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06 インドネシアの学校と多文化社会

教育現場をフィールドワーク

06 インドネシアの学校と多文化社会

最大のイスラム教国でありながら、文化の多様性は国是ともなっている。地方の教育現場から見る多文化社会の実像。

著者 金子 正徳
ジャンル 人類学
シリーズ 京都文教大学 文化人類学ブックレット
出版年月日 2011/03/31
ISBN 9784894897663
判型・ページ数 A5・54ページ
定価 本体600円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

Ⅰ 地方にみる多文化の現在
 1 ランプン州の背景
 2 言語から見るランプン社会

Ⅱ インドネシアの学校と多文化
 1 植民地期の学校世界
 2 現代インドネシアの学校世界
 3 教育内容

Ⅲ ランプン州における文化のまなび
 1 「滅びゆく」言語を学ぶ
 2 伝統的な刺繍を学ぶ
 3 言語・文化の再生?

おわりに

資料
〈資料1〉インドネシアの地理的歴史的情報
〈資料2〉植民地期の学校制度(初等教育)
〈資料3〉インドネシアの公教育制度
〈資料4〉教育内容(1989年と2003年の国民教育体系法の比較)
〈資料5〉インドネシアにおける教育の諸相
〈資料6〉ランプン文字
〈資料7〉ランプンの小中学生の一日
〈資料8〉インドネシア調査手続き概要

 参考文献
 本書をもっと理解するために

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内容説明

二億余の人口が世界最多の島嶼群に暮らすインドネシア。最大のイスラム教国でありながら、文化の多様性は国是ともなっている。地方の教育現場から見る多文化社会の実像。

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はじめに

本ブックレットの目的は次の二点である。まず、インドネシアにおける教育事情を紹介すること、つぎに、教育をめぐる具体的な事例を通して、現代のインドネシアにおける多文化社会のありようを、文化人類学的な視点で分析することである。

この目的を果たすために必要となるのは、現地に赴き、人びとの間で滞在しながら実際に観察や聞き取りをすることでデータを集める「フィールドワーク」である。文化人類学的研究の根幹であるフィールドワークは、野外や現地/現場を意味する「フィールド」と、仕事や研究を意味する「ワーク」というふたつの単語が組み合わさった語で、対象となる現地/現場においておこなう研究活動を指す。広い意味での「フィールドワーク」は、事前、事後を含み、大きく五つの段階に分けることが出来る。(一)研究計画立案と準備、(二)対象となる場所やテーマに関して、地理的・歴史的・行政的背景や一般的な情報について文献や先行研究にもとづき調べる事前調査、(三)現地におもむいて、テーマに関連する聞き取りや資料収集をおこなう本調査と補充調査、(四)調査中および調査から戻ったあとの分析/研究、(五)印刷物や映像、音声など、さまざまな形や媒体での成果公開である。なお、文化人類学の研究成果は、特にエスノグラフィ(民族誌)という名称で呼ばれるが、このブックレットもエスノグラフィの一種である。

本ブックレットが対象地域とするインドネシアは、一億数千万人のジャワ人をはじめとして数百の大小さまざまな民族で構成される多民族国家である(図1)。言語についても、国語であるインドネシア語のほか、人々の生活のなかで、総数で数百に及ぶとも言われる多様な言語が日常の中でいまも用られている多言語国家でもある。それぞれの民族や地域によって、独自の芸能、伝承、しきたりなどの文化/伝統を伝えている多文化国家でもある。宗教についてみれば、人口の約八七%がイスラム教を信仰しているため、それ以外の宗教を信仰するひとびとの生活もイスラム教に大きな影響を受ける。同時に、仏教、ヒンドゥ教、キリスト教、儒教などの多様な宗教を信仰するひとびと、精霊や祖霊をまつる伝統的な信仰をまもり伝えるひとびとがともに暮らしている多宗教国家でもある。

多民族、多言語、多文化、多宗教の中で、国としての統一を維持し続けていくことは、インドネシア共和国が抱える最大の課題でありつづけている。複雑な歴史的過程を経て形成されてきた民族、言語、文化、宗教の多様性のうえに、インドネシア国民の統一を築き上げてゆくためのスローガン「多様性のなかの統一(bhinneka tunggal ika)」はいまも、インドネシアにおいて重要な国是である。他方で、独立後六五年が経ち、国語であるインドネシア語の普及や首都ジャカルタを中心として作られてきた国民文化の広まりにより、言語や文化の多様性が徐々に失われつつある今、かつてはあたりまえのものであった民族、言語、文化、宗教の多様性を未来へ向けていかに維持していくのかという新たな課題が浮かび上がっている。このような動態の中で、学校が言語や文化に対して果たす役割もまた、大きなものになっている。

しかしまずは、現代のインドネシアが経験した多文化社会の形成と変容を、スマトラ島南部のランプン州に生きる人々の事例からみていきたい。……

 

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金子正徳(かねこ まさのり)

京都文教大学・特任実習職員(教育GP担当)。国立民族学博物館・外来研究員。

・主要な論文:

「婚姻に見る民族集団間関係とアダット(慣習):インドネシア・ランプン州プビアン人社会の事例から」『国立民族学博物館研究報告』32巻3号(2008年)、「アダット(慣習)とクブダヤアン(文化): インドネシア・ランプン州プビアン人社会における婚姻儀礼の事例を中心として」『文化人類学』72巻1号(2007年)、「インドネシア新秩序体制下における「地方」の創造:言語・文化政策とランプン州の地方語教育」『東南アジア研究』40巻2号(2002年)など。

・その他の業績:

「生きもの博物誌:世界を動かした熱帯の植物:コショウ」『月刊みんぱく』(2009年8月号)、「万国津々浦々:電子的な消費生活」『月刊みんぱく』(2007年8月号)など。

 

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