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東アジアにおける文化の多中心性

東アジアにおける文化の多中心性

「中華」の大伝統の過去と現在、周縁のダイナミズム、地域システムの再構築/脱構築などの主題を、韓国・香港・台湾の事例から報告。

著者 三尾 裕子
本田 洋
ジャンル 人類学
報告書・報告論集
シリーズ アジア研究報告シリーズ
出版年月日 2001/05/30
ISBN 9784894898011
判型・ページ数 A5・278ページ
定価 本体3,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序   「中華」における文化の多中心性 (三尾裕子)

第1部 「中華」の大伝統の過去と現在

 香港道教界の成立と展開 ──「伝統的中国文化」とアイデンティティ(志賀市子)
 沈黙する多数派──韓国仏教の「過去」に関する試論(岡田浩樹)
 儒教規範の実践と評価 ── 韓国南西部南原地域における郷校表彰の事例から(本田 洋)

第2部 周縁のダイナミズム

 台湾アミ族における宗教の「漢化」(原 英子)
 降臨する神霊を通して見た韓国降神巫の類型分類に関する一考察
      ──ポサル,チョムジェンイなどと称される職能者を中心にして(川上新二)
 「異者」としてのタンゴル(網野 房子)

第3部 地域システムの再構築/脱構築

 地域活性化と地域アイデンティティ ──台北市市街地の一寺廟の試み (上水流久彦)
 牧師と教会 ── 韓国キリスト教の独自性 (秀村研二)
 空間の消失と多中心的な文化のゆくえ ──香港人類学素描 (芹澤知広)

補遺 ワークショップ「東アジアにおける文化の多中心性」について(本田 洋)

Table of Contents

索引

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内容説明

変容著しい東アジアの民俗社会を、中国文明との関係性と独自性から考察したワークショップの成果。「中華」の大伝統の過去と現在、周縁のダイナミズム、地域システムの再構築/脱構築などの主題を、韓国・香港・台湾の事例から報告。


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補遺 ワークショップ「東アジアにおける文化の多中心性」について  本田 洋


ワークショップ「東アジアにおける文化の多中心性」は,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究プロジェクト「「中華」に関する意識と実践の人類学的研究」(主査:三尾裕子,副主査:本田洋)の平成9年度第3回研究会として,1998年1月24日(土曜日)・25日(日曜日)の両日にわたって開催された。当日のプログラムは以下の通りである(報告者・コメンテーターの所属は,ワークショップ開催当時のもの)。


会場:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所セミナー室


第一日目(1月24日)午前11時より午後6時

0.開催主旨説明
三尾裕子(AA研所員)

1)韓国「韓国の社会変動と宗教:近年のフィールドワークの成果から」(このセッションのみ,ナグネの会との共催)
1. 本田 洋(AA研所員)「趣旨説明」
2. 網野房子(東京都立大学)「珍島の一巫女」
3. 川上新二(國學院大学)「降神巫の現状」
コメント(2,3に対して):安田ひろみ(京都文教大学)
4. 秀村研二(共同研究員・明星大学)「牧師と教会 ― 韓国キリスト教の一断面」
コメント(4に対して):林 慶澤(民族学振興会)
5. 岡田浩樹(甲子園大学)「韓国仏教の過去と現在 ― 「沈黙する多数派」から「発言する少数派」へ?」
コメント(5に対して):大野祐二(民族学振興会)
書面によるコメント:丹羽 泉(東京外国語大学)
土佐昌樹(神田外国語大学)
総括コメント:伊藤亞人(共同研究員・東京大学)

第二日目(1月25日)午前10時より午後6時

2)台湾
1. 上水流久彦(広島大学大学院)「宗教団体による地域活性化のメカニズム」
コメント:堀江俊一(共同研究員・中京女子大学)
2. 原 英子(九州大学大学院)「台湾アミ族の宗教における漢化」
コメント:笠原政治(共同研究員・横浜国立大学)

3)香港
1. 志賀市子(滋賀県立大学)「戦後香港道教会の動向 ― 「道教」へのベクトルが向かうもの」
2. 芹澤知広(奈良大学)「香港社会研究における中心と周縁」
コメント(1,2に対して):瀬川昌久(共同研究員・東北大学)

4)沖縄
小熊 誠(共同研究員・沖縄国際大学)「沖縄士族門中における姓の受容と同姓不婚」
コメント:植野弘子(共同研究員・茨城大学)


ワークショップ全体の総括には三尾裕子助教授があたり,四つのセッションのうち,1)(韓国)については本田が,2)(台湾)・3)(香港)・4)(沖縄)については三尾が,それぞれコーディネートを担当した。また,韓国セッションについてのみ,「韓国の社会変動と宗教:近年のフィールドワークの成果から」というサブ・テーマを掲げ,韓国・朝鮮研究者の集まりであるナグネの会との共催の形をとり,同会の関係者諸氏にも広く参加を呼びかけた。


今回のワークショップでは,報告者の方々にあらかじめ報告原稿のご提出をお願いし,本プロジェクト共同研究員,報告者,ならびにコメンテーター諸氏には,そのコピーを事前にお送りしてお読みいただいた上で,当日ご参加いただいた。年度末のお忙しい中,主催者側の無理なお願いに快く応じてくださった以上の諸氏に,この場をお借りして謝意を表したい。一方,盛りだくさんなプログラムを組んだため,全体としてのディスカッションに必ずしも充分な時間を割くことができなかった点については,参加者の方々,特に報告者諸氏に対して,お詫びを申し上げる次第である。


序にもあるように,本書の編集にあたっては,ワークショップにおけるセッション組みとは異なり,地域の枠にこだわらず,各論文で扱われている事象の共通性を重視して章立てを行った。それ故に,韓国セッション(兼,ナグネの会ワークショップ)についての趣旨説明は,本書より省く形をとった。サブ・テーマからもうかがわれるように,同セッションでは,近年,韓国社会を対象として精力的にフィールドワークに取り組んでいる若手・中堅研究者の中に,特に宗教や信仰の問題について,独自性の強い調査研究を進めつつある者が目立つ点に着目して,彼らによる新しい研究成果を,韓国の全体社会の脈絡,特に,1960年代中盤以降急激な勢いで展開した産業化・都市化の過程に位置づけるとともに,東アジア諸社会の事例との比較の視座を模索しようとした。このような二つの問題設定のうち,前者については,本書の構成に直接に反映させることはできなかったが,韓国の事例を扱った個々の論文から読みとっていただけるものと思う。むしろ,地域の枠を取り払うことによって,東アジア諸社会の様々な事例に見られる類似性,あるいはある種の同時代性を浮かびあがらせるとともに,個別社会の独自性を,よりヴィヴィッドに提示することができたのではないかと信ずる次第である。


ワークショップ当日の報告のうち,川上新二氏,芹澤知広氏,小熊誠氏の報告については,すでに別の形で刊行されているため,本書には収録できなかったが,川上氏と芹澤氏は,当日の議論との関連で,新たに書き下ろしの論考をお寄せくださった。三氏のご報告については,以下の通り刊行されている。本書とあわせてご参照いただければ有り難い。


川上新二. 1998. 「現代韓国社会における巫俗儀礼の一考察 ― 全羅南道珍島の事例から―」『国際地域学研究』創刊号, pp.35-50.
芹澤知広. 1998. 「文化とアイデンティティー ― 『香港人』・『香港文化』研究の現在」『岩波講座文化人類学13 文化という課題』(青木保他編), pp.143-171, 岩波書店.
小熊誠. 1999. 「近世琉球の士族門中における姓の受容と同姓不婚」『中原と周辺― 人類学的フィールドからの視点』(末成道男編), pp.263-284, 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所.


この他本書には,構成上のバランスを考慮して,本プロジェクト平成9年度第1回研究会(1997年6月28日開催)での本田の発表原稿を,改稿の上収録した。なお,本ワークショップの報告要旨は,アジア・アフリカ言語文化研究所『通信』93号, pp.37-41(1998年7月刊行)に掲載されている。ご関心がおありの方はそちらもご参照いただきたい。


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編著者紹介
志賀市子(SHIGA, Ichiko)東京成徳大学人文学部講師
岡田浩樹(OKADA, Hiroki)甲子園大学人間文化学部講師
原 英子(HARA, Eiko)岐阜市立女子短期大学講師
川上新二(KAWAKAMI, Shinji)在中華人民共和国日本国大使館専門調査員
網野房子(AMINO, Fusako)専修大学法学部助教授
上水流久彦 (KAMIZURU, Hisahiko)広島大学大学院博士課程
秀村研二(HIDEMURA, Kenji)明星大学日本文化学部助教授
芹澤知広(SERIZAWA, Satohiro)奈良大学社会学部講師
三尾裕子(MIO, Yuko)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教授
本田 洋(HONDA, Hiroshi)東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教授

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