
今を生きる16の先住民族の人々と取り巻く社会の変化。人類、歴史、考古、言語等の最新の研究を基に多様な生活・文化、現状を紹介。
| 著者 | 日本順益台湾原住民研究会 編 |
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| ジャンル | 人類学 民俗・宗教・文学 歴史・考古・言語 社会・経済・環境・政治 |
| シリーズ | アジア・グローバル文化双書 |
| 出版年月日 | 2025/12/20 |
| ISBN | 9784894890534 |
| 判型・ページ数 | 4-6・436ページ |
| 定価 | 本体3,000円+税 |
| 在庫 | 未刊・予約受付中 |
目次
凡例
序章 原住民族概観
一 各民族の人口・分布(益田喜和子)
二 原住民族の分類(野林厚志)
第一章 原住民族研究小史──文化人類学を中心に(笠原政治)
はじめに
一 清国時代までの記録(─一八九五年)
二 日本統治時代(一八九五─一九四五年)
三 第二次世界大戦後(一九四五年─)
第二章 現代の原住民を取り巻く状況
はじめに──台湾原住民の植民地経験概観(宮岡真央子)
一 政治──一九四五年から一九九〇年代まで(宮岡真央子)
二 政治──二〇〇〇年代以降(石垣 直)
三 移行期正義(宮岡真央子)
四 教育(石垣 直)
第三章 各民族素描
はじめに(山本芳美)
一 タイヤル・タロコ・セデック(田本はる菜)
二 サイシヤット(陳 文玲)
三 ブヌン(石垣 直)
四 アミ(原 英子)
五 サキザヤ(原 英子)
六 ツォウ・カナカナブ・サアロア(宮岡真央子)
七 ピヌユマヤン/プユマ(蛸島 直)
八 パイワン(益田喜和子)
九 ルカイ(尤 驍)
一〇 タオ/ヤミ(野林厚志)
第四章 平埔族、新たな族群、意識
はじめに(満田弥生・山本芳美)
一 クヴァランと北部・東部の平埔族(清水 純)
二 サオと中部の平埔族(満田弥生)
三 シラヤと南部の平埔族(呂 怡屏)
四 新たな族群──都市原住民(岡田紅理子)
五 汎原住民族意識(益田喜和子)
第五章 言語研究への誘い
一 概説(森口恒一)
二 セデック語(月田尚美)
三 ブヌン語(森口恒一)
四 アミ語(今西一太)
五 パイワン語(大谷青渚)
六 ヤミ(タオ)語(森口恒一)
七 サオ語(新居田純野)
第六章 考古へのまなざし──台湾考古学と台湾原住民族の物質文化(角南聡一郎)
はじめに
一 学術組織概観
二 台湾の遺跡
三 先学の文献から学ぶ
四 モノに接する
五 日本との学術交流
六 デジタル情報を使いこなす
おわりに
第七章 原住民をめぐるさまざまな研究視点
一 原住民族の伝統知識と知的財産権(野林厚志)
二 文化資産と原住民アート(野林厚志)
三 文学(魚住悦子)
四 観光(尤 驍)
五 キリスト教と原住民族(岡田紅理子)
六 宗教の現在──ピヌユマヤンの事例から(蛸島 直)
七 神話(山田仁史)
八 台湾原住民族の日本語世代の語り──相互行為研究の視点から(荻原まき)
九 災害と原住民族(山西弘朗)
一〇 民族植物学(竹井恵美子)
一一 原住民族メディア・映画(山本芳美)
一二 原住民族とICT教育(尤 驍)
一三 伊能嘉矩と台湾原住民研究(田中梓都美)
第八章 原住民研究をめぐるエッセイ
参加して学ぶ「文化」──東華大学原住民民族学院舞團での体験を通して(大野颯真)
台湾原住民族との出会い──ルカイ族の村、霧台神山を訪ねて(庄田 詩)
タロマク部落の祖霊信仰(星野天河)
台湾原住民史研究を通して日本の植民地支配に向き合う(齊藤ゆずか)
崁頂村落におけるブヌン族の若者たちの部落移住百周年記念展(アリーマン タキスタラン イスタンダ)
族語学習──初学者のための手引きとして(石垣 直)
付録──参考図書、施設・団体一覧(編集委員ほか)
一 参考図書
二 施設・団体一覧
台湾原住民諸語比較基礎語彙
関係略年表
写真図表一覧
索引
内容説明
小さな島の多様な民族模様
今を生きる16の先住民族の人々──取り巻く社会の変化の中で考える。人類学、歴史、考古、言語等の最新の研究を基に、多様な生活・文化、現状を紹介。旧版から27年を経て編み直した総合小百科。(台湾・順益台湾原住民博物館創設30年記念出版)
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はじめに
台湾には、華語(いわゆる中国語普通話)で、「原住民族(Yuán zhù mín zú)」(以下、台湾原住民族)とよばれている先住民族がいる。本書は、台湾原住民族に関心をもっている、あるいは先住民族の研究や人文社会系の分野に入門しようとする読者に対して、台湾原住民族をめぐる研究の基礎的な視座を提供することを目的としている。
近年、台湾原住民族の研究は、文化人類学、歴史学、社会学、政治学、言語学、さらには博物館学やポストコロニアル研究など、複数の学際領域にまたがる知的フロンティアである。これは、台湾原住民族や台湾社会の多様性、歴史的重層性によるだけではなく、「先住」という概念が、国家、植民地主義、近代化と交差しながら形成されてきたことにも起因する。
台湾原住民族の研究の展開は、台湾の植民地経験と密接な関係がある。オランダ、スペインによる地域的支配、中国王朝や日本の統治、中華民国の権威主義体制、民主化政権といった異なる政治状況のもとで、台湾原住民族の社会的な位置づけは変化してきた。そして、政治経済的、社会的、文化的な長期にわたる「周縁」化は、言語や慣習、生活様式、価値観の転換を台湾原住民族に強いてきた。
一九八〇年代以降、台湾の民主化、先住民族の権利と尊厳を求めるグローバルな動きに歩調をあわせ、自己決定・土地権・文化復興を主軸とした「原住民(族)運動」とよばれる社会運動が展開した。この運動の到達点は、先住民としての「原住民」の存在を明確にした一九九四年の憲法改正であった。以後、二〇〇五年には国連の先住民族権利宣言といった国際的な基準に沿い、台湾における先住民族の人権、文化、言語、教育、土地、自治などの基本的権利を保障した法整備として、「原住民族基本法」が制定され、二〇一六年には当時の国家元首であった蔡英文総統が、台湾原住民族がおかれてきた被支配的な状況への正式な謝罪を行い、権利の回復のための制度改革などの道筋を示した。
こうした台湾社会の動きに呼応し、「語る主体」としての台湾原住民族の登場も顕著となっている。学術研究、芸術や映画、音楽といった表現領域、自らの言葉で歴史や文化を綴るオートエスノグラフィ(自伝的民族誌)の営みは、従来の研究の方法や倫理にも根本的な再考を迫るものと言えるだろう。ここで重要となるのが、台湾原住民族に関わるこれまでの学術研究が何をどのように明らかにしてきたかということである。とりわけ日本統治期には、台湾原住民族は民族学、自然人類学の調査の対象とされ、それらから得られた知見は学術的な見解のみならず、博物館展示や観光表象の中にも深く組み込まれ社会に普及していった。今日の台湾原住民族研究はこうした知の系譜とどう向き合うかが問われている。
本書にはその前身となる入門書『台湾原住民研究への招待』(一九九八年、風響社)が存在する。今回、装いもあらたに本書を刊行するのは、台湾原住民族社会をとりまく風景が当時とは大きく変わってきたとともに、台湾原住民族を研究する側も、さまざまな立場、多岐にわたる分野、研究の拠点とする国や地域において、大きな変化が生じているからである。平埔族の「正名」、汎原住民族意識、移行期正義(「轉型正義」)といった現在進行形の課題は将来に向けて当事者が深く関心をもつものと言えるだろう。
本書は、台湾の順益台湾原住民博物館(林純姬董事長、游浩乙館長)の研究助成の成果によるものである。本書の刊行も含めて、同館が三〇年以上にわたり日本における台湾原住民族研究を支援してくださっていることに心より感謝申し上げたい。また、前掲書と同様、風響社の石井雅氏には、新たな本の構想から刊行にいたるまで、忍耐強く伴走していただいた。深く感謝したい。
二〇二五年八月一日 台湾原住民族の日に
執筆者を代表して 野林厚志
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執筆者および担当一覧(アルファベット順、編集担当は※)中生 勝美(なかお かつみ)
アリーマン タキスタラン イスタンダ(Aliman Takistalan Istanda)日本順益台湾原住民研究会会員/崁頂村落におけるブヌン族の若者たちの部落移住百周年記念展
陳 文玲(CHEN Wenling)日本順益台湾原住民研究会会員/サイシヤット
原 英子(HARA Eiko)岩手県立大学盛岡短期大学部教授/アミ/サキザヤ
星野 天河(HOSHINO Tenga)国立高雄師範大学台湾歴史文化及び言語研究所修士課程/タロマク部落の祖霊信仰
今西 一太(IMANISHI Kazuhiro)株式会社エス・アイ代表取締役/アミ語
石垣 直※(ISHIGAKI Naoki)沖縄国際大学総合文化学部教授/政治:2000年代以降/教育/ブヌン/族語学習/年表
笠原 政治(KASAHARA Masaharu)横浜国立大学名誉教授/原住民族研究小史:文化人類学を中心に
呂 怡屏(LU Yiping)国立台湾歴史博物館研究部助理研究員/平埔族(南部)
益田喜和子(MASUDA Kiwako) 慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程/各民族の人口・分布/パイワン/汎原住民族意識/施設・団体一覧
満田 弥生(MITSUDA Yayoi)国立台東大学人文学部助教/平埔族(中部)
宮岡真央子※(MIYAOKA Maoko)福岡大学人文学部教授/はじめに:台湾原住民の植民地経験概観/政治:1945年から1990年代まで/移行期正義/ツォウ・カナカナブ・サアロア/年表
森口 恒一(MORIGUCHI Tsunekazu)静岡大学名誉教授/言語研究への誘い:概要/ブヌン語/ヤミ/タオ語
新居田純野(NIIDA Sumino)長崎外国語大学元教授/サオ語
野林 厚志(NOBAYASHI Atsushi)国立民族学博物館教授/はじめに/台湾原住民分類と民族認定/原住民族の伝統知識と知的財産権/タオ/ヤミ/文化資産・原住民アート
荻原 まき(OGIWARA Maki)桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群専任助教/日本語世代の語り/年表
岡田紅理子(OKADA Kuriko)ノートルダム清心女子大学キリスト教文化研究所講師/都市原住民/キリスト教と原住民族
大野 颯真(OHNO Kazuma)国立東華大学原住民民族学院民族事業発展学科大学院修士課程/参加して学ぶ「文化」――東華大學原住民民族学院舞團での体験を通して
大谷 青渚(OTANI Haruna)日本順益台湾原住民研究会会員/パイワン語
齊藤 ゆずか(SAITOUH Yuzuka)京都大学大学院文学研究科現代文化学専攻修士課程/台湾原住民史研究を通して日本の植民地支配に向き合う
清水 純(SHIMIZU Jun)日本大学経済学部特任教授/平埔族(北部・東部)
庄田 詩(SHODA Uta)大阪大学大学院人間科学研究科人類学分野修士課程/台湾原住民族との出会い:ルカイ族の村、霧台神山を訪ねて
角南聡一郎(SUNAMI Soichiro)神奈川大学国際日本学部准教授/考古へのまなざし
蛸島 直(TAKOSHIMA Sunao)愛知学院大学文学部教授/ピヌユマヤン/プユマ/宗教の現在―ピヌユマヤンの事例から
竹井恵美子(TAKEI Emiko)大阪学院大学国際学部教授/民族植物学
田本はる菜(TAMOTO Haruna)成城大学文芸学部専任講師/タイヤル・タロコ・セデック
田中梓都美(TANAKA Azumi)大阪電気通信大学人間科学教育研究センター非常勤講師/伊能嘉矩と台湾原住民研究
月田 尚美(TSUKIDA Naomi)愛知県立大学外国語学部教授/セデック語
魚住 悦子(UOZUMI Etsuko)日本順益台湾原住民研究会会員/文学
山田 仁史(YAMADA Hitoshi)日本順益台湾原住民研究会会員/神話
山本 芳美※(YAMAMOTO Yoshimi)都留文科大学教養学部教授/各民族素描・はじめに/平埔族、新たな族群、意識 ・はじめに/原住民族メディア・映画/付録 施設・団体一覧/年表
山西 弘朗(YAMANISHI Hiroaki)香川大学大学教育基盤センター非常勤講師/災害と原住民族/年表
尤 驍(YOU Xiao)大阪観光大学観光学部講師/ルカイ/観光/原住民族とICT教育

