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韓国朝鮮の文化と社会 20

韓国朝鮮の文化と社会 20

特集=朝鮮戦争と向き合う──分断状況の思想・文化・個人

著者 韓国・朝鮮文化研究会
ジャンル 定期刊行物
シリーズ 雑誌 > 韓国朝鮮の文化と社会
出版年月日 2021/10/15
ISBN 9784894899704
判型・ページ数 A5・222ページ
定価 本体3,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

特集=朝鮮戦争と向き合う──分断状況の思想・文化・個人

特集
 問題提起 鈴木文子 7

 戦後日本の国際法学者における朝鮮問題認識 鄭祐宗 19

 金煥基の朝鮮戦争体験
   ――釜山における避難生活と作品のモチーフ分析を中心に 松岡とも子 45


論文
 朝鮮人蒐集家たちの書画骨董認識
   ――一九三〇―四〇年代を中心として 柳川陽介 86

 変化する都市社会のなかの民族教育
   ――京都市西部の朝鮮学校児童の居住地分布から 金汝卿 103

 「仲介者」としての在日コリアン
   ――日本と朝鮮半島に跨る親族の繋がりと葛藤 竹田 響 141

書評
 金栄敏著(三ツ井崇訳)『韓国近代小説史1890―1945』
   ――近代朝鮮文学形成過程の総体的地形図 影本 剛 182

本の紹介
 『きらめく拍手の音──手で話す人々とともに生きる』 辻野裕紀 191

展評
 日本と朝鮮半島の友好を願う美術展覧会
   ――「第二七回日本・コリア友好美術展二〇二一/京都」について 白 凛 194

エッセイ
 三陟竹西楼――朝鮮士人と亭子文化(四) 長森美信 198

彙報
 編集後記
 韓国・朝鮮文化研究会会則 
 英文目次・ハングル目次
 執筆者一覧

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内容説明

特集=朝鮮戦争と向き合う──分断状況の思想・文化・個人

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      【問題提起】 鈴木文子  より


 本特集は、二〇二〇年一〇月二四日、第二一回研究大会シンポジウムの報告集である。コロナ禍初のオンラインによる大会開催となった。テーマは、一九五〇年六月二五日の勃発より七〇年となる朝鮮戦争とした。特に本シンポジウムでは、朝鮮戦争および、その前後の南北の分断状況が、朝鮮半島ならびに日本に住む人々の思想、文化、意識にどのような影響をもたらしてきたか。それらが、これまでの韓国・朝鮮研究にどのような影響を与え、あるいは与えなかったのか。そこからどのような今後の研究の視座を考えることが可能か。このような問いに対して、多分野の研究者が集まり共に考えることを目的とした。

 朝鮮戦争に関する研究においては、初期には戦争勃発の起源や主体に関心がおかれた政治外交史の研究が主流であった。二〇〇〇年ごろまでの動向は、代表的研究者である和田春樹[一九九六、二〇〇二]等に詳しいが、一九八〇年以降、米ソ中の関連資料が徐々に公開される中、現在では朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国とする)の先攻が有力とされるとともに、植民地支配の終焉と同時に大国間の国際政治状況に呼応しながら、朝鮮半島内で顕在化する理念的対立による戦争の主体性も唱えられるようになった。

 一方、その研究動向は、一九九〇年代後半から、特に韓国において変化を見せている。政治史中心から、思想史、社会・文化史、また、歴史学のみならず、文学、美術史、文化人類学など、多分野で研究テーマとなってきた。研究対象も、上層の指導者たちの分析にととまらず、兵士や市井の人々、地域、村落社会にまで広がり、地方史のみならず、口述資料などミクロで、民衆の視点からの資史料が収集、利用されるようになった。

 変化の背景として、民主化以降の社会変化が考えられる。韓国においては、「反共」を全面に押出すかつての思想潮流から、共和国も含めた朝鮮半島の歴史著述の必要性が意識化される。その中で、朝鮮戦争前後の米軍や韓国軍による民衆に対する集団虐殺が明らかになったことも新たな潮流をうむ一因となったと思われる。

 口述史研究が利用されるのは、植民地期や戦争等による特に地方史関連資料の不足とともに、一般の市民たちが封印されてきた過去の凄惨な事件について語りだしたこととも関連があると思われる。各地の被害者遺族会が連帯した市民運動がおこり、二〇〇五年五月「真実・和解のための過去史整理基本法(진실・화해를 위한 과거사정리기본법)」が盧武鉉政権下において成立し、政府内に調査委員会も発足した[김동춘 二〇一三:二三二―二三三]。政権交代が起こるたびにその内容には変化がみられ、今日でもその調査はつづいているようだ。また、「アカ(빨갱이)」と分類されることへの恐怖感や傷は完全に快復されているわけではない。

……
 

 植民地時代と現代の連続性を意識する研究は、この四半世紀ほどの間に多くの成果を残してきた。しかし、朝鮮半島のみならず東アジアの現代に大きな影響を及ぼした朝鮮戦争のインパクトについての考察を抜きに、植民地期から現代へ至る社会・文化・思想の連続や断絶は論じることができないはずである。しかし、そのような研究は現在でも多くの課題を残している。米ソによる分割統治後の戦乱による都市や村落地域の混乱、南北分断の固定化、その前後の人々の移動・交錯、あるいは社会的葛藤や心の傷などを要因とし、解放後から朝鮮戦争前後の状況には、ポジショナリティーによって、多様な記憶・記録が存在し、また、その分断・忘却がある。

 しかし、それらの回復は、現代の植民地認識、韓国社会内の分断意識や日本におけるその理解やラベリング、すなわち朝鮮半島の社会文化に対する日本における表象性や在日コリアンなどを理解する上で重要となる。本シンポジウムでは、上記のような問題意識と研究状況を踏まえ、三人の発表者に登壇していただいた。

 まず、鄭祐宗氏による「戦後日本の国際法学者における朝鮮問題認識」では、法制史の立場から、日本の国際法学者たちが、朝鮮問題、すなわち国際連合や国連憲章における朝鮮戦争への介入をどのように解釈、議論してきたか、戦争に関する法理を分析し、その系譜を明らかにする。今日の集団的自衛権などの認識ともかかわる問題の萌芽が、朝鮮戦争を巡る法制史の議論の中ですでに存在していたことを示している。

 二番目の松岡とも子氏による「朝鮮戦争期臨時首都釜山における美術活動――金煥基(一九一三―一九七四)ほかソウル避難画家を中心に」(大会報告時題目)は、解放後から朝鮮戦争勃発後、ソウル画壇の人々、特に韓国を代表する画家、金煥基に焦点をあて、その作家活動の軌跡を検討する。左派・右派の対立や混乱期とされてきた解放後の美術界や臨時首都釜山での避難民としての画家の活動を、個人の視点から再考する。作品解釈の背景というだけでなく、戦争をめぐる国家と一個人の差異、突然の南北分断に困惑する複雑な人々の感情や米軍政期の生活者としての実践を、回想録等の資料から読み解いていく。

 宋基燦氏による「「韓国軍」出身の朝鮮学校研究者――朝鮮学校の現場で自分の中の分断の記憶と向き合うと言うこと」は、文化人類学者によるオートエスノグラフィー的発表である。残念ながら今回は、諸々の事由から投稿は見送られた。一九七〇年生まれで、韓国において「反共教育」盛んな時代に学校教育を受け、特殊な兵役経験をもつ氏が、朝鮮学校での現場調査で自身の身体化された「レッド・コンプレックス」を認識する。その後学校の保護者となる選択をする自らの変化をも考察し、新たな研究の可能性を見出す。ポスト朝鮮戦争と研究者の関係を考える問題提起を行った。

……
 

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執筆者一覧(掲載順)

鈴木 文子  佛教大学歴史学部 教授
鄭  祐宗  同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科 准教授
松岡とも子  国立民族学博物館 外来研究員
柳川 陽介  東京外国語大学 非常勤講師
金  汝卿  同志社大学大学院社会学研究科 博士後期課程
竹田  響  京都大学大学院人間・環境学研究科 博士後期課程
       /日本学術振興会特別研究員DC1
影本  剛  立命館大学 非常勤講師
辻野 裕紀  九州大学大学院言語文化研究院 准教授
白   凛  一般社団法人在日コリアン美術作品保存協会代表理事
       /独立行政法人日本学術振興会特別研究員PD(同志社大学)
長森 美信  天理大学国際学部 教授

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