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モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料10

紅衛兵新聞(2)

モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料10

文革の動向に大きな影響を与えた紅衛兵。彼らの残した各地各種の新聞は、党内の思惑や様々な派閥の消息を伝える第一級の史料群。

著者 楊 海英
ジャンル 書誌・資料・写真
出版年月日 2018/02/25
ISBN 9784894898905
判型・ページ数 A4・1174ページ
定価 本体22,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

第一部 資料解説

はじめに
一 紅い兵士たちの嵐―『紅色戦士』と『草原風暴』
二 労働者たちの造反
  1.保守派『無産者』
  2.造反派
  3.乱立する『井崗山』
  4.『工人戦報』
  5.過激な『工人東方紅』
  6.『工人風雷』
三 『魯迅』と『新文化』
  1.ぎこちない『魯迅』
  2.『教育戦報』
  3.『新文化』
四 戦鼓鳴り響く戦線
  1.『教育戦鼓』
  2.『体育戦線』
五 暴力の急先鋒を演じた『聯合戦報』
六 トゥメト旗農村の『農民運動』
終わりに
参考文献

第二部 本書所収紅衛兵新聞一覧

1.『紅色戦士』第722期 1966年12月14日
2.『紅色戦士』第727期 1966年12月24日
3.『紅色戦士』第731期 1967年1月4日
4.『紅色戦士』第751期 1967年2月1日
5.『草原風暴』専刊 1967年5月25日
6.『草原風暴』第9期 1967年6月29日
7.『草原風暴』専刊 1967年7月8日
8.『草原風暴』第10期 1967年7月15日
9.『草原風暴』第11期 1967年7月27日
 (以下、タイトル抜粋)
16.『無産者』第1号 1967年4月2日
18.『紅色造反者』第2期 1967年2月17日
27.『818』創刊号 1967年5月15日
29.『紅旗』創刊号 1967年4月26日
35.『井崗山』第2期 1967年2月10日
50.『井崗山』(以下、内蒙古工業交通工人革命造反司令部編集)第6期 1967年4月17日
59.『工人戦報』第4期 1967年3月12日
110.『工人東方紅』第6期(創刊号) 1967年5月18日
123.『魯迅』第1期 1967年4月16日
129.『教育戦報』創刊号 1967年5月9日
133.『新文化』第1期 1967年8月25日
168.『教育戦鼓』創刊号 1967年12月10日
194.『体育戦線』第7期 1967年6月8日
236.『農民運動』第4期 1967年5月17日
239.『土旗紅衛兵』第2期 1967年8月4日
244.『新土旗』第3期 1968年6月1日
250.『農民運動』第47期 1968年9月22日

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内容説明

本書は内モンゴル自治区でおこなわれた中国文化大革命に関する第一次資料を解説し、影印するシリーズ。文革の動向に大きな影響を与えた紅衛兵。彼らの残した各地各種の新聞は、党内の思惑や様々な派閥の消息を伝える第一級の史料群。

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はじめに より

 

……

 

 

 以上、本書において、計259篇の群衆組織の新聞を網羅することができた。これは、現在の内モンゴル自治区にある、あらゆる新聞と雑誌の総数よりも多い可能性が高い。人民解放軍と労働者(工人)、文化教育界と農民など、およそすべての業界と団体が造反して群衆組織を結成し、機関紙(誌)を発行していた。こうした現象は一見、一部の研究者がいうところの「言論の自由」のように見えるが、実際は「自由」などはほとんどなく、終始、政府と共産党の管理下にあり、革命委員会政府の「喉と舌」の役割を果たしていたのである。むしろ、文化大革命中の革命委員会政府の宣伝紙(誌)と位置づけた方が真実に近い。

 本書で公開した諸種の新聞を分析した結果、以下のような特徴を抽出できよう。

 一、人民解放軍内部における造反の実態は従来から知られていないし、造反派が発行した新聞類も希少価値が高い。本書は『紅色戦士』と『草原風暴』の二種類を納めることができたが、それは内モンゴル軍区の兵士たちの短期間の造反行動を示すものである。軍区内部の文工団の兵士や歩兵学校を中心とする兵士たちは大学生たちからなる造反派にシンパシーを抱き、行動を共にしようとしたが、早いところで抑え込まれて、軍外の組織と合流できなかった。「軍隊は混乱してはいけない」、という党中央と中央軍事委員会の政策に沿った措置を内モンゴル軍区の指導者たちも執っていたからである。

 二、工人と称する労働者たちは最初から最後まで、フフホト市のような大都市部における造反の主力を成していた。学生たちの造反は主としてそのキャンパスを拠点としていたのに対し、労働者は市内全体をコントロールしていただけでなく、政府機関を占拠し、大学生の一部とも連携して、一大勢力に発展していた。学生たちの造反が政府と毛沢東の意図と乖離していくような趨勢を見せると、党中央は労働者を「工人毛沢東思想宣伝隊」に組織して大学と政府機関に進駐させた。政府から支持された労働者は過激化し、人民解放軍と共に暴力を駆使し、モンゴル人大量虐殺を主導した。本書所収の労働者新聞、なかんずく『工人東方紅』はその典型的な一例である。

 三、文藝界や教育、それに体育界は文化大革命の潮流に乗じて、古い「民族分裂の思想に満ちた文藝」を破壊して「新しい文化」を創造しようと「魯迅精神」を模倣した。彼らの文章は鋭く、煽動力も強く、労働者階級と学生らのモンゴル人に対する憎しみを喚起するのに大きな役割を果たした。しかし、彼らの中には自治区と中華人民共和国が成立して以来に創出された文藝作品の誕生に関わった者も多かったことと、毛沢東をはじめとする中国共産党が知識人に対して強い不信感を抱いていたことなどから、「無産階級の新文化」は一度たりとも形成されることはなかったのである。

 四、中国政府と中国人は、モンゴル人大量虐殺運動を効率よく推進する為に、あらゆる群衆組織を統合して「群衆専政」を実現させた。従来の公安と警察、それに検察などは、限られた自治権を有していたモンゴル人の手中にあった為に、暴力的な「群衆専政」によって奪われた。政府に支持され、政府の命令で「聯合」してできあがった「群衆専政」は組織的に、論理的にモンゴル人の「反党叛国集団」と内モンゴル人民革命党員たちを「殲滅」した。その暴力の過程を『聯合戦報』から読み取ることができる。

 五、政府主導の暴力は自治区の津々浦々の末端組織にまで到達し、農村と牧畜地帯のモンゴル人たちもまた打倒された。本書が収集した『農民運動』と『土旗紅衛兵』などはウラーンフーの膝元であるトゥメト旗における群衆専政の実態を表したものである。『農民運動』という紙名もまた毛沢東の論文「湖南農民運動考察報告」をもじったものである。毛は論文の中で、ごろつきなどを動員して暴力を駆使して「搾取階級の打倒」を呼びかけていた。内モンゴル自治区でも、外来の中国人農民たちは毛沢東が謳歌する暴力をそのまま先住民のモンゴル人に向けた。かくして、モンゴル人は自らの故郷において、自治政府のトップから末端組織に至るまで、すべての権利を奪われ、大量虐殺されたのである。

……

 

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編者紹介
楊海英(Yang Haiying)
日本国静岡大学人文学部教授。専攻、文化人類学。
主な著書

『草原と馬とモンゴル人』(日本放送出版協会,2001年)
『チンギス・ハーン祭祀―試みとしての歴史人類学的再構成』(風響社,2004年)
『モンゴル草原の文人たち―手写本が語る民族誌』(平凡社,2005年)
『モンゴルとイスラーム的中国―民族形成をたどる歴史人類学紀行』(風響社,2007年)
『モンゴルのアルジャイ石窟―その興亡の歴史と出土文書』(風響社,2008年)
『墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(上・下,岩波書店,2009年,第十四回司馬遼太郎賞受賞)
『続 墓標なき草原―内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(岩波書店,2011年)
『植民地としてのモンゴル―中国の官制ナショナリズムと革命思想』(勉誠出版,2013年)
『中国とモンゴルのはざまで―ウラーンフーの実らなかった民族自決の夢』(岩波書店,2014年)
『ジェノサイドと文化大革命―内モンゴルの民族問題』(勉誠出版,2014年)
『チベットに舞う日本刀―モンゴル騎兵の現代史』(文藝春秋,2014年,第十回樫山純三賞受賞)
『日本陸軍とモンゴル―興安軍官学校の知られざる戦い』(中公新書,2015年,国基研・日本研究賞受賞)
『逆転の大中国史』(文藝春秋,2016年)
『モンゴル人の民族自決と「対日協力」―いまなお続く中国文化大革命』(集広舎,2016年)。

 

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