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朝鮮民族説話の研究

朝鮮民族説話の研究

ハングル文化の誕生を告げる名著。韓国民俗学の土台となった古典を完訳。「朝鮮の日と月の伝説」「雨蛙の伝説」など58話を収録。

著者 孫 晋泰
金 廣植
鄭 裕江
馬場 英子
樋口 淳
ジャンル 民俗・宗教・文学
シリーズ 風響社あじあブックス > あじあブックス別巻
出版年月日 2023/02/20
ISBN 9784894893160
判型・ページ数 A5・392ページ
定価 本体3,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

刊行にあたって(樋口 淳)

●本文篇

はじめに

第一篇 中国に伝わった朝鮮説話

   1 新羅の金の錐説話
   2 兄弟が金を投げ捨てた話

第二篇 中国の影響を受けた民族説話

   1 大洪水伝説
   2 南斗七星、北斗七星と短命運の少年の話
   3 広浦伝説
   4 義犬伝説(その一)
   5 義犬伝説(その二)
   6 美しいタニシ妻
   7 雨蛙伝説
   8 阿娘型伝説
   9 孫順が児を埋めた伝説
   10 妻と妾が白と黒のひげを競って抜く話
   11 尚州五福洞伝説
   12 烈女であって烈女でない女の伝説
   13 沐浴は見るなの話
   14 仙境に遊んで斧の柄が朽ちる
   15 左七右七、横山倒出
   16 子どもの知恵に関する話
   17 李太祖墓地の伝説
   18 王祥が鯉を得た伝説
   19 潮の話
   20 山の三人の遺体と銭の話
   21 姜邯賛、蛙が鳴くのを禁じる
   22 山が高いのは、岩が支えるから
   23 米袋がしゃべる話
   24 甕売りの九九の話

第三篇 北方民族の影響を受けた民族説話

   1 大戦争伝説
   2 犬と猫が宝珠を取り戻す話
   3 地下国大盗賊退治説話
   4 朝鮮の日と月の伝説
   5 牛の糞で転んだ虎
   6 興夫の話

第四編 日本に伝わった朝鮮説話

   1 使臣間の手問答
   2 雨蛙の伝説
   3 虎より怖い干し柿の話
   4 三年、物言わぬ嫁の伝説
   5 朝鮮の日と月の伝説
   6 虎と兎の話
   7 おろか婿の話
   8 茄子で泥棒を追いはらった話

第五篇 仏典由来の民族説話

   1 洪水の話
   2 鱉主簿の話
   3 棄老伝説
   4 夫婦が餠を争う
   5 善人が金を拾った話
   6 鹿と兎とヒキガエルの歳自慢
   7 鏡知らずの話
   8 西山大師の話

第六篇 世界に分布する説話

   1 大蛇[あるいは大ムカデ]退治伝説
   2 白鳥処女伝説
   3 甄萱型伝説

第七篇 その他の説話

   1 海の水が塩からいわけ
   2 顔面で粉に印をつける
   3 妻を懲らしめる話
   4 小僧の話
   5 醜かったり美しかったりする妻
   6 名官が長丞を裁く話
   7 鯉を放して宝を得る話

おわりに

●解説篇

孫晋泰の「朝鮮民間説話の研究」と『朝鮮民族説話の研究』との比較研究(金 廣 植)

   はじめに
   「朝鮮民間説話の研究」と『朝鮮民族説話の研究』との比較
   「朝鮮民間説話の研究」の形成過程
   おわりに

孫晋泰『朝鮮民族説話の研究』の「説話」について(馬場英子)

   雑誌『新民』連載時の「朝鮮民間説話の研究」の構成
   『朝鮮民族説話の研究』の構成
   孫晋泰の目指したもの
   附表:『朝鮮民族説話の研究』のタイプインデックス対照表 333
   【参考資料1】話者一覧 352
   【参考資料2】引用書一覧 353

解題にかえて(樋口 淳)

   一 留学までの歩み
   二 『朝鮮古歌謡集』と孫晋泰の歴史観の変遷
   三 『朝鮮神歌遺篇』と『朝鮮民譚集』について
   四 「朝鮮民間説話의研究」と『朝鮮民譚集』について

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内容説明

ハングル文化の誕生を告げる名著
「生まれつつあるハングル文化と旧世代の漢文化の混在した朝鮮文化移行期を生きた孫晋泰は、明治初期日本の夏目漱石や南方熊楠のように自在に漢文を読みこなし、朝鮮・中国の知識人が愛した古典籍の世界に親しむ一方で、両班の教養とはほど遠い庶民の語る民譚や巫覡の巫歌の世界に分け入り」(本書「刊行にあたって」)著した、韓国民俗学の古典を完訳。「朝鮮の日と月の伝説」「雨蛙の伝説」など58話を収録。

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刊行にあたって(樋口 淳)より

  

 

 本書は、孫晋泰著『朝鮮民族説話의研究』(一九四七年四月 ソウル 乙酉文化社)の翻訳です。本書の書名は直後に『韓国民族説話의研究』と改められましたが、内容は変わりません。孫晋泰は出版にあたって、本書が「一九二七年八月以来、『新民』という雑誌に国文(朝鮮語)で十五回にわたって発表した朝鮮民族説話の研究を当時発表した内容そのままに、まずは上梓することを約束したものである」と述べています。

 『新民』は日帝時代(日韓併合期)にソウルで一九二五年五月から一九三二年六月(第七三号)まで刊行された朝鮮語の月刊総合誌で、崔南善、李允宰、李秉岐、李殷相、梁柱東など当時の知識人が多数参加した重要な雑誌ですが、残念なことに散逸し、その後の復刻版にも欠号が多く、韓国の国立中央図書館や日本の国会図書館にも完全には所蔵されていませんでした。幸い孫晋泰論文掲載号に関しては、筆頭翻訳者である金廣植が韓国各地の図書館の蔵書を辿って十五回全ての連載論文をチェックし、孫晋泰の言葉通り、若干の異同はあるものの大きな修正はないと確認することができました。

 孫晋泰は、一九〇〇年に慶尚南道の釜山に近い東萊で生まれ、一九二一年にソウルの中東中学校を卒業し、東京の早稲大学第一高等学校予科に入学しました。

 雑誌「新民」に「朝鮮民間説話의研究」を連載していた一九二七年夏から一九二九年春に至る時期は、早稲田大学を卒業し、当時開設されたばかりの東洋文庫に研究の場を得て、『朝鮮古歌謡集』(1929)、『朝鮮神歌遺篇』(1930)、『朝鮮民譚集』(1930)という三冊の著書を準備しながら、韓国全域で民譚(民話)と巫覡の語る祭祀と神歌の調査を行うと同時に、後に『韓国民族文化의研究』(一九四八年乙酉文化社)にまとめられる考古学・人類学・民俗学調査を盛んに行っていた、研究活動の全盛期でした。

 本書は、したがって孫晋泰の民譚と民俗、そしてシャマニズムの現地調査の成果を、東洋文庫における古典籍の調査によって裏づけた成果であるといってよいと思われます。

 漢文の教養を絶対視していた朝鮮王朝の両班文化は、一八九四年に開化派の金弘集の手で断行された甲午改革によって転機を迎えましたが、孫晋泰より少し年長の李能和や崔南善の世代の知識人は、当初ハングルを自由に使いこなすことができませんでした。

 生まれつつあるハングル文化と旧世代の漢文化の混在した朝鮮文化移行期を生きた孫晋泰は、明治初期日本の夏目漱石や南方熊楠のように自在に漢文を読みこなし、朝鮮・中国の知識人が愛した古典籍の世界に親しむ一方で、両班の教養とはほど遠い庶民の語る民譚や巫覡の巫歌の世界に分け入りながら、その一方で白鳥庫吉や津田左右吉のような年長の日本知識人と対等に付き合うことができたのです。

 今日、本書に孫晋泰が引用した漢文献を自由に読みこなす人の数は限られています。とくに二一世紀に入り漢字をほぼ全廃した韓国では、これを読み下す人はごく稀れです。

 日本の状況も韓国とほぼ同じです。本書では、漢籍部分の翻訳は、で中国民間文学専攻の馬場英子が担当し、孫晋泰が当時、東洋文庫で利用した本を確認しながら、なるべく読みやすい日本語にするように努めました。日韓の中央図書館から失われた『新民』の全号を検証し、救い出した金廣植の業績とともに、特筆に値するものと思われます。

 本書が改めてハングルに翻訳され、韓国の人たちが『朝鮮神歌遺篇』『朝鮮民譚集』とともに、少し前までの自国文化に親しむことができる日を待ち望んでいます。


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著者紹介

孫晋泰(ソン ジンテ)
1900年 慶尚南道東萊郡沙下面下端里生まれ。
5歳で津波により母を失う。1921年3月に中東学校(京城)卒業後、日本留学。早稲田第一高等学院を経て1924年早稲田大学文学部史学科に入学、西村眞次、窪田空穂、津田左右吉等の指導を受ける。1927年に早稲田大学を卒業後、東洋文庫勤務。1934年に帰国し、普成専門学校(現高麗大学)勤務。1945年8月の光復後、歴史家として解放後の韓国の教育文化政策に深く関与。1950年朝鮮戦争勃発直後、北朝鮮に渡り消息を絶つ。
日本滞在中の主要著書:『朝鮮古歌謡集』(刀江書院、1929)、『朝鮮神歌遺篇』(郷土研究社、1930)、『朝鮮民譚集』(郷土研究社、1930)。
光復(1945年)後の主要著書:『朝鮮民族説話の研究』(1947)、『朝鮮民族文化の研究(1948)』、『朝鮮民族史概論(1948)』(いずれも乙酉文化社)など。

訳者・解説者紹介

金廣植(キム・クァンシク)
1974年 韓国生まれ。
東京学芸大学大学院修了(博士) 立教大学兼任講師
主要著書:『植民地期における日本語朝鮮説話集の研究――帝国日本の「学知」と朝鮮民俗学』(勉誠出版、2014年)、『近代日本の朝鮮口碑文学研究』(寶庫社、2018年、韓国語)、『韓国・朝鮮説話学の形成と展開』(勉誠出版、2020年)、『北韓説話の新しい理解』(民俗苑、2022年、韓国語)など。
編著:『近代日本語朝鮮童話民譚集叢書』全4冊(寶庫社、2018年)など多数。
翻訳:『帝国日本が刊行した説話集と教科書』(民俗苑、2019年)、『文化人類学と現代民俗学』(民俗苑、2020年)など多数。

鄭裕江(チョン・ユガン)
1950年生 翻訳家。
翻訳:『韓国昔話集成』全8巻(悠書館、2020年)など。

馬場英子(ばば えいこ)
1950年生 新潟大学名誉教授 東洋文庫研究員。
専攻:中国文学。
主要著書:『北京のわらべ唄』全2巻(共編訳、研文出版、2020年)、『中国昔話集』全2巻(共編訳、平凡社東洋文庫、2020年)。
編著『浙江省舟山の人形芝居』(風響社、2020年)、『語りによる越後小国の昔ばなし』(知泉書館、2020年)。

樋口 淳(ひぐち じゅん)
1946年生 専修大学名誉教授。
専攻:比較民俗学。
主要著書:『民話の森の歩きかた』(春風社、2020年)、『妖怪・神・異郷』(悠書館、2020年)。
翻訳:『祖先祭祀と韓国社会』(第一書房、2020年)、『韓国昔話集成』全8巻(監修、悠書館、2020年)。


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