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台湾原住民研究 日本と台湾における回顧と展望

台湾原住民研究 別冊2

台湾原住民研究 日本と台湾における回顧と展望

原住民出身の研究者からの報告も交え、従来の研究蓄積を新たな視点から振り返り、今後の方向性を模索した挑戦的な内容。

著者 台湾原住民研究シンポジウム実行委員会
ジャンル 定期刊行物
シリーズ 雑誌 > 台湾原住民研究
出版年月日 2006/01/30
ISBN 9784938718657
判型・ページ数 A5・224ページ
定価 本体2,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

シンポジウムの概要 台湾原住民研究シンポジウム実行委員会

[記念講演]
台湾原住民族研究の新趨勢:採蜜から養蜂へ  林修[シ+撤-手](呂青華訳)

[報告]
台湾原住民族史研究の回顧  王雅萍(及川茜訳)
台湾原住民語の能力認定とその振興  陳誼誠(松崎寛子訳)
二月政治改革と原民会の設立  黄鈴華(久保田祐紀子訳)
拡散し束ねられる村むら:ツォウの社会実践をめぐる〈二項対立同心円モデル〉再考  宮岡真央子
〈部落地図〉作成運動:台湾・ブヌンの事例から  石垣 直
サキザヤ(奇莱族)の民族認定  陳俊男(及川茜訳)
大分事件 ブヌン・ダホ=アリ(Dahu Ali)首謀説の真相  余明徳(三浦久仁子訳)
戦後における日本統治時代の「理蕃政策」関連文献をふりかえって:日本と台湾の比較  石丸雅邦
台北州警察衛生展覧会理蕃館に於ける原住民表象の分析  石川 豪

[特別講演]
民族学/民族誌学群は現在も有効な学問なのか  金子えりか

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内容説明

2005年、東京外大AA研で行われた日米・台湾の国際シンポジウムの成果。原住民出身の研究者からの報告も交え、従来の研究蓄積を新たな視点から振り返り、今後の方向性を模索した挑戦的な内容。『台湾原住民研究』別冊シリーズの2。


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シンポジウムの概要


2005年(平成17年)3月26日,27日の両日,東京府中の東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所を会場にして国際シンポジウム「台湾原住民研究:日本と台湾における回顧と展望」が開催されました[資料1]。この国際シンポジウムは1年前の2004年4月頃から計画されていたもので,主催したのは台湾原住民研究会の有志です。2日間にわたって,記念講演と特別講演,9件の研究報告,それぞれのコメントと質疑応答,そして総合討論などが行われました[資料2]。海外からの招待者は,台湾が6名,アメリカが2名で,そのほかに台湾留学中の日本人大学院生2名が参加しました。シンポジウム参加者の総数は80名余り。全体としては台湾原住民研究を専門にする日本人研究者と大学院生が中心でしたが,それだけではなく,関連分野の研究者,台湾原住民に関心を寄せる日本の一般参加者,台湾からの参加者,台湾出身の留学生,さらには日本に住む台湾原住民の方も見受けられました。研究発表をした台湾の大学院生がほとんど台湾原住民であったことも特筆されるべきことです。「台湾原住民研究」の名称でこれだけの規模の国際シンポジウムが日本で開催されたのは,まちがいなく今回が初めてのことでしょう。


このシンポジウムの主旨は,副題にも示しましたように,これまでの台湾原住民に関する学術研究の蓄積と台湾原住民が現状において抱えているさまざまな問題との接点を探ることにありました。課題をあまり狭く絞らずに,むしろ多様な問題群があることを明らかにしながら,それらを一堂に会した各国の研究者たちが論じ合うことによって,そこから共通の理解,新しい研究への取り組みを導き出すのが目的だったわけです。台湾,アメリカ,日本の研究者,専門領域の異なる研究者がそれぞれ問題意識を語り,互いに認識の重なりを共有することができれば,今後の研究に裨益するところも大きいことでしょう。また,このシンポジウムでは,指導的な研究者による講演,若手を中心にした研究報告,ベテランおよび中堅によるコメントという構成を意図して採ることにしました。国や学術言語の違いだけではなく,年齢やキャリアの差をうまく織り込んで,過去の研究と現在の研究を結びつけるような議論の広がりを期待したのです。


台湾から参加していただいたのは,林修?教授,王雅萍講師はもとよりのこと,大学院生の陳誼誠(アミ),黄鈴華(セデック),陳俊男(サキザヤ),余明徳(ブヌン),石丸雅邦の諸兄姉もすべて国立政治大学の所属です。石川豪氏だけが国立台湾大学大学院に所属しています。また,日本側で研究報告をした宮岡真央子,石垣直の両氏もやはり最近の台湾留学経験者です。林教授の率いる国立政治大学原住民族語言教育文化研究中心(ALCD)が,いま台湾で原住民族政策の中心的な推進役になっていることは日本の研究者にもよく知られているでしょう。同中心(センター)には,2003年の夏に台北木柵の国立政治大学で台湾原住民研究会有志との交流集会を開いていただいたことがあります(『台湾原住民研究』8号の掲載記事「国立政治大学で開催された〈台湾・日本学術界原住民族研究座談会〉」を参照してください)。そのときの交流から,今回の国際シンポジウムを実現する道が拓かれたのです。


アメリカからは,日本人研究者で現在ロサンゼルスにお住まいの金子えりか先生,そして,デューク大学の荊子馨(Leo Ching)助教授をお招きしました。金子先生の長年にわたる台湾原住民研究,日本学界および国際学界におけるご活躍については,あらためて紹介するまでもありません。荊助教授は,台湾研究をはじめとする優れた著作活動などで注目を集めているアメリカの研究者で,本シンポジウムでは日本語で鋭い発言をしてくださいました(『台湾原住民研究』8号には荊助教授の著書に関する金子先生の書評が掲載されていますが,その書評執筆の時点では,今回このシンポジウムにお2人が同席することは全く予想できませんでした)。なお,もう1人,計画の当初段階ではラファイエット大学のポール・バークレー(Paul D. Barclay)助教授を招待する予定でしたが,ご都合により参加することができなくなりました。同氏はその代わり“Profits as Contagion, Production as Progress”と題する英文論考を寄せられ,また後からはそれを改稿した日本語訳も作成されました。日本語訳の方は『台湾原住民研究』9号に掲載されます。


日本側から趣旨説明,司会,座長,コメンテーターを務めたのは大部分が台湾原住民研究会のメンバーです。実行委員を後回しにして発言順に言いますと,山田仁史,野林厚志,土田滋,蛸島直,小川正恭,原英子,角南聡一郎,石垣直,小林岳二,山路勝彦,森口恒一の諸氏,および実行委員の山本芳美,末成道男,笠原政治,清水純がそれぞれの役目を担当しました。また,そのほかに台湾政治の研究者として名高い東京大学の若林正丈教授には,とくにご専門を考慮して黄鈴華さんの発表に対するコメンテーターをお願いしました。


両日のシンポジウムでは,記念講演,特別講演,各研究報告とコメント,総合討論などを通して,台湾原住民に関する多彩な研究の成果が発表されました。また,会場の一般参加者からも適切な発言や質問が寄せられて,ときには白熱した議論も交わされました。言葉の壁を低くするために,コメントを含む全発表原稿を双方向に翻訳して日本語版と中国語(漢語,華語)版の2種類をあらかじめ用意し,さらに5名の優秀な通訳担当者がコメント,質疑応答,総合討論などを2言語相互に口頭で訳すという実施体制で臨んだことが大いに効果的でした。しかし,それでも通訳付きの議論には間怠っこしい面もあったらしく,中央研究院の李壬癸先生のようにすべて英語で発言されるという方もおられました。それだけ当日の議論が盛り上がりをみせたとも言えるでしょう。


ここに収録するのは,3月26日,27日の国際シンポジウムで口頭発表された全講演と研究報告の発表原稿ですが,日本で刊行される印刷物であるため,中国語による発表についてはそれぞれの日本語訳だけに限りました。当日はパワーポイントを使った発表が多く,正確に言えば,これらは前もって発表者に提出していただいた原稿です。ただし,シンポジウムの終了後に内容の一部が修正されている場合もあります。コメントや,中・英・日の3言語とその通訳によって交わされた質疑応答などが掲載できず,会場の雰囲気を余すところなく伝えられないのが残念ですが,シンポジウムにおける各発表の内容は十分に理解していただけると思います。


本シンポジウムは,日本学術振興会の国際研究集会助成,財団法人交流協会日台交流センターの共同研究助成,および東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の支援を受けて実現することができました。共催の形で東洋大学にもお世話になりました。また,日台交流センターの大和滋雄前所長には,このシンポジウム計画そのものの端緒を開いていただきました。三尾裕子助教授をはじめとする東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の皆様には会場を拝借しただけではなく,さまざまな便宜をはかっていただきました。そして,台湾,アメリカ,日本各地からご出席くださった方々,わざわざ会場に足を運んで議論に加わってくださった方々,翻訳,通訳,運営に尽力してくださった若い方々,すべての関係機関,関係者各位に感謝の意を表します。


3月下旬の東京は両日ともに晴天ではありましたが,今年は桜の開花が遅く,満開のソメイヨシノに囲まれてシンポジウムを行うことができませんでした。それだけが残念です。

(以下、省略)

(文責:笠原政治)


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執筆者紹介
林 修 [シ+撤-手](Lim, Siu-Thet) 国立政治大学民族学系教授
王 雅 萍(Ong, Nga-Phing) 国立政治大学民族学系講師
陳 誼 誠(Chen, I-Cheng) 国立政治大学民族学系博士班
黄 鈴 華(Whung, Lin-Whua) 国立政治大学民族学系博士班
宮岡真央子(みやおか まおこ) 東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程
石垣 直(いしがき なおき) 東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程
陳 俊 男(Chen, Jun-Nan) 国立政治大学民族学系博士班
余 明 徳(Yu, Ming-Te) 国立政治大学民族学系博士班
石丸雅邦(いしまる まさくに) 国立政治大学政治学系博士班
石川 豪(いしかわ たけし) 国立台湾大学人類学系碩士班
金子えりか(かねこ えりか) 元早稲田大学講師

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