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ことばをデザインする 65 新刊 これから出る本

ウズベク語とタジク語の一世紀

ことばをデザインする

政府主導で知識人たちがデザインし作った「ことば」たち。「1民族1言語」というイデオロギーの実践とその時代を描く。

著者 井土 愼二 著
ジャンル 歴史・考古・言語
文学・言語
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2026/10/25
ISBN 9784894890701
判型・ページ数 A5・58ページ
定価 本体700円+税
在庫 未刊・予約受付中
 

目次

はじめに

  本書について

  ★コラム0──中央アジアとソ連

一 ウズベク語

   標準ウズベク語の創出
   語法
   書記体系
   発音
   現況

  ★最初のコラム──マハッラ は MAHAႱႱA

二 タジク語

   標準タジク語の創出
   語法
   書記体系
   発音
   現況

  ★2つ目のコラム──そっくりな語法

三 ユダヤ人語

   標準ユダヤ人語の創出
   語法
   書記体系
   発音
   現況

  ★3つ目のコラム──stasta「すたすた」

四 ウズベク語? タジク語?

   ブハラのタジク語
   語法
   書記体系
   発音
   現況

  ★4つ目のコラム──貼り紙にはウズベク語を

おわりに

  ★最後のコラム──爆誕!「ƣ」

註・参考文献
あとがき

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内容説明

「1民族1言語」というイデオロギー
20世紀初頭、政府主導で知識人たちがデザインし作った「ことば」たち。本書はその顚末を見てきたかのように描く、いわば言語学の「奇譚」だ。ことば好きのあなた、中央アジア近現代史偏愛のきみたちなら、きっと笑える、おっと、うなづける一書である。


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      はじめに より




 ──ことばって作れるんですか?

 ──実は、作れるんです。難しそうに見えるかもしれませんが、ポイントさえ押さえればとても簡単ですよ。本日は政府を使って、短時間で二品仕上げます。政府は少し重たいですが、その重さが安定したことばにつながります。知識人のデザイン力で一気に火を通しますので、ことば作りがぐっと身近になります。

 

 さて、本書の主題であるウズベク語とタジク語は20世紀初頭に作られた。いずれも、時の政府が音頭をとり、知識人たちがデザインして、作られたことばである。

 このようにつくられたことばは珍しくない。ウズベク語とタジク語以外にも、近代にはかなりの数のことばが政府主導で作られている。このような形でことばが作られるようになった一因はある考え方の流行にあった。

 20世紀初頭にはある考え方が世界中で流行していた。現代でもまだ流行っているそれは、一体としての「民族」とその「ことば」という考え方である。両者は順不同で一体。ことばを共有する集団は民族、民族を成す集団はことばを共有する。そんな考え方である。近代には国民国家(民族国家)という概念も流行ったので、これらに「国家」を加えて一体とされることもあった。暗緑色の街宣車から聞いた気がする「日本民族の日本語と日本国」の根っこにある考え方である。

 この考え方は、20世紀初頭には後に超大国となるソビエト連邦にも届いていたようである。その時期のソビエト政府は、連邦内の各所で「1民族1言語」セットや「1民族1言語1国家」セットを作った。

 このセット作りが行われた地域の一つが中央アジア南部である。ここは20世紀初頭にソビエト連邦の一部になった。ソビエト政府は早速ここでセット作りを始めた。始めたはいいが、肝心の地元民の多くは、民族にも、それと一体のことば、という考え方にも、馴染みが無かった。

 そんな地元民は当時こう言ったかもしれない。

 「民族? なにそれおいしい?」

 「ことば? いくつか使うよ」

 対するソビエト政府はこんなことを言っていたらしい。

 「民族とは何か? 民族的特徴を共有してる人々でしょ?」

 「民族的特徴とは何か? 例えばことばとか?」

 話がかみ合っていない。しかし、ソビエト政府は気にしなかったようである。続けてこんなことも言いだしたらしい。

 「民族のことばを整備しないと」

 「大きめの民族は国を持たないと」

 一体としての民族とそのことばが中央アジア南部にあればソビエト政府としては好都合だったろう。しかし、わかりやすい「一民族一言語」セットは無かった。「一民族一言語」セットが無くても、ソビエト政府の路線変更は特になかったようで、民族が無ければ適当な集団をまとめて作った。民族のことばが無ければ適当なことばをまとめて作った。大きめの民族には国だって作った。

 そうした結果は現代に受け継がれている。今日、中央アジア南部には大きめの民族が二つあり、それぞれが国とことばを持つ。即ち、

 ウズベク人とタジク人。

 ウズベキスタンとタジキスタン。

 そして、ウズベク語とタジク語。これが本書の主題である。

 上記の民族・国・ことばは20世紀初頭に作られた。これらのうち、ことば、つまりウズベク語とタジク語が作られ始めたのは1920年代だった。当時の文筆家や教師たちは、出版に用いられ、学校で教えられることを念頭に、これらのことばをデザインしていった。彼ら知識人は会議に集い、文字種、母音の数、規範的な語法などを決めていった。本書はこのデザインの過程を概観していく。

 

本書について



 本書は、取りつきやすさを厳密さに優先させる。本文中では専門用語を用いない。複雑な説明は単純化し、詳細な説明は諸論文に譲る。

 本書には中央アジアと西アジアという語が頻出する。両者は隣接するが、その境の決め方はいろいろある。本書の次節以降では、前者をアム川流域とその北側、後者をその流域より南側の地域とする(図1参照)。

 本書は「ことば」という語を多用する。言語とも方言とも呼びにくいことばが本書には登場するからである。一方、言語という語はあまり用いない。用いる際は、標準化されたことばにのみ用いる。標準化とはことばをデザインすることである。上に記したように、この過程で、例えば、文字種、母音の数、規範的な語法などを定める。定められる事項は次節以降を読むことで了解されるはずである。

 本書は四節から成る。第一節と第二節では、ウズベク語とタジク語の成り立ち、標準語の創出、そして現況を説明する。タジク語から独立し、その四半世紀後にタジク語に編入されたユダヤ人語の説明に第三節を割く。これらの三節であつかうことばは、いずれも標準化されたものである。これらとの対比に供する形で、ある標準化されていないことばを、終節である第四節で概説する。オアシス地域で用いられる、ウズベク語ともタジク語ともつかないことばである。




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著者紹介
井土愼二(いど しんじ)
東京生まれ。
シドニー大学博士課程修了。名古屋大学大学院教授。
近年の業績:
「A spectral analysis of the voiceless postalveolar fricative in two varieties of Tajik」(『Handbook of Phonetics and Phonology of Modern Iranian Languages』、2026年、Springer Nature)
「The elusive vowel inventory of standard Uzbek」(『Turkic Languages』30(1)、2026年)
「Illustration of the IPA: Uzbek」(『Journal of the International Phonetic Association』55、2025年)
「A Persian-lexified pidgin recorded in 18th-century Japan」(『The Handbook of Persian Dialects and Dialectology』、2025年、Springer Nature)
『Tajik Linguistics』(編著、2023年、De Gruyter Mouton)

https://www.hum.nagoya-u.ac.jp/~ido/

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