。
1959年南開大学歴史系卒業、同年、同大学助教となりながら、大学院修士課程を修了。その後、講師・副教授を経て、1985年に教授となり、2002年に退職。現在、南開大学社会史研究中心学術委員会主任。
専攻は中国宗族史、清代史。
著書に、『雍正帝』(人民出版社、1985年)、『顧真齋文叢』(中華書局、2003年)、『一八世紀以来中国家族与譜牒編纂』(天津古籍出版社、2011年)、『中国古代的宗族和祠堂』(商務印書館、2013年)など。
編著に、『清人社会生活』(天津人民出版社、1990年)、『中国宗族社会』(浙江人民出版社、1994年〔『中国宗族史』と改題され、上海人民出版社から2009年に出版)など。
編纂参加に、『中国家譜綜合目録』(中華書局、1997年)、『清代宗族史料選輯』(天津古籍出版社、2014年)など。

訳者紹介

小林 義廣(こばやし よしひろ)
1950年岩手県松尾村松尾鉱山(現、八幡平市)生まれ。
1980年名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学、1984年東海大学文学部史学科東洋史専任講師となり、その後、助教授、教授を経て、2015年4月から同大学特任教授。博士(歴史学/名古屋大学)
専攻は宋代史。
著書に、『欧陽脩 その生涯と宗族』(創文社、2000年)、『王安石──北宋の孤高の改革者』(世界史リブレット、山川出版社、2013年)、訳註書に、『宋代地方官の民衆善導論──『琴堂諭俗編』訳註』(知泉書館、2009年)、論文に、「内藤湖南の中国近世論と人物論」(内藤湖南研究会『内藤湖南の世界──アジア再生の思想』河合文化教育研究所、2000年)、「宋代蘇州の地域社会と范氏義荘」(『名古屋大学東洋史研究報告』31、2007年)、「南宋初中期吉州の士大夫における家族と地域社会──楊万里を中心として」(『名古屋大学東洋史研究報告』40、2016年)など。

このページのトップへ