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東方のイスラム

東方のイスラム

東南アジアに深く広がるイスラム教。知られざるアジアのムスリム達の、多様な生活・信仰を紹介する初の概説書。

著者 今永 清二
ジャンル 社会・経済・環境・政治
シリーズ アジア・グローバル文化双書
出版年月日 1992/06/18
ISBN 9784938718114
判型・ページ数 4-6・256ページ
定価 本体2,500円+税
在庫 品切れ・重版未定
 

目次

まえがき

      ●第一部 東方のイスラム

宗教に生きる東南アジアの人々

 多様性に富むアジア
 多元文化の世界――精霊・祖霊崇拝――
 上座部仏教
 中国人の宗教
 イスラム教

インドネシアの社会と文化

 多様性の中の統一
 信仰の自由
 重層信仰としてのイスラム
 近代化の問題

インドネシアのイスラム

 イスラム化
 スーフィズムの役割
 改革派と保守派
 イスラムの近代化
 複雑なイスラムの動向
 
タイのイスラム社会

 はじめに
 タイとは
 多様な民族
 タイ人の宗教
 タイのイスラム教徒
  中国系のホー・イスラム
  タイ・イスラム
  トンブリのシーア派
  タイ・マレー
  複雑なイスラム社会
 
中国のイスラム教とその社会

 中国のイスラム教徒
 イスラム教の戒律
 イスラム教の受容
 中国的イスラム社会の形成
 中国イスラムの宗派
  現代中国の回族政策

      ●第二部 イスラム世界を知る

イスラムの宗派と思想

 寛容のイスラム
 イスラム原理主義
 『悪魔の詩』事件
 タウヒード
 イスラムの経済倫理
 イスラムの都市性
 現代に生きるイスラム

イスラム世界の日常生活

 広島とイスラム
 イスラム世界のひろがり
 イスラム世界の風土
 インシ・アッラー
 シャリーア
 シャリーアの源泉
 聖典『コーラン』
 ムスリムの宗教生活
 聖廟・聖墓崇拝
 ヒジュラ暦と独特の生活習慣
 砂漠・農村
 イスラム都市

中東イスラム社会を考える

 中東社会とは
 中東の国々
 中東の歴史
 アラブの大義

  講演記録
  東方のイスラム関係略年表

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内容説明

 

世界最大のイスラム教人口をもつインドネシア、シーア派や中国系ムスリム社会をかかえるタイ等、東南アジアに深く広がるイスラム教。知られざるアジアのムスリム達の、多様な生活・信仰を紹介する初の概説書。

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まえがき
今永清二
一九九〇年八月二日、イラクが突如クウェートに侵攻し、中東は大きな混乱に巻きこまれた。アメリカは直ちにイラクの行動を批判し、多国籍軍によるイラク包囲網が形成された。国連中心のイラク経済封鎖も行われて、国際世論はイラクの行動を非難した。いわゆる湾岸危機である。
イラクはイラク在住の外国人を人質にとるなど、予想だにしない挙に出て、危機は増幅された。幸いに人質は解放されたが、一九九一年一月十七日、多国籍軍はイラクを空爆して全面戦争となった。湾岸危機転じて、湾岸戦争となったわけである。多くの人々が実感したように、まるでテレビゲームを見ているかのような戦争シーンが茶の間に飛びこみ、我々の不安をよそに戦争は烈しさを加えた。圧倒的な多国籍軍の前に、事実上イラクは敗北し、二月二十八日に戦争は終結した。
湾岸危機・湾岸戦争は、中東のアラブ産油国から大量の石油を輸入し、それによって経済発展を進めてきた日本にとって、中東に対する幅広く深い知識を求めさせることになった。あの石油ショック、つづく八年間にわたったイラン・イラク戦争も、それまで主として経済、あるいは国際政治の面だけで中東に関わってきた日本に対して、より広い文化的社会的認識の必要性を感じさせてはいたが、それ以上の衝撃をあたえたわけである。
これを機に書店には中東コーナーが特設され、中東アラブ関係、イスラム関係の本が並べられることになった。雑誌や新聞にもその方面の論文や記事が目立って多くなった。テレビでもアラブ諸国の紹介や、イスラム文化の映像が映し出され、国民の中東及びイスラム文化・社会に対する関心は高まった。
こうしたなか、広島でもさまざまなレベルでイスラム理解の講座が開かれた。数少ない在広のイスラム研究者として、私もいろいろな会合に引き出されることになった。もちろん中東専門家でない私としては、そのことを御断りした上で、イスラムについて、あるいはムスリムの宗教生活や暮らしぶりについて、地域も主として東南アジアや中国に限定して、御紹介するという程度のことしかできなかった。
湾岸危機・湾岸戦争は一つの契機ではあったが、それ以前から折にふれて、各地でイスラムについて話す機会は何度かあった。講演という性格上、同じようなことをあちこちで話したわけであるが、そのなかで偶然にもテープに録音したものがある。内容は重複した部分が多いものの、話し言葉のまま記録したものである。
湾岸戦争中講演したものは割愛したが、石油ショック以来イスラムへの関心が高まり、各地で話したものを、いわば講演集として出版することを思い立った。インドネシアやタイのイスラムの話が中心なので、タイトルはあえて「東方のイスラム」としてみた。
イスラム研究に即していえば、エドワード・W・サイード著『オリエンタリズム』(一九七八年)と『イスラム報道』(一九八一年)は、大きな問題を提起した。言うまでもなく、イスラム研究はヨーロッパ人学者がこれを開き、そのイスラム学の体系が構築されてきたのであるが、エドワード・W・サイードはそれをヨーロッパ人の観点からするイスラム像ないし中東像と規定し、その克服を主張する。また、中東研究で明らかにされたイスラム理解で、広大なイスラム世界を考察することにも警鐘を鳴らし、イスラムにおける地域的研究の必要性を説く。
そうしたイスラムの地域的研究を行っているものの目で、主として市民の方々を対象に講演したものが本書の内容である。イスラムへの幅広い知識が求められている折柄、また国際化に伴って異文化との接触が深まりつつある現状に照らして、アジアのイスラムについて考えていただく際に、多少なりとも参考になる点があれば幸いである。
講演とは面白いものである。時間は一時間三十分か二時間と相場が定まっている。一時間三十分ならば一時間十分、二時間であれば一時間四十分ぐらい話し、その間にスライドなども御覧いただいて、残りの約二十分間は質疑応答となる。終了後、今日話したことをふりかえると、あれも話せばよかった、これも話すべきだったと、反省することしきりであるが、もちろん後悔先に立たずである。
聴衆も男女ふくめて若い人あり、御老人あり、時には外国の方もいて、多彩である。会場に入ってから顔ぶれを見て、どう話を切り出すかを決め、話に入る。退屈されないよう脱線しながらのことなので、計画通りにはいかない。
「サバイ・サバイ」というタイ語がある。「あせらず、かしこまらず、のんびりやりましょう」というようなニュアンスの語で、庶民がよく使う言葉である。タイのイスラム社会調査をはじめてから、この言葉がすっかり気に入り、今や私は「サバイ・サバイ」を生活の信条としている。友人のタイ人学者はきわめて理知的で物事を適正に処理していくのだが、庶民感覚の「サバイ・サバイ」に魅せられてしまった次第である。
要するに、「サバイ・サバイ」で話したものなので、まとまった内容のものではないが、その折その折同じようなことについても多少は異なる点から話したり、論を進めたりはしているつもりである。「モザイクのアジア」といわれる多様性に富むアジア理解にとって、本書が少しでも役立つならば光栄である。御批正を御願いしたい。
最後に本書の出版にあたっては、上智大学石澤良昭教授から風響社の石井雅氏を御紹介いただいた。また家内の尊子には雑用を処理してもらった。記して感謝の意を表したいと思う。
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著者紹介
今永清二(いまなが せいじ)
1931年、大分県生まれ。
1955年、広島大学文学部卒業。
著書『中国回教史序説』(弘文堂、1965年)
『中国の社会と歴史』(明玄書房、1967年)
『中国の農村社会』(弘文堂、1968年)
『近代中国革命史』(弘文堂、1970年)
『福沢諭吉の思想形成』(勁草書房、1979年)
『The Research of Chinese Muslim Society in Northern Thailand』(Keisuisha、1990年

 

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