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ヴェトナムのコホー族

チル集団の社会と儀礼の変容

ヴェトナムのコホー族

フランス植民地、大戦、ヴェトナム戦争などを経たコホー族の社会変動を詳細に追い、少数民族の共通の歴史を描こうとする労作。

著者 本多 守
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学専刊
出版年月日 2011/01/30
ISBN 9784894891692
判型・ページ数 A5・328ページ
定価 本体7,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

まえがき
凡例

第1章 本書の目的
第1節 研究目的
第2節 用語の定義
第3節 先行研究と問題設定
3−1 リーチの研究
3−2 交叉イトコ婚と社会構造の安定をめぐる論争
3−3 ロウによる『高地ビルマの政治体系』批判
3−4 集団の組織原理と贈与交換
3−5 親族呼称の分析と霊的優越の問題
3−6 外因的変化と文化変容
第4節 ヴェトナムに関する民族学研究の現状と本書の位置づけ
4−1 ヴェトナムに関する民族学研究──親族を中心に
4−2 現行の民族分類の問題
4−3 家族と親族、社会構造
4−4 文化変容
第5節 調査と本書の構成
5−1  調査の概要
5−2 本書の構成

第2章 調査地の歴史と現在
はじめに
第1節 国家の中でのラムドン(Lâm Đồng)省の位置とその民族
1−1 行政区分
1−2 地理と現在の産業
1−3 ラムドン省北部の人口と居住する民族
第2節 外因的変化
2−1 ジュネーヴ協定前
2−2 ジュネーヴ協定後
2−3 革命(1975年)後──移住と生活の変化
2−4 ドイモイ後
第3節 革命後の宗教組織と現在
──ヴェトナム・プロテスタント聖会(南部)を中心に
第4節 調査地現況
4−1 ラクユオン県
4−2 ドゥクチョン県
4−3 ダムロン県
第5節 分析
[資料]
◎ラクユオン県
◎ドゥクチョン県
◎ダムロン県
◎ラムハー県
◎ ダラト市
◎ドンジュオン県

第3章 家族と親族
はじめに
第1節 居住形態と共同作業の組織方法
1−1 過去の家屋と共同作業
1−2 現在の家屋と共同作業
第2節 出自集団としての〈ムポール〉
2−1 出自集団〈ムポール〉の性格と出自集団の種類
2−2 出自集団〈ムポール〉の外婚規則
2−3 集落単位の《ムポール》の性格と婚姻規制
第3節 交叉イトコ婚とムポール間の繋がり
3−1 親族呼称にみる親族関係
3−2 イトコの範囲と序列
3−3 ムポール間の連盟関係〈ボ タム グル〉
3−4 母方交叉イトコ婚の理由
第4節 分析
4−1 チル集団の集団形成原理
4−2 ムポールの概念
4−3 母方オジの役割
4−4 外因的変化による文化変容
4−5 交叉イトコ婚に関する問題

第4章 婚礼と贈答
はじめに
第1節 配偶者の選択から婚姻まで
1−1 配偶者の選択
1−2 聞き取りによる配偶者選択事例──交叉イトコ婚の事例
1−3 婚姻の申し込みと受諾(ア〜ウの段階)
1−4 婚礼前日から婚礼当日(エ〜カの段階)
1−5 婚姻後の儀礼
第2節 記録されたノートの分析
第3節 財の概念とキョウダイ〈Ruh lo〉の関係
3−1 土地所有の概念とその変化
3−2 財産〈phan mona〉の概念とその変化
3−3 カチンとチル集団の贈答の違い
第4節 コンドミナスの記録したムノン族の婚礼
第5節 分析

第5章 葬礼と贈答
はじめに
第1節 他界観と葬礼
1−1 他界観
1−2 葬礼から埋葬まで
第2節 寡婦の死──葬礼の具体例
2−1 死亡から埋葬まで
2−2 埋葬後の儀礼
2−3 葬礼の変容の分析
第3節 葬礼における贈答
3−1 既婚男性の死亡事例(D1死亡事例:想定 図39参照)
3−2 既婚男性の死亡事例(死亡事例:事実1977年 図40参照)
3−3 参与観察による寡婦の死亡事例
第4節 死から生まれる婚姻への道
第5節 チル集団と「ムノン・チル部族」と他集団の葬礼
第6節 分析

第6章 霊的優越とコンバの役割
はじめに
第1節 命名儀礼(tung jur kon 祝降子)
1−1 命名儀礼と命名法(ラムハー県ダドン社 故地ダムロン県)
1−2 参与観察した事例(2004年10月10日 図46参照)
1−3 命名儀礼の事例(ドゥクチョン県フーホイ社 2006年)
1−4 命名儀礼と交叉イトコ婚(図48参照)
第2節 コンバの役割
2−1 婚礼のコンバ(図49参照)
2−2 葬礼でのコンバ(図49参照)
2−3 命名儀礼でのコンバ(図49参照)
第3節 〈ルロ〉の関係
第4節 分析

第7章 姻戚関係の変容と新しい婚姻関係
はじめに
第1節 交叉イトコ婚の減少と新たな婚姻までの過程
1−1 ジュネーヴ協定前の配偶者選択の基準
1−2 交叉イトコ婚の減少
1−3 変わる申し込みまでの過程
1−4 宗派の異なる結婚事例
第2節 異なる集団との婚姻からみるエスニック集団間の境界の変容
第3節 〈ルロ〉の関係の変容
3−1 〈ルロ〉の関係の重要性の低下
3−2 新しい関係の構築
3−3 維持される贈答のシステム
第4節 分析
4−1 婚姻圏の拡大
4−2 配偶者選択の基準にみるアイデンティティの崩壊と生成
4−3 チル社会の将来

終章 結論
はじめに
第1節 チル集団の社会構造
1−1 チル集団の構成要素
1−2 反論──母系制社会特有の不安定さの解消(第6章参照)
第2節 変動過程の分析
2−1 構成要素の変化
2−2 その他の構成要素の変化
2−3 リーチに対する反論──階層の問題
第3節 東南アジアの変動過程モデル
3−1 リーチのモデル
3−2 土地利用権の変動過程
3−3 婚姻連帯拡大型モデル(図60)
第4節 今後の課題

あとがき

参考文献
索引/写真図表一覧

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内容説明

東南アジアの多くの少数民族は、植民地化、キリスト教改宗、国家への編入、生業の転換という、共通の歴史的変動を担っている。本書は、ヴェトナム少数民族の社会変動を詳細に追い、個別の事例と少数民族の共通の歴史を描こうとする労作。

 

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まえがき


ヴェトナムは、19世紀からフランスの植民地となり、以後、現在まで大きな社会変動を受けている。その中には、ヴェトナム戦争、南北分裂、社会主義革命、ドイモイ政策といったターニングポイントが複数ある。私の調査地、ラムドン省は、地理的に西原(タイグェン)と呼ばれる中部高原地帯の最南端に位置する。ラムドン省の省都であるダラトは、フランス植民地期の20世紀初頭に別荘地として開発され、上述の大きなターニングポイントでさまざまな影響を受けながらも、現在、省の中心地、観光地として栄えている。


ダラト周辺の山岳部に居住していた少数民族たちも、フランス植民地期から農業労働者、あるいは道路建設労働者として外部と接触して経済的恩恵を受けた。ヴェトナム戦争の激化とともに、山岳部で焼畑耕作を行っていた少数民族たちは下山して故地を離れ、行政機構に編入され、今では平地で商品作物を作っている。その過程では、自分たちの宗教を捨て、キリスト教への改宗も行われた。彼らにとって、陸稲栽培から商品作物栽培へ生業を転換し、平地に居住することは簡単ではなかった。また現在では、自給自足経済から市場経済へ転換したことで、国際的な商品作物の価格変動に悩まされている。

このような大きな社会変動過程を前にして、東南アジアが経験した、植民地化、キリスト教への改宗、行政機構への編入、生業の転換という共通の歴史的事象を背景において、ヴェトナムの1少数民族をみつめることで、東南アジアの社会変動モデルを策定したいと考えたのである。

 

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著者紹介
本多 守(ほんだ まもる)
1961年神奈川県生まれ。1984年國學院大學文学部卒業、2009年東洋大学大学院社会学研究科社会学専攻博士後期課程修了。博士(社会学)。
現在、東洋大学アジア文化研究所客員研究員。専門は社会人類学。ヴェトナム中南部の少数民族を対象にヴェトナム国家大学ホーチミンシティ校人類学部と共同調査中。
論文に「ベトナム中南部少数民族の説話の分析(1)、(2)」『白山人類学』7、8(2004年、2005年 白山人類学研究会)等、編著に『ベトナム・ラムドン省のマー族、コホー族の文化─チル集団を中心に』(2007年、白山人類学叢書2 岩田書院)、翻訳書にチャンヴェトキーン著『ヴェトナム少数民族の神話─チャム族の口承文芸』(2000年、明石書店)、ラムトゥエーンティーン著『ランビアンの事蹟─中部少数民族の古伝承』(2000年、てらいんく)がある。

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