ホーム > 台湾の宗教と中国文化

台湾の宗教と中国文化

台湾の宗教と中国文化

台湾の民間信仰・道教を、中国(宗教)史全体の流れの中で考察し、華北に偏りがちだった道教史研究に新しい地平を拓く初の試み。

著者 酒井 忠夫
ジャンル 民俗・宗教・文学
出版年月日 1992/06/18
ISBN 9784938718008
判型・ページ数 A5・318ページ
定価 本体4,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はしがき (酒井忠夫)

中国・台湾史よりみた台湾の道教 (酒井忠夫)

台南の道教と『道蔵秘要』 (丸山宏)

澎湖地区における鸞堂と寺廟 (石井昌子)

現代台湾佛教的學術研究 (釋聖嚴)

明代道教史上の全真と正一 (石田憲司)

南宋における社稷と社廟について──鬼の信仰を中心として (金井徳幸)

『宋高僧伝』に著れた新羅僧伝について (阿部肇一)

晋・南朝における仏教の地域性について──その素描的考察 (石田徳行)

玄宗皇帝の道教理解について (今枝二郎)

霊宝斎における斎戒の意義──懺悔と功徳 (山田利明)

吐蕃王チソンデツェンの対宗教政策──Tibetan King Khri srong lde btsan's countermoves for religion (光嶌督)

このページのトップへ

内容説明

台湾の民間信仰・道教を、中国(宗教)史全体の流れの中で考察し、華北に偏りがちだった道教史研究に新しい地平を拓く初の試み。正一派道教・台湾仏教等、幅広い主題の11論文を収録。山崎宏博士頌寿記念出版。


*********************************************


序文 酒井忠夫


日本における戦前の、中国の宗教特に道教に関する研究は、華北の道教をその主対象としていた。道教の成立以来の歴史をもった嗣漢天師府を称する龍虎山の正一教は、「華北の全真教」に対して「江南の正一教」といわれた通り、江南型の道教の主流として考えられたが、江南の正一教教団の実態調査研究によるものではなく、北京の東嶽廟や瀋陽の太清宮等の調査や「漢天師世家」等文献資料によってだけ正一教が論ぜられる傾向があった。清末に台湾が日本領となり、台湾総督府による台湾の宗教調査の成果が、それまで未調査のままに置かれていた江南、特にビン粤の道教の実態を示すものであったにも拘らず、日本の中央の学界はあまり関心を示さなかった。日本の学界は、むしろ満鉄調査部、それと連なる現地学者の華北の宗教、民間信仰、道教の調査研究の成果を主材料として、中国の道教全体を理解しようとした。


戦前・戦中期に、北京を中心に道教調査を行い、すぐれた報告書を刊行した故吉岡義豊博士は、戦後、私に台湾の道教や道教の神々のことを知った上で、華南の道教がこれまでの道教についての知見と余りにかけ離れているので驚いたと語ってくれたが、それは日本の学者の多くが感じたことであった。日本の道教学者は、戦後、次々に台湾に行って台湾の道教を研究した。その研究成果、調査報告には、民間信仰に関するものが多かったが、道教に関するものとしては、文部省科学研究費(海外学術調査)による研究成果として出版された大淵忍爾博士編『中国人の宗教儀礼』(一九八三年)の大著を代表的なものとして挙げることができる。中国台湾では既に林衡道教授、劉枝萬博士等が寺廟の基礎調査をまとめ、多くの学者が、『台湾文献』『台湾文献叢刊』等に道教、民間信仰に関する基礎資料や論文を公けにした。劉博士は台湾寺廟における祭ショウ儀礼等についてその調査研究の成果を公表し、丁煌教授等つづく諸学者は台湾の正一教及び清末以後の扶ケイ宗教結社や斎教及び大陸から入台した一貫道結社に関する論考を公けにした。最近は中央研究院民族学研究所の余光弘氏『媽宮的寺廟』(一九八八年)の如き名著も出版された。また宗教社会学の立場からのアメリカ流研究法による研究成果も逐次発表されている。一方、フランスのシッペール教授やアメリカのサソー教授も台湾の道教について学術的調査の上に、基本的な問題についての研究成果を公表した。


以上のように中国台湾の内外の多くの学者の諸研究が積み重ねられ、台湾総督府による宗教調査の後をうけ、台湾を含む華南の道教及び民間信仰・習俗文化の研究が進められたが、華北を中心にした戦前・戦中期の道教研究と台湾を中心にした戦前・戦後の道教研究とを合わせて一とした中国台湾の宗教(道教)史的諸課題の研究は、あまり進んでいなかった。中国全体の宗教・道教史の流れの中で、台湾の宗教・道教事象を調査研究しようとする調査研究計画が国立成功大学歴史学系を中心にたてられ、日本の学者に対して、調査研究への協助が要請された。私を中心に協助調査研究チームがどうにか編成され、既に二ヶ年前からその調査研究が実施された。たまたま戦後、中国台湾の政治・文化、特に宗教に深い関心を示していた中国仏教史・道教史の先達、山崎宏先生が米寿を迎えられたのを機に、私どもの台湾道教調査研究チームの学者たちと現代台湾の代表的仏教学僧、釈聖厳博士(山崎博士は同博士の学位論文に関係する)及び山崎教授の文理大・教育大時期の受業生数名の学者の論文を、台湾の宗教を中国全体の宗教(道教)史の流れの中で理解しようとする立場から、編成して刊行されたのが本書である。私どもの台湾道教調査チームの学者は、今枝二郎・石井昌子・山田利明・石田憲司・丸山宏諸氏と私で、他に野口鐵郎教授が調査チームの中心的役割を果たしてきたが、同教授の公務多忙のため、論文参加ができなかったことは残念である。今枝・山田両教授は都合によって台湾調査以外の論文を提出された。石田論文は明代の道教関係であるが、清代を経て現代の台湾の正一教へと連なる意味で、私の歴史学的総括論文とも関係する論著である。


なお、私は台湾の道教を調査する中で寺廟備え付けの籤を収集した。戦前・戦中期に北京等で収集した籤・薬籤や今井宇三郎・吉元昭治両氏収集の籤・薬籤を合わせて籤・薬籤の集成書を作って論文集の付篇とした。この集成書は、現在知り得る籤・薬籤を最も網羅したものであろうと思う。また私と吉元氏の一応の解説が収められている。
一九九二年三月十九日

*********************************************


執筆者紹介
酒井忠夫 1912年生まれ。筑波大学名誉教授。
丸山 宏 1959年生まれ。筑波大学歴史・人類学系専任講師。
石井昌子 1939年生まれ、創価大学総合文化部教授
釋 聖 嚴 1930年生まれ、中国文化大学教授
石田憲司 1948年生まれ、国士舘大学教養部講師
金井徳幸 1933年生まれ、東洋史研究会、宋代史研究会会員
阿部肇一 1928年生まれ、駒沢大学文学部教授
石田徳行 1932年生まれ、静岡高等学校長
今枝二郎 1930年生まれ、大正大学文学部教授
山田利明 1947年生まれ、東洋大学文学部助教授
光嶌 督 1924年生まれ、国士舘大学教養部教授

このページのトップへ