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中国文明を読む 57

国家形成をめぐる協奏

中国文明を読む

国家ってなんだろう?! いくつもの国家の萌芽が仮定される中国文明史の中で、国家の形成という遠大な設問に挑む歴史学者の冒険譚。

著者 下田 誠
ジャンル 歴史・考古・言語
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2022/10/25
ISBN 9784894898103
判型・ページ数 A5・66ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
 1 本書の問いについて
 2 本書の構成について
 3 本書の使用する史資料

一 歴史学の可能性
 1 歴史学の可能性――事実認識と歴史認識
 2 関係がつむぐ知――他分野との交流から

二 中国文明を読む
 1 中国文明の書かれ方――中国・台湾・欧米における
 2 中国文明の書かれ方――日本における
 3 蘇秉琦氏の場合
 4 殷代の概要
 5 王震中氏の場合――夏王朝・殷代
 6 王震中氏の場合――陶寺遺跡の評価をめぐって

三 周代(西周・東周〔春秋戦国〕)時代の見方

 ◆コラム――地域研究としての中国文明

おわりに

注・参考文献
あとがき

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内容説明

国家って
なんだろう?!

紀元前3500年頃から紀元前200年頃という長い時空
に、さまざまな文化・文明が生まれ、いくつもの国家の萌芽
が仮定される中国。本書は、中国文明史における国家の形
成という遠大な設問に挑む歴史学者の冒険譚である。

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      はじめに より



 
 中国文明について、読者はどのようなイメージをおもちであろうか。黄河文明や長江文明のような四大文明のひとつとして、エジプト・メソポタミア・インダス文明との比較で関心をおもちの方、また日本の歴史の源流として関心をよせている方もいることだろう。また、三星堆や兵馬俑など、博物館や特別展で目にする珍しい文物から、興味をもつ方もおられるだろう。

 本書では、中国の改革開放以降の、中国考古学の黄金時代において注目される中国の研究者二名による文明形成にかんする視点を手がかりに、中国文明にかかわる発掘や研究状況を概観しつつ、筆者の文明や国家形成にたいする理解をしめすものである。五頁の年表をご覧いただくと、本書はおよそ紀元前三五〇〇年頃から紀元前二〇〇年頃の長い時間を対象としていることがわかる。世界と日本をみれば、エジプトにピラミッドがつくられ、オリエントに都市国家や統一国家が建設された。またギリシア・ローマにはポリスが成立し、アレクサンドロス大王の帝国が築かれた。日本では縄文・弥生という時代にあたる。前八〇〇〇年紀以降、各地で牧畜農耕が広がり、文字の発明や金属器の使用、神殿・宮殿の建設、信仰・崇拝等があり、文明と国家の起源をめぐり研究が進められている。本書は中国を対象に国家形成にかかわる主要な見方を「読む」ものであるが、副題のとおり、期せず、諸説は協奏となり響きあっている。

 本書の「問い」は、中国文明史における国家の形成をどのようにとらえるかという点にある。読者諸賢も夏王朝のことは聞いたことがあるかもしれない。かつて「幻の」といわれていたが、現在の中国考古学では、日中ともに、およそその存在を想定して研究が進められている。それでは、この夏王朝の頃に「国家」はあったのだろうか。通常、中国の研究者は夏王朝の頃から、つづく殷王朝・西周王朝においても国家が存在したと考えている。しかし、日本の議論では西周につづく春秋戦国時代(東周時代)に国家が成立すると考える議論も有力である。国家がなかった時代のことは一般に「氏族制」や「首長制」の時代と理解されている。日中の学者の間で、中国の国家成立の時期にかんする判断は一五〇〇年以上も離れることになる。このようなズレが生じるのはなぜだろうか。ひとつの原因は「国家」の定義が研究者により異なることがあげられる。ただし、ことはそれほど単純ではなく、筆者の旧松下国際スカラシップ(現松下幸之助国際スカラシップ)による派遣先での研究も文明起源・初期国家論を中心に二〇世紀中国における学術史(史学史)の展開をみるものであった。

 本書はこのように中国文明をめぐる探究に際して、国家形成を主題に話をすすめるが、中国文明にかぎらず、文明をめぐる議論は懐が深く、さまざまなアプローチがありうる。文字の発生や金属器の使用、城壁の建設、農業の開始、祭祀や宗教、戦争等、多様な接近方法がある。筆者はそうした多彩なテーマのなかで、「国家」に関心をもったということである。さきにしるしたように、国家の定義や認識の相違によって、国家成立の判断が一五〇〇年以上も異なることは、純粋に不思議なことである。そうしたことに興味をもつ者がいてもよいだろう。別のいい方をすれば、すでに多くの学者が農業の発生や文字の使用、青銅器の鋳造、城壁の建築、祭祀や宗教について、日本と中国、そして世界で多くの著作が発表されている。しかし残念ながら、社会科学のキーワードである「国家」について社会科学の手続きや方法・概念をふまえ研究をすすめる者は、かならずしも多くないため、筆者は学部・大学院の頃からこの点に傾注してきた。


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著者紹介
下田 誠(しもだ まこと)
1976年、北海道生まれ。
 学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程修了。博士(史学)。現在、東京学芸大学先端教育人材育成推進機構准教授。専門は中国古代史・高等教育論。2009年より2011年まで、松下国際スカラシップにより、中国社会科学院歴史研究所先秦史研究室において訪問学者として研修。
 著書に『中国古代国家の形成と青銅兵器』(汲古書院)、共著・分担執筆に『地下からの贈り物――新出土資料が語るいにしえの中国』(中国出土資料学会編、東方書店)、『中国百科――中国百科検定公式テキスト』(日本中国友好協会編、めこん)、主要論文に「青銅兵器銘文からみた戦国趙恵文王期の機構的改革をめぐって」『中国出土資料研究』第17号)、「封泥よりみた秦代の中央官制――その資料学的研究」佐藤正光・木村守編『松岡榮志教授還暦記念論集中國學藝聚華』白帝社)等がある。

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