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歴史を彩る中国の女性

近代化への脈動

歴史を彩る中国の女性

宗族制や儒教倫理に縛られた女性像を、宋代を転機とした近代化の動きの中で捉え直す。そして女性家族から見た新「王安石」伝。

著者 東 一夫
ジャンル 歴史・考古・言語
シリーズ アジア・グローバル文化双書
出版年月日 1992/10/18
ISBN 9784938718121
判型・ページ数 4-6・246ページ
定価 本体2,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

第一章 恵みと恐怖の大黄河

 一 黄河の流れ
 二 恵みの黄河
 三 恐怖の黄河

第二章 中国の家庭生活と女性の立場

 一 男と女の地位逆転
 二 家族制度と女性の立場
 三 宗族制度と女性の立場
 四 婦徳の変遷と独裁政治

第三章 歴史を彩る女性群像

 一 多彩にわたる女性群像
 二 後宮の生態と格付け
 三 庶民の婦女生活
 四 女流学者の班昭
 五 炎の革命烈女秋瑾
 六 旧中国女性のまとめと展望

第四章 近代化への仕掛人王安石と閨門

 一 拗ね者呼ばわりされた王安石
 二 安石を育成した閨門達(母・祖母・妻)
 三 世代の若い閨門達と風景
 四 「吾心」の詩と安石家の閨門
 五 閨門にかげろう秋瑾の影

終わりに
関連年表

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内容説明

宗族制や儒教倫理に縛られた女性像を、宋代を転機とした近代化の動きの中で捉え直すもう一つの女性史。そして女性家族から見た新「王安石」伝。強い束縛の中で個性的に生きた中国女性の生き方を描く。


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はじめに 東 一夫


「歴史は夜作られる」とか、世界一の美貌といわれたクレオパトラとローマ帝国の運命を結びつけようとした言葉などがある。


「歴史を彩る中国の女性──近代化への脈動」というこの本は、このような言葉から連想される逸話を並べたような印象を起こさせるかも知れない。


確かにそのような感じの話が多いことは事実である。特に第三章で、独裁皇帝に付きものの「後宮三千人」と呼ばれた女性群の生態や、宮廷内で権力への野望に燃える女性達の執念にはその傾向が強い。


このような実際を知ることも、中国の歴史を知るためには大切なことである。紹介することをためらう必要はない。それでうっかり読めば、このような有様が中国女性の特徴だとさえ感じられるかも知れない。


しかしそのような話ばかりで中国の女性を塗りつぶしたら大変である。また私がこの本を書こうとした動機ともくいちがってくる。


この本を書きはじめた主な動機には二つのことがらがある。


一つは、中国の歴史を、男の側からではなく、女の歩みから眺めたいと考えたことである。二つ目は、昔の女性の中に、早くも中国を近代化に導く芽生えがあったことを確かめてみたいということである。もう少し説明を試みたい。


第一については次のようなことを考えている。


中国は世界で一番古い歴史をもつ国の一つである。しかも優れた文明が発達した国である。あの調子で進めば、生活の面でも文化の上でもまた国力の点でも、今頃は世界超一流の大国に成長していたかも知れない。


ところが実際はそのようにならなかった。すんなりした展開もなければ変化も起こらなかったのである。それは一体どのような理由からであろうか。そしてどのような風景が現れたのであろうか。このような疑問を女性の歩みから眺めたり考えたりしたいというわけである。


二つめの動機については次のようなことを考えている。


古い中国には、それまでの考え方にあきたらず、近代化への仕掛人(第四章参照)といってもよいほどの人物がいる。特に十一世紀という昔に出た理想主義者の王安石という大物がその代表である。


彼は一般庶民への福祉政策を推進するため、身を粉にして取り組んだ革新政治家であった。見方によっては、余りにも早く生まれ過ぎたと考えられるかも知れない。


このような時代、彼を精力的に思う存分活躍させ、何一つ小言をいわなかった王家の女性達は、それまでの女性とどのように違っていたかという点を探り出したいということである。


ところでこのような動機や意識は、昨日・今日という具合いに突然私の胸に湧き起こったのではない。


実は私の王安石研究は、学生時代から数えてもう五十年以上の歳月を費やしている。その間に、私なりに捉えた王安石についての本を五冊書いて世の中に送った。頁数にすれば全体で三千頁位になるのだろうか。そのほかに論文もかなり書いてきた。


しかし王家の女性達については、その都度気にかかりながら、ほとんど触れないままで月日を過ごしてきた。今ようやく彼女達のところにまで、手が届く段取りになったという次第である。


なお三年前に、「王安石紀念館」が彼の生まれ故郷撫州(江西省)に建てられた。随分立派なものらしい。たまたま私はそこの館長から、私の著書を寄贈して欲しいということと、直接来て観て欲しいということなどのお誘いを受けている。早速実現しようと準備したが、例の天安門事件が起こって行けなくなった。この本が出来上がったら、六冊揃えて是非とも参観したいと考えている。


念のため付け加えたいが、世界中の王安石研究家で、王家の女性達についてまで調べ上げた歴史学者は、まだ一人もいない。史料が少ないせいかも知れないし、女性の役割について関心が薄いせいかも知れない。

……

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著者紹介
東 一夫(ひがし いちお)
1911年、鹿児島県出身
1942年、東京文理科大学東洋史学科卒業
文学博士、東京学芸大学名誉教授
主な著書『文字と印刷』(世界社、1948年)
『東洋史上の古代日本』(共著、清水書店、1948年)
『王安石新法の研究』(風間書房、1970年)
『王安石 革新の先覚者』(講談社、1975年)
『王安石事典』(国書刊行会、1980年)
『王安石と司馬光』(沖積社、1980年)
『日本中・近世の王安石研究史』(風間書房、1987年)など。

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