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26 チベット人の民族意識と仏教 26

その歴史と現在

中国の仏教弾圧により民族意識は強化され、チベット仏教の平和思想ゆえ独立運動は抑制される。政治と宗教の奇妙な対立の構図を検証。

著者 日高 俊
ジャンル 歴史・考古・言語
シリーズ ブックレット《アジアを学ぼう》
出版年月日 2012/10/25
ISBN 9784894897564
判型・ページ数 A5・56ページ
定価 本体700円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに
一 一九五一年以前のチベットの状況
 1 チベットの「前近代」
 2 チベット民族意識の萌芽──ヤングハズバンドの遠征と清朝軍のラサ侵攻(一八七六─一九一三)
 3 ダライラマ十三世による「近代化」運動とその挫折(一九一三─一九三三)
 4 ダライラマ十四世の登場と人民解放軍のラサ進軍、十四世の亡命(一九三四─一九五九)
二 チベット人の民族意識
 1 中国領チベットと亡命チベット人社会における「民族」──チベット族とチベット人
 2 民族意識の源泉──亡命チベット人社会における中国政府の弾圧の記述
 3 チベット民族意識の拡大──「ヒマラヤ民族運動」
三 チベット民族と仏教
 1 民族意識とチベット仏教
 2 民族を越えるチベット仏教──ダラムサラの漢人たち
おわりに
補遺
あとがき

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内容説明

 

中国の仏教弾圧によりチベット人の民族意識は強化され、チベット仏教の平和思想ゆえ独立運動は抑制される。政治と宗教を同じ土俵に載せない奇妙な対立の構図を現場から検証。

*********************************************

 チベット問題は、二十一世紀に残る大きな課題の一つである。最近でも東チベットに端を発したチベット仏教僧の焼身自殺が、世界中のメディアで報じられた。これらは、よく漢民族とチベット民族のあいだの民族問題とされる。そう考える人々にとっては、冒頭のような光景は信じがたいかもしれない。しかし、それは紛れもなく現実である。そしてこの光景はチベット問題を単なる民族問題とみるべきではないことを如実に物語っている。 では、このチベット問題を我々はどのようにみるべきなのであろうか? 本著ではこの問題について、民族意識と仏教をキーワードとして考えていきたい。具体的には、まずチベットが「近代の衝撃」を受けた結果、原初的ながら民族意識が生まれ、「近代国家」を目指したダライラマ十三世時代を中心に、一九五九年の十四世亡命までの状況をふり返る。その際には『見えざる者の案内』や『ダライラマ十三世伝』といったチベット語史料を中心に、英語や漢語の史料も用いる。チベット語史料を中心にするため、その歴史はチベットから見たものとなる。そして後半は、現在のチベット、特に亡命チベット人社会の状況について紹介することとする。 チベット問題は、二十一世紀に残る大きな課題の一つである。最近でも東チベットに端を発したチベット仏教僧の焼身自殺が、世界中のメディアで報じられた。これらは、よく漢民族とチベット民族のあいだの民族問題とされる。そう考える人々にとっては、冒頭のような光景は信じがたいかもしれない。しかし、それは紛れもなく現実である。そしてこの光景はチベット問題を単なる民族問題とみるべきではないことを如実に物語っている。

 では、このチベット問題を我々はどのようにみるべきなのであろうか? 本著ではこの問題について、民族意識と仏教をキーワードとして考えていきたい。具体的には、まずチベットが「近代の衝撃」を受けた結果、原初的ながら民族意識が生まれ、「近代国家」を目指したダライラマ十三世時代を中心に、一九五九年の十四世亡命までの状況をふり返る。その際には『見えざる者の案内』や『ダライラマ十三世伝』といったチベット語史料を中心に、英語や漢語の史料も用いる。チベット語史料を中心にするため、その歴史はチベットから見たものとなる。そして後半は、現在のチベット、特に亡命チベット人社会の状況について紹介することとする。

 本論に入る前に、まず「チベット」、「中国」といった用語の定義を行っておく。定義はそれだけで政治的意味づけを持つため、容易にはできない。たとえば「チベット」がどの範囲を指すかについては中国政府とチベット亡命政府の主要な争点の一つとなっている。従って、ここで筆者が行う定義はあくまでも便宜的なものに過ぎないことをあらかじめお断りしておきたい。 まずはその「チベット」の範囲についてである。これには大きく三つの考え方がある。 第一のそれは、現代中国におけるチベット自治区であり、恐らくは「チベット」と聞いて一般にイメージされる範囲と思われる。しかし、これは第二の「チベット」からすれば西および中央チベットと東チベット西部を加えた部分に過ぎない。 第二の「チベット」は、この「自治区」に加えて、現在では中国の省となっている北東チベット(青海省の大部分および四川省・甘粛省の一部)および東チベット東部(四川省西部および青海省・雲南省の一部)をも合わせた地域である。この範囲は亡命政府の主張する「チベット」であり、中国政府いうところの「蔵(チベット)族地域」ともほぼ重なっている。 第三は、チベット文化圏すなわち、チベット文化を持つ「チベット人」が住む地域である。それは第二の「チベット」に、独立国ブータン、インド領ジャンムカシュミール州北東部ラダック、ヒマーチャルプラデーシュ州北東部スピティ、ラホール、東部キンノウル、シッキム州全域、およびアルナーチャルプラデシュ州西部タワン、ネパール北部ムスタン(ロマンタン)およびドルポなどを合わせた地域である。 このような状況を俯瞰した上で、本書では第二の「チベット」をチベットとして話を進める。それは、本書前半の舞台が北東チベットや東チベットも含むものであること、また、本書後半で主に取り扱う亡命チベット人社会で「チベット」とされるのもこの範囲だからである。従って、本書でのチベット人は、チベットに住んでいる、あるいはそこから亡命してきた(または亡命者を肉親に持つ)チベット文化を持つ人々の総称となる。

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著者紹介

日高 俊(ひだか しゅん) 1980年、宮崎県生まれ。

大谷大学大学院文学研究科国際文化専攻博士後期課程満期退学。大谷大学文学博士。 現在、大谷大学非常勤講師。

主な論文に「1927~28年におけるポユル・カナム領主の反乱について:ガンデンポタン政権による「近代化」とその影響」(『日本西蔵学会会報』第57号)、「民国成立期(1912-13)中国とダライ・ラマ政権:ダライ・ラマ帰還と和平交渉」(『中国研究月報』第62巻第8号)などがある。

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