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台湾原住民研究 2

台湾原住民研究 2

漢化と近代化の波に呑まれ、消失・変容しつつある多様なその文化を、人類学の立場から考究。論文・資料・調査報告・エッセイ等。

著者 日本順益台湾原住民研究会
ジャンル 定期刊行物
シリーズ 雑誌 > 台湾原住民研究
出版年月日 1997/10/30
ISBN 9784938718954
判型・ページ数 A5・271ページ
定価 本体2,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

[論文・研究ノート]

高砂族の冠婚葬祭 (馬淵東一)
幻の〈ツァリセン族〉──台湾原住民ルカイ研究史(その1) ( 笠原政治)
台湾アミ族呪医シカワサイ儀礼の構成 ( 原 英子)
南勢アミ族の命名法  (長沢利明)
Vagina frontis──性交の起源の説話 (山田仁史)
「民話の神学」の文化論序説  (片岡 樹)
ヤミの礼棒:装飾の背景にある行動についての考察 (野林厚志)
安倍明義 覚え書き (土田 滋)
森丑之助の著作目録及び若干の解説  (宮岡真央子)

[資料]

スペイン語文献二種の翻訳について  ( 荻野 恵/土田 滋)
探検随観(伊能嘉矩著) ( 江田明彦編)
A Taokas Word List (Collected by K. Ino)  (土田 滋)

[短信]

山霧の彼方に(小林岳二)
「禿」と「日本人」(森口恒一)
日本人が台湾に残してきたもの(原英子)
焼畑の昭和草(長沢利明)
別れるときの儀礼(笠原政治)
くしゃみはタブー(蛸島直)
魂の遊離が病気を招く(原英子)
証文の出し遅れ的書評:宋龍飛文、陳壽美図『雅美族的船』;CHEN Kang Chai Taiwan Aborigines:A Genetic Study of Tribal Variations(末成道男)
凌純声所長の思い出(末成道男)
最近の「原住民族」をめぐる情況(小林岳二)
日本順益台湾原住民研究会について

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内容説明

かつて「高砂族」と呼ばれた台湾先住諸族の研究誌。漢化と近代化の波に呑まれ、消失・変容しつつある多様なその文化を、人類学の立場から考究、紹介。論文・資料・調査報告・エッセイなどを含む関連情報の拠点。


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高砂族の冠婚葬祭(一部紹介) 馬淵東一


高砂族と云っても、こヽに調査しえたのは大体中部山岳地帯しかも中央山脈以西の彼等である。それはアタヤル族の西南部、ブヌン族の西北部及びツォウ族の北半部にすぎないが、部族別に云えば相当数多い。即ち、アタヤル族のうちトロロ蕃、白狗蕃及びマレッパ蕃、ブヌン族では、卓社蕃、?社蕃、丹蕃、?蕃、郡蕃及びタコプラン蕃、またツォウ族のルフト蕃、トフヤ蕃及びタバク蕃、これらは、既に「高砂族系統所属の研究」にも明かにせられた如く、アタヤル族の大多数及び全ブヌン族の本拠地住民でもあり、また「北ツォウ」の殆んどすべてでもあって、この点、彼等の研究は広く台湾山地住民の旧慣を知る上に極めて重要性をもつと考へられる。


さて、これらの三種族についてみれば、冠婚葬祭のうち、「祭」は定期的に行はれるものが多く所謂年中行事に略々相当し、「冠」とみられるべきものは?々「祭」に附随して行はれる。また「婚」と「葬」とは定期的ならざるもの。ここには先づ「祭」より始めるのが便であらう。


併しながら、かヽる冠婚葬祭は種族によって著しく趣を異にし、同種族内でも部族的地方的相違はかなり大きい。彼等は経済的にみて何れも大差ない生活を営みつヽあるに拘らず、かヽる顯著な相違を示してゐるのは一つは吾々が直接窺ひ知るをえない様な古い種族的文化の諸性格によるとも云へるであらうが、他方諸種族社会の形態と組織とが彼等の冠婚葬祭にも夫々著しく異れる色彩を強く与へ居ることは否みえない。それ故こヽに先づ彼等の社会生活一般に関する叙述が望ましく、且つそれを顧みつヽ多数の種族的部族的及至は地方的差異にも觸れなければならないのであるが、いまこれは到底不可能である。筆者には何等の相談もなく定められた期限が若干すぎてゐるのに、資料の整理のみでも更に少なくとも二ヶ月を要し、まとめあげれば原稿千数百枚にも及ぶであらう。従って右の企圖一時はこれを断念せざるを得ない。且つ以下に述べるとことは云はヾ覚書きの性質を有すことをこヽにお断りしておかねばならない。


第一章 祭


狩獵は山地住民の生活に於いて確かに重要な役割を有するのであるが、それにも拘らず彼等の生活は何よりもまして農業に依存してゐる。祭についてみても農業関係のものが主要部分占めているのである。先づブヌン族から始めやう。


一、ブヌン族の祭
ブヌン族の祭は行事の数多さと煩雑さとで他の諸種族の間にずばぬけて頭角をあらわしてゐる。祭日のみでも、部族によって必ずしも一様ではないが、約八十日乃至百二十日に及ぶ。一年は十二ヶ月、その外に彼等は潤年をも設けてゐて、これは十三ヶ月。卓社蕃及び?社蕃では、これが明かでないけれども、丹蕃、?蕃では五年に一回潤年(四年平年が続き五年目に潤年)、郡蕃では三年に一回潤年であると云ふ。尤も彼等は月の盈虧のみならず、太陽及び星の運行や植物成育の状態をも考慮してゐるのであって、右の平年潤年の組合はせは大体のことにすぎず、事実は必ずしもその通りには行はれてゐない様である。


祭日は月々にふり分けられてゐて、規則正しく順序を追ふて祭祀が行はれ禁忌が守られる。のみならずこれらの祭祀は特に農業活動に密接な関係を有し、例へばブヌン族で最重要視せられる穀物即ち粟の播種や収穫は一定の祭祀を完了せる後でなければこれを行ふことを許されない。而してブヌン族は、月は数へるけれども日を数へないから、月々行はれる一聯の祭祀が何時幾日に始められるべきかについて予め決定されてゐるわけでない。これの決定については多少社衆の意向も関与するにしても、それは主として世襲的な司祭者の意向或ひは夢トによって決せられる。


かヽる一人の司祭者を中心とし、祭祀及びその期日を共にする仲間を「祭團」と呼ぶことヽしやう。ブヌン語ではこれはtaァi-to-lus?an,taァi-to-l0us?an或ひはtaァi-to-luts?an即ち「一つの祭」の意。一蕃社または数蕃社で一つの祭團を成すことが多く、時には同じ蕃社が二三の祭團に分かれてゐることもあり、かくて一部族には数人の司祭者とそれに応ずる数個の祭團がある。ブヌン族社会に於いて氏族の演ずる役割は極めて重要であるが、これとは関係なしに祭團は多くの場合地域團体の性質を帯びてゐるのである。


本来一つの部族は一つの祭團であったと思はれるし、またかく伝へられてゐるが部族の拡大につれて祭團は分裂せざるをえない。その理由として部族内の内訌も語られてゐるけれども、山脈或ひは特に雨期に於ける河川等の自然的障碍の為めに集合的祭祀が不可能なること、且つ土地の高低によって播種収穫等を同時期に行ひえざる為めに「一つの祭」をなし能はぬこと、これらが祭團分裂の主要なる原因であった。かくて分裂後の諸祭團は祭祀方法に関して夫々独自の発達変化をとげてゆくのであって、この傾向は祭團相互間の地理的距離に応じて一層著しく、同一部族内に於いても今日みられるヽ如きかなり大きな地方的相違をみるに至ったのであらう。


次に祭祀自体であるが、詳細な叙述は不可能であるから、こヽには二三の特徴について概括的に述べることヽしたい。
(後略)

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執筆者紹介
馬淵 悟(まぶち さとる)    北海道東海大学国際文化学部助教授
笠原政治(かさはら まさはる) 横浜国立大学教育学部教授
原 英子(はら えいこ)     九州大学大学院文学研究科博士後期課程
長沢利明(ながさわ としあき) 東京理科大学非常勤講師
山田仁史(やまだ ひとし) 京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程
片岡 樹(かたおか たつき) 九州大学大学院比較社会文化研究科博士課程
野林厚志(のばやし あつし) 国立民族学博物館助手
土田 滋(つちだ しげる)    順益台湾原住民博物館館長
宮岡真央子(みやおか まおこ) 日本順益台湾原住民研究会
荻野 恵(おぎの めぐみ)    東海大学他非常勤講師
江田明彦(えだ あきひこ)    湘南工科大学
小林岳二(こばやし がくじ) 学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程
森口恒一(もりぐち つねかず) 静岡大学人文学部教授
蛸島 直(たこしま すなお) 愛知学院大学文学部助教授
末成道男(すえなり みちお) 東京大学東洋文化研究所教授

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