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日本の家族における親と娘

日本海沿岸地域における調査研究

日本の家族における親と娘

実家と嫁いだ娘が強い絆を持つ、山形・新潟・福井の事例を通し、日本の家族を再考。「家制度」を離れて、女性の多様なあり方を示す。

著者 植野 弘子
蓼沼 康子
ジャンル 民俗・宗教・文学
シリーズ アジア研究報告シリーズ
出版年月日 2000/06/10
ISBN 9784894898004
判型・ページ数 A5・152ページ
定価 本体1,500円+税
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

はじめに   

1 課題──娘としての女性  

 一 親と娘に関する研究
 二 シュウトノツトメ研究
 三 本研究の経過

2 山形県温海町──シュウトノツトメ再考

 一 生家訪問の実態
 二 温海町の生家訪問

3 新潟県山北町

 一 雷
 二 山熊田
 三 山北町の生家訪問の特徴

4 新潟県朝日村──生家訪問の二形態

 一 朝日村
 二 高根
 三 下新保

5 福井県小浜市高塚──センダクガエリ再考

 一 小浜市高塚の概観
 二 婚姻・家族・親族
 三 生家訪問
  四 センダクガエリの事例
  五 高塚のセンダクガエリ

6 「家」と娘

 一 生家訪問慣行の比較
 二 先行研究の検討
 三 シュウトノツトメと「家」原理との対立

7 附論──現代都市部における婚出女性の娘としての意味

 一 家族の理想像
 二 息子と住むか、娘と住むか
 三 婚出女性の娘としての意味

 参考文献

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内容説明

シュウトノツトメ・センタクガエリ……、伝統的に実家と嫁いだ娘が強い絆を持つ、山形・新潟・福井の諸地域の事例を通し、日本の家族を再考。「家制度」のイデオロギーを離れて、女性の持つ多様なあり方を示す、斬新な報告。


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はじめに 植野弘子・蓼沼康子


本研究は、婚出した娘と親との関係から、日本の家族を再考しようとする試みの第一歩である。これまでの家族における女性についての研究では、婚家における女性の役割、つまり妻・母・嫁としての役割を主眼において女性のあり方をとらえようとしてきた。しかし、日本の家族においては、女性はそれほど婚家における役割だけに生きてきたのであろうか。親にとって、嫁にいった娘は、いなくなったものとして考えられるような存在であろうか。現代化した家族においては、結婚した娘がしばしば実家に出かけ、実家の親と密着した関係をもっている。さらには、「息子なんてつまらないもの、結婚したら嫁にとられてしまう」といった、姑となった母親たちが嘆く言葉を、よく耳にするような事態が起こっているのである。これは少子化した現代の家族であり、若者と女性が、日本の家族の姿を変えてきたといわれるところである。しかし、こうした状況は現代に至って急に始まったものであろうか。むしろこうした事態は、「家制度下においては結婚した女性達は婚家に閉じこめられたものである」という「常識」に従って、「新たな」傾向として認識されているのではなかろうか。日本の家族研究もこの常識の呪縛にからめ取られ、女性の多様なあり方をとらえきれなかったのではなかろうか。こうした疑問・課題がこの研究の根底にある。


このような疑問・課題に対して、女性とその生家の親との関係を、「家」の枠組みを越えてとらえることによって、日本の家族を再検討するのが本研究の目的である。その手始めとして、日本社会のなかで、伝統的に婚出後の娘が生家と強固な絆を有している地域社会について調査を行うことにした。こうした研究は、里帰り慣行を除いては、これまでほとんど行われていない。この課題の問題点として、娘と親との関係には恣意的・感情的な行為が多いという側面があり、制度として非常にとらえにくい問題が多くあることは否定できない。本研究においては、これまで研究が充分に行われてこなかった娘と親との関係に焦点を当てた分析を行ったこと、またこれまでこうした慣行について調査が行われてこなかった地域での一次資料を収集したことに意義はあったが、研究はまだ始まったばかりと言わざるを得ない状態である。しかし、伝統的家族形態についての資料を収集することによって、現代社会における変化する家族の娘と親との関係についての研究の必要性を痛感することになった。これに関しては、今回は文献研究に留まったが、今後、フィールドワークを行い、研究を拡げて行きたいと考えている。


本研究は、平成四・五年度文部省科学研究費補助金(一般研究C 課題番号〇四六一〇一八〇 研究代表者植野弘子・研究分担者蓼沼康子)の交付を受けて始まった。調査に際しては、現・明治大学政治経済学部山内健治助教授に研究協力者として参加していただいた。さらに、国立歴史民俗博物館上野和男教授には、調査研究の進め方、関連する資料に関して多くのご教授を賜わり、調査にも同行していただいた。平成六年三月には文部省へ報告書を提出したが、掲載できなかった資料も多く、またこうした慣行についての報告が少ないことから、調査資料の再整理・刊行を行うことの必要性を改めて感じた。そこで、上野和男教授が独自で行った山北町の調査資料も含めて、再度全体的に資料整理を行い、考察部分についてはさらに討論を行って書き改めたのが本書である。当初、平成六年の早い段階で出版する予定であったが、各執筆者の多様な事情のためにかくも遅くなったことは、お世話になった皆様に申し訳ない気持ちでいっぱいである。本書は調査資料の記述を中心としているが、こうした資料なくしては研究は進まないのも、また自明のことである。本書が日本の家族を再考するための一助となれば幸いである。


今回の研究には、多くの方から多面にわたるご指導・ご援助をいただいた。調査に際しては、新潟県朝日村教育委員会遠山昭一氏、高根区長板垣吉栄氏、高根老人会長遠山富次氏、下新保の横井五郎氏、山形県温海町教育委員会武田綾子氏、福井県小浜市高塚の豊永孝雄氏をはじめとして、暖かく我々を迎えて下さった多くの方々のご協力によって調査研究が可能となった。執筆中もお会いした折りのことを懐かしみながら、次回訪れる日までにと思いながら本書を仕上げた次第である。また、二世帯住宅研究所からは、娘と親の同居に関する貴重な資料をご提供いただいた。お世話になった方々に心から御礼申し上げたい。

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著者紹介
植野弘子(うえのひろこ)
1953年生、明治大学大学院博士後期課程満期退学、茨城大学人文学部教授。

上野和男(うえのかずお)
1944年生、東京教育大学大学院修士課程修了、国立歴史民俗博物館教授。

蓼沼康子(たでぬまやすこ)
1957年生、明治大学大学院博士前期課程修了、城西大学女子短期大学部助教授。

山内健治(やまうちけんじ)
1954年生、明治大学大学院博士後期課程満期退学、明治大学政経学部助教授。

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