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出稼ぎ国家フィリピンと残された家族 51 新刊 これから出る本

不在がもたらす民族の共在

出稼ぎ国家フィリピンと残された家族

人口の1割が移民し、その送金がGDPの1割の国。家族にとって「不在」の日常化と新たな「つながり」への渇仰をもたらす。

ジャンル 人類学
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2018/10/25
ISBN 9784894894051
判型・ページ数 A5・46ページ
定価 本体600円+税
在庫 未刊・予約受付中
 

目次

はじめに――出稼ぎ国家フィリピンにおける一〇パーセントの不在

一 旅立つ移民、残される家族――地方社会における移民とその家族

 1 フィリピン国家と移民
 2 「ノーチョイス」だから渡航する――アンナの場合
 3 トラブルの果てに消える――マリセルの場合

二 人々は移動し続ける――地方社会経済と移民

 1 村落社会の中の移民と残された家族
 2 移民であろうとし続ける――送金がもたらす変化とその重み
 3 移動する人々の土地であり続けて

三 不在を埋め合わせる――カサマとしての先住民

 1 ジェーンとロラ
 2 カサマを探して――共に在ろうとする
 3 「カサマ」となるマジョリティ・タガログとマイノリティ・マンヤン
 4 カサマに逃げられる――アイザの場合

四 連鎖する経済格差、連鎖する「ノーチョイス」

 1 人の移動がつくりだす民族関係
 2 圧倒的な経済格差の下で紡がれる労使関係とその連鎖
 3 「ノーチョイス」の連なりがもたらす変化

おわりに――不在がもたらす共在と出稼ぎ社会の民族関係

注・引用文献
あとがき

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内容説明

つながり、ぬくもり、不在の連鎖
人口の1割が移民し、その送金がGDPの1割を占めるフィリピン。それは、家族にとって「不在」の日常化、そして、あらたな「つながり」への渇仰をもたらす。

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 …… フィリピンでは、出産後の女性が子供を家族に預けてすぐに職場復帰することは、珍しいことではない。なぜならば、彼女たちが生きているのは「(能力、機会双方の意味において)働けるものが働き、働くことのできないものを支え合う」ことで経済的なリスクを回避する社会なのであり、ゆえに、海外出稼ぎのチャンスを手にした者は、その幸運と「つながり」をとおして、残された家族、親族を支えることを求められるからだ。

 だが一方で、そうした海外への渡航を機に家族とのつながりを断ち、忽然と姿を消す人々もいる。移民たちをめぐっては、そんなつながりや、ぬくもり、不在の連鎖が生じているということを、まずはご理解いただきたい。

 ここまで、出稼ぎ国家フィリピンの話を続けてきたが、本書は、移民となって働く人々そのものを扱ったものではない。本書の主役は、移民である彼らに「おいていかれた家族」たちであり、いわばこれは、移民たちの背後の物語である。それは国際的な人の移動というダイナミズムに後押しされてフィリピンの地方社会で生じている関係の変化であり、家族の不在という「穴」を埋め合わせようとして人々が紡ぐ、共在の物語である。

 本書の構成は以下の通りである。

 第一節、第二節では、まず「移民たちの背後」の世界のおおまかな全体像を提示する。ここでは、ウノという地方村落を舞台に、移民となる人々が旅立つまでの過程や、彼らの置かれた社会背景から、人々、特に家族という共同体における、移民の旅立ちの意味を見ていこう。第三節、第四節からは、少し視点を変え、残された家族と、彼らの家に住み込んでいる地域のマイノリティとの関係に焦点をあてていく。人々は、生活のサポートを得るため、また、家族に残されたことによる精神的な寂しさを解消するために、そうした人々を家や敷地内に招き入れるが、人々が極めて近い距離で共に過ごす時間は、彼らの間に親密な情と軋轢という、相反する感情を生じさせる。こうした移民現象による家族の不在の中、経済環境をはじめとした様々な都合によって、「共に暮らすこと」を余儀なくされた状況が人々にもたらす変化について考えてみることとしよう。

 現在、フィリピンで起こっている様々な事象をとらえる際に、移民の流出という現象が与える影響を看過することはできない[Pertierra 1995]。なぜならば、どんな片田舎の、時には山奥に行っても、そこには、かつて外国で働いていた人々が暮らしており、送金によって建てられた家々が並んでいる[清水 二〇一三]。首都マニラでは、移民の送金投資によるコンドミニアムの建設ラッシュが景観を目まぐるしく変化させており、地方でも、移民からの送金は社会階層を転換し、儀礼の在り方までをも変えてしまう[長坂 二〇〇九、二〇一三]。グローバルな人の移動という世界規模で同調的に起こっている事柄が、ミクロな世界の在り方を、様々な形で変えていっているのである。

 人と物の流動化というグローバル時代の、いわば最先端を生き、私たちにとっても身近な存在となりつつあるフィリピン人移民という人々。彼らの背後にいる家族の姿を知ることで、今日も世界の向こう側で起こっているかもしれない変化を想像してもらえれば幸いである。
……

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著者紹介
白石奈津子(しらいし なつこ)
1988年、佐賀県武雄市生まれ。
京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 博士後期課程を指導認定退学。同大学、修士(農学)。
現在、京都大学東南アジア地域研究研究所連携研究員。
主な著作に、”Reverse of Good Practice in Forest Preservation: Household Economy of Alangan-Mangyan and Community-Based Forest Management Program in the Philippines “(Geographical review of Japan series B. 2014)。

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