ホーム > 文献史学と民俗学

文献史学と民俗学

地誌・随筆・王権

文献史学と民俗学

書き残された生活記録をどう読み解くのか。民俗学的「トリセツ」と、「王権と民俗」で実践例を示した入門書。

著者 村上 紀夫
ジャンル 民俗・宗教・文学
歴史・考古・言語
シリーズ 風響社ブックレット
風響社ブックレット > 関西学院大学 現代民俗学・文化人類学リブレット
出版年月日 2022/10/30
ISBN 9784894893252
判型・ページ数 A5・90ページ
定価 本体900円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

一 民俗学と文献史料のあいだ

  1 柳田國男と文献史料
  2 幻の近世日記刊行計画
  3 民俗学にとっての文献史料
  4 失われた民俗と文献
  5 文献史学から見た民俗学

二 地誌

  1 柳田国男が読んだ地誌
  2 官撰地誌略史
  3 名所記の後裔
  4 地誌と通俗的地理・歴史意識

三 随筆

  1 活字化された近世随筆
  2 近世随筆の多様性
  3 知識人ネットワークのなかの近世随筆

四 文字文化と王権

  1 和歌による除災
  2 呪歌と王権
  3 天と王権のコミュニケーション
  4 御所千度参り
  5 民俗的世界の天皇

終章 文字文化史の地平──むすびにかえて

引用史料・参考文献

近世の書かれた呪歌

このページのトップへ

内容説明

柳田の「無名の民間人、百姓や町人などが書き残した生活記録」から問題を探ろうとする方法論はリニューアルされ、フィールドと歴史が再会する地平を生んだ。地誌・随筆を例にした民俗学的「トリセツ」と、その実践例を「王権と民俗」で示した入門書。

*********************************************


    はじめに より




 江戸時代には、狐狸妖怪ですら、どこかで文字を学び、それを自在に操り、自らの意思を伝えるために使っていたようだ。

 江戸時代後期、幕臣で詩人の植木玉厓(一七八一~一八三九)の親戚宅では、頻繁に妖怪が現れていた。そうはいっても、とりたてて害があるわけではない。することといったら、障子などにやたらと文字を書くことくらいだという。他愛もないことばかりで、時に滑稽なことも書く。一家親類のうち誰が怖いとか怖くないなどと評することもある。ある時、来客が狐狸退治に効果のある「野瀬の黒札」の話をしていたら、ただちに障子に「黒札こわくなし」と大書したという。妖怪の文字を実際に目にしていた植木玉厓は、よみやすい正直な字ではあるが、それほど「よくもない手」だったと評している(『反古のうらがき』[早川編 一九一六:四一二─四一二])。

 植木から聞いた話を随筆『反古のうらがき』に書き留めた鈴木桃野(一八〇〇~一八五二)は、妖怪が文字を書くことに疑問を抱いていない。そして、文字というものは学ぶことなく覚えることはできないから、狐狸が人に化けて山寺で修行をしたなどという話も、あながち嘘ではないのかもしれないと言っている。近世とは、妖怪の識字が当然視される程度には文字の読み書きが広く行われていた時代であるといえよう。

 本書は、文献史料を民俗学の研究に活用するための基本的な方法について論じるものである。ここでいう文献史料とは、過去に文字で書かれたモノ全般を念頭に置いている。情報を記すメディアは、前近代であれば多くは紙に書かれた古文書、古記録が代表的である。金属や石などに文字を記した金石文や、木簡や棟札のような木に書かれたものなども広義の文献史料ということができる。こうした多様な文字史料の全体を見渡した議論をすることは、筆者の力量では不可能であるので、本書では古記録・古典籍などを対象とすることになる。とくに、紙幅の関係もあり、ここでは多くが活字化されていて、今日、アクセスも比較的容易な近世の地誌や随筆を中心に取り上げたい。地誌や随筆には、伝承や縁起、世間話など興味深い情報も多く、早くから民俗学研究の場で利用されてきているからである。……

*********************************************

著者紹介
村上紀夫(むらかみ のりお)
奈良大学文学部史学科教授
1970年、愛媛県生まれ。大谷大学大学院博士後期課程中退。博士(文学・奈良大学)。専門は日本文化史。
著書に『近世勧進の研究:京都の民間宗教者』(法藏館、2011年)、『まちかどの芸能史』(解放出版社、2013年)、『京都地蔵盆の歴史』(法藏館、2017年)、『近世京都寺社の文化史』(法藏館、2019年10月)、『江戸時代の明智光秀』(創元社、2020年8月)などがある。



*********************************************
*********************************************
*********************************************

関西学院大学現代民俗学・文化人類学リブレット 刊行の辞 


 人文社会科学全体の中で、民俗学と文化人類学という二つの領域が併存している状況は、洋の東西を問わず、広く世界中で見ることができる。これは、二つの学問領域が重なり合う面を多々持ちながらも、それぞれ出自や特性を異にしているためである。もっとも、だからといって両者が排他的な関係にあるわけではない。事実、文化人類学が民族学と言われていた時代、日本には「二つのミンゾクガク」という伝統があった。

 その後、民俗学は自文化研究に主眼を置き、文化人類学は異文化研究に特化していったが、グローバル化の影響で自他の境界が曖昧となりつつある今日、両領域はそれぞれの学問的特性を尊重しあい、かつ協働すべきところは協働して、ともに人類文化の究明に向かって進んでいる。民俗を意味するfolkloreという言葉の発祥地であり、近代人類学を主導したイギリスでは、近年改めて両領域の関係が見直されるようになっているが、それは必然的な流れと言えよう。

 関西学院大学社会学部・社会学研究科では、こうした学問的潮流を強く意識して、民俗学・文化人類学の教育・研究を実践している。具体的には、二〇一六年、学部教育改革の一環として、学部内に六つの「専攻分野」を設置した。その中の一つに、「フィールド文化学専攻分野」があり、ここでは民俗学と文化人類学をそれぞれ専門とする専任教員が、「現代民俗学」と「文化人類学」の講義・ゼミを開講している。また、これと対応して、大学院社会学研究科においても、「現代民俗学」と「文化人類学」の講義・ゼミが開講されている。さらに、学部・大学院とも、国内外からこれらの分野の専門家を兼任講師として招聘し、多様な科目を開講している。

 こうして、関西学院大学社会学部・社会学研究科は、民俗学・文化人類学を学部から大学院まで一貫して専門的に学ぶことができる教育・研究機関となっており、また国内における数少ない民俗学の国際的教育研究拠点の一つとしての位置を占めるに至っている。

 「関西学院大学現代民俗学・文化人類学リブレット」は、こうした恵まれた環境の中で、民俗学・文化人類学の教育・研究に携わる教員や研究者が、その最新の研究成果および講義内容を、学生や研究者、そして広く社会に対して、わかりやすく伝えることをめざして刊行するものである。本シリーズが、日本国内はもとより、将来的に外国語への翻訳を通じて、世界中の民俗学・文化人類学の進展に寄与することを心から願っている。

 「関西学院大学現代民俗学・文化人類学リブレット」ジェネラル・エディター 島村恭則・桑山敬己


*********************************************
《関西学院大学現代民俗学・文化人類学リブレット》シリーズ刊行予定

既刊
『文化人類学と現代民俗学』桑山敬己・島村恭則・鈴木慎一郎
『景観人類学入門』河合洋尚
2022年刊
『文献史学と民俗学:地誌・随筆・王権』村上紀夫

(以下続刊、いずれも仮題。随時刊行)

『通過儀礼と家族の民俗学』八木 透
『現代フォークロア10の視点』荒井芳廣
『アニメ聖地巡礼と現代の宗教民俗学』アンドリューズ、デール
『記憶と文化遺産の民俗学』王 暁葵
『廃墟のフォークロア』金子直樹
『ドイツの現代民俗学』金城ハウプトマン朱美
『文化人類学・民俗学の〈アート〉』小長谷英代
『韓国民俗学入門』崔 杉昌
『中国の現代民俗学:文化人類学とのかかわり』周 星
『カルチュラル・スタディーズ』鈴木慎一郎
『祭りと地域メディアの現代民俗学』武田俊輔
『温泉のフォークロア』樽井由紀
『布とファッションの人類学』中谷文美
『中国で民俗学を研究する:日本人民俗学者が語る現代中国民俗学』中村 貴
『民俗学者はフィールドで何を見てきたのか』政岡伸洋
『古墳のフォークロア』松田 陽
『文化遺産と民俗学』村上忠喜
『フォークロリズムの民俗学』八木康幸
『まちづくりの民俗学』山 泰幸
『イギリスの民俗学』山﨑 遼
『食の人類学』ヨトヴァ、マリア
『台湾民俗学入門』林 承緯
 ……
 ……


このページのトップへ