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伊能嘉矩所蔵台湾原住民写真集

伊能嘉矩所蔵台湾原住民写真集

鳥居龍蔵と同時期に現地調査した伊能の資料を整理し、説明文を付す。領台初期の生々しい写真も多く、資料的価値は高い。

著者 日本順益台湾原住民研究会
ジャンル 書誌・資料・写真集
シリーズ 台湾原住民研究資料叢書
出版年月日 1999/03/30
ISBN 9784938718886
判型・ページ数 A4・316ページ
定価 本体6,400円+税
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

序文/末成道男
収録写真について/小林岳二
伊能嘉矩の台湾原住民研究の歴史学的価値/クリスチャン・ダニエルス
伊能嘉矩の台湾原住民研究の人類学的価値/小林岳二
伊能嘉矩所蔵写真/解説 小林岳二
 タイヤル
 サイシャット
 ブヌン
 ツォウ
 ルカイ
 パイワン
 プユマ
 アミ
 ヤミ(タオ)
 平埔族
 「理蕃」政策関係
 漢族の習俗
伊能嘉矩年譜/江田明彦

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内容説明

鳥居龍蔵と同時期に現地調査した伊能の資料を整理し、説明文を付したもの。鳥居写真集には見られない領台初期の生々しい写真も多く、資料的価値は高い。C・ダニエルス、小林岳二、末成道男、江田明彦による解説を付す。日中対訳版。


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序文
日本順益台湾原住民研究会代表
末成道男


本書は、伊能嘉矩所蔵の写真を選択、解説を付し、史学、人類学の立場から解説および年譜を加えたものである。ダニエルスによる解説「伊能嘉矩の台湾原住民研究の歴史学的価値」は伊能嘉矩の調査の意義とそれを規定していた条件を、とくに現在の人類学の傾向との異同に注意を払いながら考察を加えている。小林による解説「伊能嘉矩の台湾原住民研究の人類学的価値」は、伊能の研究の思想と時代背景を精査し、とくに第二章4節で、これらは、伊能の著述を読み直すと問題解決の手がかりが得られる可能性があるという注目すべき指摘を行っている。本書を企画したのは、これらの解説に詳しく述べられているように、収録写真が今日なお貴重な資料的価値を持っており、日本領台初期の台湾研究の先覚者として、ほぼ同時代に調査を行った鳥居龍蔵と並んで、現在学問的にも注目を集めている伊能の台湾学を再評価することによって、現在の台湾原住民研究に裨益するところが大きいと考えるからである。


伊能嘉矩は、1867年遠野に生まれ、1895年二十九歳で台湾にわたり、台湾総督府の委託を受け、四十歳までの十年あまりを原住民を含む台湾の調査研究に従事した。その主著『台湾文化志』・『台湾蕃政志』から、歴史資料を渉猟し集大成した歴史学者としての評価は高かったのであるが、領台初期の、未だ日本統治機構が整備されておらず、首刈りが盛んに行われていた期間に、ひろく現地を踏査し調査していたことが広く認識されるようになったのは、森口雄稔1992『伊能嘉矩の台湾踏査日記』が刊行されてからのことである。これは、さらに楊南郡による丹念な注釈と解説つきの中文訳により、台湾をはじめとして中国語圏でも知られるようになった。人類学者として、関心をそそるのは、その調査日記などを通してリアルに伝わってくる調査体験が、何故その著書の表面には十分表されず、その後の人類学的研究者の注意を引いてこなかったかという問題である。これは、上記の解説でもそれぞれの立場から詳細に論じられているが、筆者の考えでは、第一に、伊能の調査方法が、完結した調査表に基づいた演繹的方法によっており、その後の人類学で主流となったミクロな調査単位の集中調査による帰納的なデータの収集と性格が異なっていたからであり、また、第二には、その後の人類学が現在学的、機能主義的な人類学で、歴史資料の活用に十分な関心が向かわず、第三に、あとに続いた人類学者の側で漢族および平埔族への関心が希薄であったことにあると思う。


第一の演繹的調査法に関して言えば、『踏査日記』に収められて有る調査の指針としての一覧表や、言語調査に携行したと思われる『蕃語調査手帳』(森口恒一編、南天書局、1998)は、いずれも予想される問題点を体系的に質問して行くのに便利なように整理したものである。人類学でも今世紀初めまで使用されたNotes and Queriesなどの調査一覧も用いられたが、現在ではこのような調査項目一覧を用意してフィールドワークに向かうことはあまりない。むしろ、現地調査が進行した段階で、現地に合うリストを資料とりまとめのメモがわりに作ったり、執筆の参考にしたりする程度である。第二の、人類学者の歴史資料への無関心は、人類学の形成において主な対象とした未開社会の殆どが、文献資料を欠いていたことによる。台湾のように、古代以来の中国側の文献はともかく、原住民関係でもオランダの残した資料により、17世紀当時の集落名と戸口がわかるなどというのは希有の事例である。その後も、清明時代の資料や日政期の官庁関係資料や調査資料がこれだけ累積していて、人類学を現在学的分野であると自己規定して文字資料に目を向けないのは、禁欲的すぎよう。もちろん、日政期の研究者も、歴史的変化に無関心でなかったことは、『台湾高砂族系統所属の研究』が、主として当時遡れる限りの口碑を収集し、その移動をある程度あとづけようとしたことにも表れている。しかし、オランダ占領時代の宣教師の記録や土地契約文書などの歴史資料を発掘し、それらをフィールドワークと組み合わせて、過去の漢族との関係を解明して行こうという動きは最近まで表れていなかった。第三の台湾研究人類学者の漢族および平埔族研究への関心の乏しさも、1980年代になって、漢族村落のフィールドワークやクヴァラン族の現地調査が行われたことにあらわれているようにようやく克服されようとしている。しかし、漢族研究と原住民研究がそれぞれ独立に行われ、両者を結びつける動きは、「漢化」の研究を介して始まったばかりである。


最初の点は、先覚者としての時代的制約でもあったわけだが、あとの二つは、伊能よりも後進の側に問題があったと言えよう。そして、最近ようやく人類学の側にも、歴史資料の利用への関心が強くなり、平埔族研究ならびに漢族をも含めた原住民研究の必要が見直されているのである。伊能の再評価の機運は、この流れとは無縁ではない。さらに、つけ加えるなら、日本人の台湾研究の視点の問題を考えるとき、調査者の対象への見方と同時に自己の文化への見方が問題となるが、伊能の民俗学への関心および、業績は、台湾研究といかに関わっていたかを見る上でも重要であると思われる。
この写真集を編集するきっかけになったのは、伊能嘉矩の曾孫で伊能嘉矩研究を進めておられる江田明彦氏が、本会の研究会に伊能嘉矩所蔵資料を紹介下さり、会員一同が写真を拝見し、公刊して広く利用できるようにすべきであるという考えがまとまったことにある。伊能嘉矩資料の現在の所有者である伊能邦彦氏には、その使用と出版に、快く同意して下さった。また、資料を受託している遠野市立博物館には、小林岳二、陳文玲、許進発、宮岡真央子が一週間写真資料の調査を行った際にも、多大の便宜を図っていただいた。また、本冊をまとめ出版する費用は、順益台湾原住民博物館の研究補助金を得て可能になったものである。ここに記して謝意を表したい。

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編著者紹介
日本順益台湾原住民研究会(会長代行 末成道男)
執筆者
江田明彦(えだ あきひこ)  湘南工科大学
クリスチャン・ダニエルス   東京外国語大学
小林岳二(こばやし がくじ) 学習院大学大学院
末成道男(すえなり みちお) 東洋大学教授
中国語翻訳
許進発(きょ しんはつ)   東京大学研究生
陳文玲(ちん ぶんれい)   東京都立大学大学院

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