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宮座と当屋の環境人類学

祭祀組織が担う公共性の論理

宮座と当屋の環境人類学

宮座と当屋制は、入会山野から川・ため池等を経て海に注ぐ水利配分の広域的な地域社会関係を調整するシステムでもあった。

著者 合田 博子
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学専刊
出版年月日 2010/02/28
ISBN 9784894891531
判型・ページ数 A5・400ページ
定価 本体6,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき

序章

第一章 宮座研究史における当屋制

第二章 本書の分析視点──〈開かれつつ閉ざされる〉論理の視点から

第三章 方法論としての環境人類学

第四章 兵庫県南部の宮座と当屋制の事例──水域ネットワークによる分析

第五章 「灘のけんかまつり」と松原八幡神社の祭祀組織の事例
     ──当屋制システムにおける輪番制との関連

第六章 宮座・当屋制と仏教儀礼

第七章 宮座・当屋制と村落および村落間関係との相互連関性

第八章 宮座・当屋制と水利・入会山林野への社会的調整機能

終章 当屋制と〈開かれつつ閉ざされ〉〈閉ざされつつ開かれる〉社会
     ──当屋制システムの現代的意味と今後の課題

あとがき
参考文献
索引

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内容説明

宮座とその運営システムである当屋制は、入会山野から川・ため池等を経て海に注ぐ水利配分の広域的な地域社会関係を調整するシステムでもあった。兵庫県の調査資料を駆使しながら、宮座研究の現代的意義を明らかにした画期的労作。


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まえがき

播磨(兵庫県)には、いまこの現在も生成されつづける祭りと、文化財指定をうけているが、後継者がおらず廃れかけている儀礼が隣り合って存在している。「われわれの村では当屋の引き受け手がいるかどうかと毎年はらはらさせられるのに、なぜ灘の祭りはあんなに盛んなのだ」という最初の調査の年に聞いた古老の述懐をきっかけに、筆者にも生まれたその素朴な疑問は、さらに調査を続けるごとに筆者の内部で大きな学問的問いかけとなっていった。


そしてそれからおよそ十年近くたった時、土木工学や河川工学の専門家とともに、ため池をめぐる共同研究に参加するうちに、突然あることに気づいた。「かつて当屋制を求めて行った調査地には、すべてため池があった」のである。兵庫県はため池の多い県であり、当屋制の残る地域は、たとえ兼業農家で細々と田圃を作っていたとしても、農業を続けている場所である。それゆえ、ため池があっても何も不思議ではないかもしれない。しかし、この偶然の発見は、かつての調査地に、今度はため池のことを聞きに再調査に行こうと筆者に決心させるに十分な説得力をもっていた。この二つの何気ないフィールドワークのこぼれ話から、「まえがき」を導いていこう。


本書の内容は、兵庫県を中心とした豊富な宮座・当屋制の事例調査分析を通して、中世以来現代にも存続する祭祀組織・宮座とその運営システムである当屋制が、村落内部を統合するのみならず、林野・水などの公共資源の配分をめぐる広域的な地域間関係を調整する機能を持つことを論じている。その考察過程において、環境と人間との相互作用という切り口から、祭祀組織としての社会集団・宮座と運用システムとしての当屋制を対象としたために、「環境の社会化」における祭祀組織の果たす調整的役割の分析が中心となった。そこでの方法論として、専門とする文化人類学のなかでも特に社会人類学と経済人類学の理論を重視した。その結果、もし本書が文化人類学の応用分野としての環境人類学的考察になりえているとすれば、筆者にとっての大きな幸せである。


従来の宮座研究は、祭祀組織としての宮座自体のタイプ分けに始まる組織と機能の比較分析、さらに宮座・当屋制が担ってきた村落内における社会統合の役割について論じられてきた。


本書の視点は、先行研究をふまえたうえで、さらに進んで、二一世紀を迎えた環境の世紀という現代社会における宮座・当屋制の意義を再検討することに重点を置いている。具体的には、住民による神社運営のための社会装置である宮座・当屋制が、特にため池などの水利配分をとおして、「環境と人間との相互作用」を具現化してきたと捉える議論が軸となっている。これは、宮座研究に新たな視点を導入するのみならず、環境人類学が指向する課題のひとつである「環境の社会化」の理論形成に資する新たな研究事例を提供することになる。


このような研究のスタンスは、従来から宮座研究に動員されてきた人類学、民俗学、社会学、歴史学、宗教学、社会経済学に加えて、経済学、法学、社会哲学、環境哲学などの広範な学問分野を猟渉することになった。多岐にわたる分野の学問的成果の参照は果敢すぎる冒険でもあって、ともすれば対象の拡散や方法論のあいまいさというリスクにさらされることになる。しかし、環境と人間との相互作用について、文化人類学の応用研究として環境人類学的研究を志向する上で、学際的な色彩を帯びるのは当然であり、避けることができなかった道筋であったと感じている。また、既成の学門分野間のニッチを探り隙間を埋めるだけではない、新たなパラダイムの転換を求められることとなり、いま、まさにその峠をめざした途についたところである。

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著者紹介
合田博子(ごうだ ひろこ)
1946年生まれ、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得中退、社会人類学博士(東京都立大学)
現在 兵庫県立大学環境人間学部教授
著作 「森を守る法・森を破壊する法」『環境歴史学の探究』(岩田書院、2005年所収)、「入が池と丹生都比売」『地域をはぐくむネットワーク』(昭和堂、2006年所収)、「山・川・海をつなぐ水陸両用の神々と水の技術 水域空間の文化人類学」『日本文化の空間学』(東信堂、2008年所収)ほか。

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